転生少女と平凡少年の物語

flaiy

第1話

空が真っ赤に染まっている。動きやすいように軽装で、右手には腕ほどの長さのある、直剣を持っている。


私の国に隣国から敵が攻めてきて、数日が経っていた。食料も底を尽きかけ、篭城はもう限界だった。


私達騎士団が対抗するも、やはり厳しい。騎士団といっても、この国の騎士団はそこまで強くない。女である私が団長を務める程なのだから。


敵の騎士が私を追いかけてくる。全身を鎧で固めているくせに、走るのはかなり速い。彼等の国の騎士団の特徴である、青い馬の尻尾のような飾りが、一歩ごとに揺れる。


私が今駆けているのは、燃え盛る村の中。みんなに白くて綺麗だと褒められた肌は、色々なところに煤が付き、黒くなっている。


「かかってこい、相手をしてやるっ!」


逃げるのはやめだ。どうせ城には帰れないし、やがて追い付かれる。敵は三人。倒せない数ではない。


「すばしっこい女だな。だが、我々の手により、その身は滅びゆく。最後に言いたいことはあるか?」


「ないわ……それに、殺されるつもりも同様にね」


剣を構える。この剣では、あの鎧を貫くことは難しいだろう。しかし、誰かが助けに来てくれる希望もある。戦っている騎士は、私だけではないのだから。


「そうか……死ぬがいい、女の騎士団長」


敵の一人も剣を構える。残りの二人は、片方が大剣、もう一人はロッドだから、魔法でも使うのだろう。魔法使いに鎧とは……贅沢なものだ。


しばしの間、静寂がこの場を包む。そして、私と正面の男が同時に地面を蹴り、剣が交錯する。火花が飛び散り、甲高い音と共に、──私の剣が半ばで折れた。


「──っ⁉︎」


急いで後ろに下がる。半分になった剣を持ったまま、敵の次の攻撃をかわす。次の攻撃の前に、半分になった剣で飛び掛かるが、リーチの問題であっけなくかわされる。


「そんなお可愛い武器で大丈夫か?」


後ろの敵二人が笑い声を上げる。敵の一人ですらこんななのだから、残りの二人が手を出さないのはありがたいのかもしれない。例えその理由が、私など敵にすらならないという表れでも。


「……一人は道連れにする。覚悟なさい」


自分を奮い立たせるために、覚悟を口にする。この半分の剣で敵を倒すのは、ほぼ無理だろうが。


私の言葉に三人が笑い声を上げる。別に恥ずかしくなどない。これは、死にゆく私の、決意の言葉だ。笑って調子に乗る輩を、この手で殺すための──


「やあぁ──っ‼︎」


笑って腹を抱える目の前の男に斬りかかる。しかし、男が左腕の籠手だけで、私の剣を受け止め、そして、更には剣に新たな亀裂が入る。あと一度攻撃すれば、残るのは柄だけだろう。


「甘いな。それで死ぬのは、あんたのところの、雑魚騎士どもだけだ」


「かはっ⁉︎」


腹を蹴り飛ばされる。転がり、残りの二人の目の前で止まる。持っていた剣は、途中で落としたらしい。


「──様っ⁉︎」


遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。しかし、もう答える気力はない。


「さて、終わりだな」


大剣を持った男が、動かない私を見て、ゆっくりとした動作で剣を振り上げる。蹴られて痛む腹を押さえて蹲っているが、この男は相手を見下し過ぎだ。


振り下ろし始めた瞬間、私は立ち上がって男の腕を左手で、胸プレートを右手に引っ掛けて、背負い投げをする。


男が驚きの声を出して飛んでいく。運悪く、プレートに右手の人差し指が引っ掛かり、爪が剥がれる。顔を顰めて我慢するが、後ろで聞こえた声で自分の身に、危険が舞い降りる、しかも逃げる猶予がないことを悟った。


さっきの仲間は、近付いてはいるが、間に合わないだろう。かく言う私も、内心ではもう、諦めているらしい。


「さて、面倒くさい敵の騎士団も、これで壊滅だな。死にな……《バーニングブレア》」


これは火炎魔法。目の前の敵を焼き尽くしてしまう。そして私も、例外ではない。


親からの遺伝である金髪は焼け焦げ、煤で汚れていた肌は水分が蒸発して爛れ、服も殆ど焼けて炭になった。


私は、どうやら死んだらしい。気になる人など、一人もいない、寂しい、悲しい、小さく短な私の命が、ここで尽きた。



俺は椅子の背もたれに、全体重をかけた。小学校の頃から使い古しているお気に入りだが、そろそろ買い替えを考えないといけない。俺の体重の問題もあるだろうが、結構な音でギシシシと悲鳴を上げている。


俺、昏奈蒼は、ネトゲ廃人だ。周囲、といっても数少ない友達ではあるが、そいつらからは自称と言われている。つまり、そこまでの腕ではない。


そして、今回もその腕のなさが影響して、アバターのHPがなくなると、そのアバターが消滅するという、通称“デスゲーム”にて、お気に入りだった金髪紅眼の“アリス”と名付けたアバターを失った。


一週間かけてレベル上げしたのに、このザマである。だから自称というのも否定できない。


「……新しいアバター作るか」


失ったアバターは戻ってこない。だから、新しいアバターを作るしかないのだ。しかも、新しいアバターには千円という金がかかる。


「……明日でいいや」


パソコンの電源を落とし、ベッドに転がった。今日が火曜日だから、明日もいつも通り学校はある。正直行きたくないが、友達に心配かけるわけにはいかないし、プリントとかの手間もかけれない。


これは俺の性分みたいなものだから、仕方がなかった。ただ、今が夜中の三時なので、授業中の寝落ちは避け難いだろう。また学級簿で頭を叩かれるのか。でもまあ、いつものことだし、気にしないでいいか。


ブルーライトの影響で寝にくいので、結局アバターを作ってから三十分かけて寝付きました。

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