闇堕ち騎士がダンジョン始めました!!

東亮太

初めてのビキニアーマー

その1

 魔が差した――というやつかもしれない。

 僕はそんなことを思いながら、後ろ手に部屋の扉を、そっと、しかししっかりと固く閉めた。

 ……誰にだってあることだ。ふと魔に魅入られたかのように、何かの弾みで理性のタガが外れ、とんでもないことを仕出かしてしまう――。そんな瞬間が。

 もっとも、魔剣の呪いによって人間から魔族に転身してしまった僕にとっては、「魔が差す」なんて話は、今さらなことなのかもしれないけど。

 ともあれ、僕は緊張に満ちた表情のまま、室内に視線を巡らせた。


 獅子ししりゅう迷宮の裏にある「楽屋」の一室。僕の寝室として宛がわれたこの小部屋には、他に誰もいない。

 自ずと耳を澄ませる。フェリスやセレナ、タニヤ――このダンジョンで僕と一緒に働いている魔族の少女達の声が遠くにあることを確かめると、僕はようやく息をついた。

「……よし、開封」

 静かに呟き、携帯していたアイテムバッグから、大きめの紙袋を一つ取り出す。僕が冒険者だった頃にギルドから支給されたこのバッグは、どんなサイズのものでもしまえてしまう、なかなかに便利なアイテムだ。

 そのおかげで、「こんなもの」をこっそり買ってくることもできた。

 あるいは――だからこそ、魔が差した。


「か、買っちゃった……」

 声を震わせながら、紙袋の口を開け、中を覗く。そこには確かに、僕がついさっき市場で買ってきたばかりの「アレ」が、きれいに折り畳まれて、収まっていた。

「本当に買っちゃった。うわ、どうしよう、これっ」

 紙袋に手を挿し入れ、恐る恐る中身を引っ張り出す。それは――冒険者の男子なら誰もがロマンを抱いてやまない、とても素敵な装備品。

 小さな薄い布に金属プレートを張り、裸のボディに絡めて着こなす、もちろん女性専用のアレ。

「ビ、ビキニアーマー……。ついに、ついにこの手にっ!」

 いろいろと末期的な何かを発症しながら、僕は震える拳の中に、真紅のブラとハイレグパンツを、ギュッと握り締めた。


(続く)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

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