第4章:ゼーガン砦攻防戦

プロローグ

――ポメラニア帝国歴259年3月28日 ショウド国:中央の中州地帯――


 この日、ショウド国とポメラニア帝国の最前線である野営地から放たれた伝令がショウド国の宮廷に到着する。その半虎半人ハーフ・ダ・タイガの伝令は自分はサラーヌ=ワテリオン征東セイトウ将軍の部下だと名乗る。


 宮廷前の衛兵たちは一度、互いの顔を見合わせた後、こくりと頷き合い、その伝令を宮廷の奥へと通すのであった。


「ふむ……。ついにちんに出向けと。サラーヌはそう言っていたと?」


 伝令から書状を受け取ったショウド国:国主:ネーロ=ハーヴァは、金と銀の装飾が施された大理石製の椅子に取り付けられた右側のひじ掛けに体重を預けながら、まさに不愉快そのものと言った顔つきで伝令に確認するのであった。


「はい。ポメラニア帝国を攻めるための橋頭保きょうとうほとなるゼーガン砦を攻める準備が整いました。あとは陛下のご出陣を待つだけですみゃ~」


 伝令は片膝をつき、頭を下げたままで、そうネーロ=ハーヴァに応えるのであった。しかしながら、ネーロ=ハーヴァとしては承服しかねることであった。サラーヌ征東セイトウ将軍を始め、五虎将軍の内、4名もの将軍がポメラニア帝国を攻めるいくさに従事している。


 自分が最前線に立てば、ポメラニア帝国とのいくさは、これ以上に戦火が広がっていくのは間違いないだろう。ショウド国独立がこのいくさにおける錦の御旗では無かったのか?


 まるで、ポメラニア帝国との全面戦争をサラーヌ征東セイトウ将軍は望んでいるかのようであった。しかし、玉座でただ黙って座しているわけにもいかない事情がネーロ=ハーヴァにはあった。


 公然と戦場への出陣を拒否すれば、錦の御旗に唾を吐いたのは、ネーロ=ハーヴァ、貴様ダワス! とサラーヌ征東セイトウ将軍に糾弾されるのは眼に見えていた。


(奴にちんを玉座から排除する正当性を与えるわけにはいかないのでおじゃる)


 ネーロ=ハーヴァは重い腰を上げて、伝令に告げる。


「承服したのでおじゃる。サラーヌが何を考えているかはわからぬが、ポメラニア帝国からの独立はショウド国の悲願なのでおじゃる。ちんも最前線で采を振ろうなのでおじゃる!」

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