日本共和国臨時政府
茜町春彦
治安警察の謎
あちゃちゃちゃ、失敗失敗、失敗しちゃったわ.
逃げなきゃ.
「パタパタパタ・・・」
廊下を走る足音が聞こえるわ.
書斎のドアを施錠して・・・このマイクロカードは取り敢えずもらっておいて・・・窓から庭へ出て・・・塀を乗り越えちゃいましょう.
深夜だけど、駅へ行きます.駅前に自転車を止めてあるのよ.
私は抵抗戦線完全独立派のメンバーなんだけど、井上に収賄の疑惑があるっていう情報を掴んだので、独りで探りに入ったわけ.みんなにいいところを見せようと思って、ちょっと先走っちゃったかな.あとで怒られちゃうかも.うちのリーダー、二言目には総括総括って、ちょっとウザイのよね.
操り人形の綽名を持つ井上が傀儡政権首班に返り咲いた事に、以前から怪しさを感じてたのよね.昼間のうちに下見を済ませて、暗くなってから井上の私邸に忍び込んでみたところ、軍服専門の衣料メーカーである帝国ユニフォームとの癒着を示す収賄の証拠を見つけた、と思った途端に警報が鳴っちゃった.想定内だけどね、まあ、そう云うこと.
それから最近矢鱈と官房府が国民を煽っているじゃない、近隣国と武力衝突するかも知れないってさ.だけどそれってさ、軍服メーカーがバックに付いていたからなのね.憶測だけど・・・
軍服の売上げを上げるために、兵隊の数を増やしたい.
兵隊の数を増やすには、徴兵制を導入すれば良い.
徴兵制を導入するには、過半数の議員に賛成させればよい.
過半数の議員に賛成させるには、金をバラ撒けばよい.
そのために、井上に裏金を渡した.
・・・そんなことを考えていたら、公園の前まで来たのよ.
迂回するより駅への近道だから公園に入って、そして通り抜けようとしたの.すると、3人の山羊男が近づいて来たじゃない.奴等は多世界量子銃で武装していたのよ.通称Qガン.私に銃口を向けたわ.
「なんであんたら、Qガンなんて持ってるのよ」
「我々は治安警察だ」「これから貴様の身体検査を行う」「頭のてっぺんから爪先まで舐めまわすようにな、けけけ」
「治安警察なんて聞いたことないわよ.一体何者なの」
「治安警察だ」「正義の味方だよ」「とても優しい3人組さ」
「じゃーそれで、どう云う用件かしら」
「隠している物を出してもらおう」「早く出しな」「別にゆっくりでもいいぜ、時間は掃いて捨てるほどある」
「あんたたち帝国ユニフォームの社員?」
「治安警察だ」「この国に井上ほど腰の低い政治家はいない」「以前、我々が奴をヒーヒー言わせてからだけどな」
「もしかしたら、あんたら駐留軍じゃないの?」
「治安警察だ」「治安警察だ」「治安警察だ」
「不忍池を埋め立てて、駐留軍専用レストランを移転させようと、官房府に圧力を掛けている噂は聞いてるけど・・・あんたたち駐留軍でしょ」
「治安警察だ」「今の時点で、井上を失脚させるわけにはいかないのさ」「へへへ」
そして山羊男たちは、私に向かって踊れと言ったのよ.
あたしは、踊ったわ.2人が纏わりついて来たわ.それでも踊り続けたわ.
仕方ないじゃない.私は踊ったのよ.
「マイクロカード、発見」「よし」「撤収」
書斎から持って来たマイクロカードは取り上げられちゃった.
3人は闇に消えるように立ち去ったわ.
あたしは、力が抜けて地面に坐り込んだわ.
井上の後ろ盾は帝国ユニフォームじゃなくて、駐留軍.きっとそうだと思う.一度は政治の表舞台から消えた井上が、なぜ返り咲くことが出来たか理解できるし・・・軍人じゃなけりゃQガンなんて扱えないじゃん.治安警察なんて言ってたけど、駐留軍の憲兵か何かだと思うわ.
だけど、今回はチョット残念だわね、井上の正体を明るみに出せるところだったのに・・・まあ、次は頑張るわよ・・・あっ、早く逃げなきゃ.
(了)
日本共和国臨時政府 茜町春彦 @akanemachi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日本共和国臨時政府の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
読書感想文『表現者クライテリオン5』/茜町春彦
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 3話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます