《律目録》『五刑』『八虐』『六議』

名例第一

衛禁第二

職制第三

戸婚第四

厩庫第五

擅興第六

賊盗第七

闘訟第八

詐偽第九

雑律第十

捕亡第十一

断獄第十二


『五刑』

笞罪五 笞十贖銅一斤 笞廿贖銅二斤 笞卅贖銅三斤 笞卌贖銅四斤 笞五十贖銅五斤

杖罪五 杖六十贖銅六斤 杖七十贖銅七斤 杖八十贖銅八斤 杖九十贖銅九斤 杖一百贖銅十斤

徒罪五 徒一年贖銅廿斤 徒一年半贖銅卅斤 徒二年贖銅卌斤 徒二年半贖銅五十斤 徒三年贖銅六十斤

流罪三 近流贖銅一百斤 中流贖銅一百廿斤 遠流贖銅一百卌斤

死罪二 絞斬二死贖銅各二百斤


笞罪ちざい五種類 笞打ち十回(一斤の贖銅ぞくどう) 笞打ち二十回(二斤の贖銅) 笞打ち三十回(三斤の贖銅) 笞打ち四十回(四斤の贖銅) 笞打ち五十回(五斤の贖銅)

杖罪じょうざい五種類 杖打ち六十回(六斤の贖銅) 杖打ち七十回(七斤の贖銅) 杖打ち八十回(八斤の贖銅) 杖打ち九十回(九斤の贖銅) 杖打ち百回(十斤の贖銅)

徒罪ずざい五種類 徒一年(二十斤の贖銅) 徒一年半(三十斤の贖銅) 徒二年(四十斤の贖銅) 徒二年半(五十斤の贖銅) 徒三年(六十斤の贖銅)

流罪るざい三種類 近流(百斤の贖銅) 中流(百二十斤の贖銅) 遠流(百四十斤の贖銅)

死罪しざい二種類 絞刑と斬刑(共に二百斤の贖銅)


『八虐』

一曰、謀反。謂、謀危国家。

二曰、謀大逆。謂、謀毀山陵及宮闕。

三曰、謀叛。謂、謀背国従偽。

四曰、悪逆。謂、殴及謀殺祖父母父母、殺伯叔父、姑、兄姉、外祖父母、夫、夫之父母。

五曰、不道。謂、殺一家非死罪三人、支解人、造畜蠱毒厭魅、若殴告及謀殺伯叔父、姑、兄姉、外祖父母、夫、夫之父母、殺四等以上尊長及妻。

六曰、大不敬。謂、毀大社、及盗大祀神御之物、乗輿服御物、盗及偽造神璽、内印、合和御薬、誤不如本方、及封題誤。若造御膳、誤犯食禁、御幸舟船、誤不牢固、指斥乗輿、情理切害、及対捍詔使、而無人臣之礼。

七曰、不孝。謂、告言詛詈祖父母父母、及祖父母父母在、別籍異財、居父母喪、身自嫁娶、若作楽釈服従吉、聞祖父母父母喪、匿不挙哀、詐称祖父母父母死、奸父母妾。

八曰、不義。謂、殺本主、本国守、見受業師、吏卒殺本部五位以上官長、及聞夫喪、匿不挙哀、若作楽、釈服従吉、及改嫁。


一つ目は、謀反むへん。国家を危うくしようとすること、つまり君主を弑殺しいさつしようとすることを言う。

二つ目は、謀大逆むたいぎゃく。天皇陵や皇居御所を壊そうとすることを言う。

三つ目は、謀叛むほん。国家に背いて反乱者や蕃国につくことを言う。

四つ目は、悪逆あくぎゃく。祖父母や父母を傷害し或いは殺そうとし、叔父や父の姉妹、兄姉や外祖父母、夫やその父母を殺すことを言う。

五つ目は、不道ふどう。死罪に当たる罪を負っていない三人の家族を殺し、四肢を切断し或いは焼いて殺し、蠱毒を製造し、呪術を行い、または叔父や父の姉妹、兄姉や外祖父母、夫やその父母を傷害し告発し或いは殺そうとし、四等以上の年長の親族やその妻を殺すことを言う。

六つ目は、大不敬だいふきょう。伊勢神宮を壊し、また大嘗祭の大幣や皇族の衣服調度を盗み、草薙剣や八咫鏡や天皇御璽を盗みまた偽造し、帝への薬を作る際に誤って指定の通りにせず、また封題を間違えることを言う。または、帝の食事を作る際に誤って食禁を犯したり、御幸に使う船舶を誤って丈夫に造らなかったり、帝を誹謗したが情理切害があり、また勅使に対面しないで敬意を表さないことを言う。

七つ目は、不孝ふこう。祖父母や父母を告発し罵り、また祖父母や父母がいるときに戸籍や財産を勝手に分け、父母の服喪期間に自ら嫁を娶り、或いは音楽を聴き、喪服を平服に着替えて吉事を行い、祖父母や父母の死去に際して悲しまないことを隠そうともせず、祖父母や父母は死んだと嘘をつき、父祖の妾(めかけ)を姦することを言う。

八つ目は、不義ふぎ。 主人や住んでいる国の守、大学や国学、私学の師を殺し、吏卒や五位以上の官長を殺し、また夫の死に際して悲しまないことを隠そうともせず、または音楽を聴き、喪服を平服に着替えて吉事を行い、別の男の妻になることを言う。


『六議』

一曰、議親。謂、皇親及皇帝五等以上親、及太皇太后、皇太后四等以上親、皇后三等以上親。

二曰、議故。謂、故旧。

三曰、議賢。謂、有大徳行。

四曰、議能。謂、有大才芸。

五曰、議功。謂、有大功勲。

六曰、議貴。謂、三位以上。


一つ目は、帝の血族や姻族の内のしん。皇親と帝の五等以上の者、太皇太后と皇太后の四等以上の者、皇后の三等以上の者を言う。

二つ目は、帝に厚遇されている臣下。長年仕えている者を言う。

三つ目は、賢人や君子。大いなる徳行がある者を言う。

四つ目は、有能な人間。大いなる才能がある者を言う。

五つ目は、勲功者。大いなる武功がある者を言う。

六つ目は、貴族。三位以上の位階を持つ者を言う。



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一番最初は律目録、つまり律全体の目次です。第一から第十二までありますが、私がご紹介出来るのは一、二、三、七、八の五つのみとなります。何故なら、それ以外は残存していないためです。今に残っていない文章なんて、某青狸でもいなければ知りようがありませんからね。

目録は目次にとどまらず『五刑』『八虐』『六議』まで続きます。


『五刑』とは、律で規定されている五つの罰のことです。長さ約一メートルの笞(むち)によるもの、それより三ミリメートルだけ太い杖によるもの、懲役刑、京とは別の場所に送ること、死刑の五つです。絞とは絞首刑、斬は斬首刑を示しています。勿論後者の方が重いのですが、死罪相当の罪の中での軽重で判断されます。

夫々の後ろにある括弧は、相当する贖銅量を示しています。ざっくり言えば罰金のことで、例えば懲役二年が宣告された場合、銅を四十斤払えば懲役二年を達成したと見做されます。一斤は約六百グラムですから、この場合は二十四キログラムになります。二十斤払えば一年に減るかと言うと、これは減りません。四十斤払うか二年働くかです。


『八虐』とは、以降の諸条文から支配秩序を破壊しかねない八つの罪を抽出し、刑罰の規定ではなくその罪の性質を明記したものです。

謀反は君主への殺人予備罪ですが、この段階で死罪確定なので既遂は考慮しません。

謀大逆は御陵や皇居の損壊罪です。未遂なら絞刑、既遂は斬刑です。

謀叛は、現代で言えば亡命や敵前逃亡、投降、外患罪です。未遂は絞、既遂は斬。

悪逆は直系尊属に対する暴行・殺人予備、そして二等親以内の尊属などへの殺人罪です。後者の未遂は不道に分類されます。

不道は、猟奇殺人や非人道的殺人、悪逆で述べた未遂罪を含みます。

大不敬は、所謂不敬罪です。薬の作り間違い、料理の作り間違い、船の造り間違いは過失の場合に限り、故意であれば謀反扱いとなります。

不孝は、直系尊属に対する悪逆ほどではない罪です。服喪期間は一年ちょっとであり、ちゃんと喪に服さないとこれによって罰せられます。

不義は、礼儀に対する諸罪です。他の男の妻になるとこれですが、妾になる場合は含まれません。


『六議』とは、律を適用する際に減刑などの優遇を受けられる六種類の人のことです。一と六は規定されていますが、それ以外は帝の匙加減と申せましょう。

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