小ネタ集
紫蛇 ノア
暦の上での春の初日。(“半”人造人間レヴィアンタより。)
「お花見に行かないかい?」
暦の上での春の初日。
朝早くにハデスの部屋のドアを叩いたイワンは、「頼み事があるんだ!すごく!重要な!ハデス、君にしか頼めないんだ!お願いだ、どうか、このとおり!」とハデスの目の前で手をあわした。
そしてハデスが渋々引き受けたときに、彼はにんまりとして、そう言ったのだ。
復唱をすると。
「お花見に行かないかい?」
ハデスは呆れてレヴィアンタに命じた。
「もう、このクズ殺せ」
「了解。分かった」
レヴィアンタの青い髪の中でも一際目立つ金の髪を伸ばし、イワンに迫った。青い髪の端も金に染まりかけているので、逃げようとしたらそれを使って捕まえるのだろう。
「あ、いや、待ちなよ。レヴィアンタ。それはいくらなんでもやばいんじゃないかな?えっとあれだ!今日はエイプリルフールだよ?」
「問い。エイプリルフールとはなんだ?」
エイプリルフールとは。暦の上での春の初日。つまり今日。一日だけ嘘をついても許される日だ。
そのことを苛立ち紛れにレヴィアンタに聞かせてやったハデスは、頼み事を聞くと言った手前断る訳にも行かず、渋々身支度をしてお花見に出かけることとなった。
こうしてやって来たお花見スポットでは、イェンとサイトの2人も入ってきて賑やかに過ごした。ハデスも呆れながらその場を流し、ときにはイワンといがみ合いながら、一日を本当に楽しく過ごした。
そうして帰り道のことだった。
あまり物言わぬレヴィアンタが少し心配だったが、その場に残り、後片付けまでこなしてくれたところを見ると、楽しかったのかもしれない。
そうハデスは、心の中で自分を鼓舞したものの、心配は消えなかった。
人造人間にも、楽しむというココロはあるのだろうか?
「問い。マスター」
自分からあまり発言しないレヴィアンタが陶磁器でできたような唇を動かした。
「なんだ?」
すこし戸惑いはしたものの、ハデスはいつも通りの応対をすることに成功した。
「感謝。今日は楽しかった。ありがとう」
「………え?」
楽しかったありがとう?レヴィアンタの顔を見下ろす。そこには不器用な作り慣れていない微笑みがあった。
しかしそれは一瞬で、すぐに消えてなくなってしまう。しかし、その微笑みは、ハデスの脳裏にきっちりと焼き付いた。
「種明かし。サイトとイワンからの入れ知恵。こう言えと言われた」
………………。…………。………。
ハデスは固まった。それはもう季節外れの氷の彫像のように。
「……。イワン……、サイト……。」
「報告。エイプリルフールだ。マスター」
ハデスがイワンとサイトへの怒りを抱いていると、レヴィアンタがやはり無表情でそう言い放つ。しかし、その顔が少し得意げだったのは、気の所為だと思いたいハデスだった。
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