第七話 昼夜
静かな時間が流れた。
礼登から漂ってくる血の臭い。耳を切り落とされた
「秋菜。そこで、うずくまっているクズを俺の前から排除しろ」
「何を、めか」「豚。口を開くな、臭い」
「秋菜。豚が可愛そうだ。豚は、餌を貰っている者になつくからな。最後に殺されて食べられる瞬間まで、主人を信じているのだからな」
「はっ。もうしわけありません」
「俺に謝らなくていい。今度、豚にあったら謝っておけよ。俺には、紹介出来る豚が居ないから無理だけどな」
「わかりました。ゴミを豚と同列に扱ってしまってもうしわけないと、謝罪します」
「そうしろ。夏菜」
「はい。場の空気が悪いな。愚者が居なくなるから、皆に”熱い”狭山茶を入れてくれ。今度は、六条の本邸のリビングに置かれていた、文月からの贈り物を入れてくれ、
「はい。残りは少ないのですが、一人分なら大丈夫です」
「そうか、せっかくだから
「かしこまりました。それならば、姉や妹が飲んだように、濃くしてお渡しします」
「そうだな。俺は、普通でいいぞ」
「かしこまりました」
秋菜が、
晴海は、すでに証拠を得ているので、殺してしまっても問題だとは思っていないが、礼登はしっかりと尋問をしておきたいのだ。
晴海もあえて質問はしない。
お茶が配られた。
「夏菜。うまいな」
「ありがとうございます」
「本当。夏菜。今度、私にも入れ方を教えて下さい」
「はい。奥様」
晴海と夕花と夏菜だけ違う空間に居るような雰囲気を出している。
忠義から報告や、出ていった礼登を待っているのだが、ゆるい雰囲気が
「お館様。晴海様」
痺れを切らしたのは、意外にも
「どうした?
「はっ。裏切り者はわかりました。経緯の説明は、詳細が判明したら、していただけると思っています。一つだけ教えて下さい。晴海様。城井が”不御月”を知らないと言ってから、城井を糾弾しているように感じました。なぜですか?城井には不自然な様子はなかったと思います」
晴海は、愉快そうな表情をして、
「ん?誰も解らなかったのか?
「??」
「俺が、貴子のことを聞いた」
「はい。覚えております。確か、
「”自宅で待機している”と言った」
晴海は訂正したが、ニュアンスは間違っていない。
「はい」
「その後で、俺の依頼がどうなったか聞いて、
「そうでした」
「俺が、
「はい。私も、そう記憶しております。晴海様は、その後で、”不御月”の話を聞いていないかと、詰問しました」
「奴は、”何も聞いておりません”と答えた。”聞いていない”とな。貴子には、不御月の話をしていない。だから、聞いていないでも問題はない。だが、”何も”聞いていないとなると話は別だ。依頼の話を聞いていないとは言わなかった。当然だよな。貴子には、とある本を探して貰っていたのだ。先代のコレクションが運ばれたのは、城井家だ。研究畑だからと渡された大切な本だ。リストに細工が出来るのは、当主か次期当主だけだよな?そして、六条の当主が依頼した、本を探すのに、城井の当主や次期当主を通すはずだ。違うか?」
皆が
「
「家の者を使って、探します。自分に不手際があったら、死んで詫びます」
「死ぬ必要はないが、詫びを入れに来るだろうし、当主まで話を通すだろう?」
「当然です」
「貴子も同じだよな?」
「そうですね。貴子殿なら間違いなく、お館様に預かっている本を紛失した可能性があるのなら、家中の者を総動員してでも探そうとするでしょうね」
「俺もそう思う。それなのに、当主も次期当主も”もうしわけございません”としか言わなかった。裏切っていると考えていい事象だろう?」
「はい。先代の本とは、六条に保管していた本ですか?」
「そうだ。稀覯本も数多くあった。一冊だけ貴子が持っていた”リスト”から外れていた」
「その本は?」
「先代から、俺がもらうはずだった本だ」
「え?だったら、リストから外れていても」
「そうだ。外れていても不思議ではない。だが、六条の書庫にはなかった。忠義と礼登に調べさせたが、見つけられなあkッタ。見つけられたのは、リストだけだ。当主のサインもしてあった。そして、探している本は、六条で保管していた城井に渡った本のリストに名前があった」
「それは・・・」
「そうだ。実際に、本が紛失していて、城井がリストを作った時に消した可能性や、先代が俺に渡すつもりで別の場所に保管していた可能性もあった」
「・・・」
「なぁ
「・・・。お館様。それは・・・。貴子が・・・」
「おい。貴子は、関係はないだろう?そうだろう?忠義!」
「はっ。貴子殿を確保したと、能見から連絡が入りました。やはり、軟禁されていたそうです。明日、お館様にお会いしたいそうです」
「わかった。さて、
「・・・」
「そうだ。もう一つ、お前はミスをした。余計な一言で確信したぞ、裏切っていただけではなく、先代や俺を除く六条を殺したのは、お前たち・・・。いや、もしかしたら、
「え・・・?ミス?」
「おいおい。本当に気がついていないのか?」
晴海は、周りを見回すが、事情が解っている忠義を除いて誰も気がついていないようだ。
「忠義!」
「はっ」
「もう一度、聞く、城井家から、あの日の会合に欠席する旨の連絡を受けたのは何時だ」
「朝です。正確には、9時5分です」
「
「・・・。はい」
「そして、昼過ぎまで捕物をしていたのだな」
「はい」
「正確な時間は?」
「もうしわけございません。昼を少しだけ回った時間と記憶しております」
「まぁいい。それなら、14時には終わっていたのだな」
「はい」
「それで、先代の訃報を聞いたのだな。誰からだ?」
「え?あっ・・・。もうしわけございません。覚えておりません」
「そうだろうな。覚えていないよな。昼なら、まだ訃報は起きていないからな」
「え??」
「
「はい。私が、訃報の連絡を受けたのは、21時です。”晴海様を含めて、全員が殺された”と連絡を受けて、すぐに本邸に向かいました。向かっている最中に能見から、”晴海様を除く・・・”と連絡を受けて、晴海様が入られている病院に向かいました」
「そうだったな。これで解っただろう?
「解っただろう?お前が、昼に聞いたと言った時点で、自分が裏切り者ですと告白しているのと同じだ!」
「・・・。なぜ?朝だった・・・。はずでは?」
「そうだな。本来なら、俺が先代に呼び出されて、俺が次期当主を降りるという話をした。先代は、笑いながら承諾してくれたよ。そのときに、出されたお茶を飲まなければ、俺は六条から解放されていたはずだ」
「え?それでは・・・」
「そうだな。六家から次期当主を選ぶか、俺の血縁者に譲るつもりだったのだろうな。殺されなければ」
「!」
「そして、俺が倒れた。六条で出されたお茶を飲んで倒れたのだぞ?そのときに、屋敷に居たものが外に出られなくなるのは当然だろう?お前たちに成果を伝える者たちもこの時点で外に連絡できなくなって、文月が用意した集団に殺されたのだろうな」
晴海は、少しだけ冷めてしまったお茶で、醒めてしまった心を温めるように、一気に流し込んだ。
そして、飲み終わった茶碗を床に投げて、叩き割った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます