幼馴染と心配と時々花粉
「おはよー、
「……はよ」
幼馴染の男の子がいる。名前は
小さい頃からずっと一緒で、幼稚園と、小学校、中学校ときて、高校も一緒だ。別に示し合わせて一緒、とかじゃなくて、都会みたいに色んな学校があるわけじゃないから自動的に上がっていく、って感じではある。まあ、高校は電車やバスを使って少し遠くの学校へ行く子もいるけど、愛助くんも私も、近場の高校を受験して無事に合格したので、高校生になっても彼と家の近くの公園で待ち合わせをして学校に歩いていくのがずっと定着してしまっている。
中学生くらいからなんだか雰囲気がちょっとつーんとしてきたけれど、私がおはよっていったらおはよーって返してくれるし、話しかけても嫌がる感じはない。朝もいつも待っていてくれるし、なんだったらちょっと遅れると私の家まで迎えに来てくれるから、嫌われたとかじゃあないんだなと安心はしている。
「風邪ひいた?」
高校に入ってからは教科書を入れるものは指定の鞄があるわけじゃないから、皆自由な…といってもほとんど定番の形は決まっているようなものなんだけど。とにかく鞄に女の子はキーホルダーをつけていたり、男の子なんか何でかもうあえてぼろぼろのものとか持っている。ああいうの、かっこいいって思うものなんじゃないのかなって
愛助くんはぼろぼろじゃないけどお兄さんのおさがりでちょっとくったりしたものを使ってる。ランドセルみたいに背中に背負ってはいるけど邪魔じゃないのかなと思いながらさっきからずびずび鼻を鳴らしている彼に尋ねる。
「花粉症」
「えーー、花粉症?」
「あーーーもーーーーーかゆいし、垂れてくるし」
「ティッシュ使う?」
「ポケットティッシュ持ってるから今はいらねえ」
ちょっと悪い印象を受けそうな格好をするようにはなった愛助くんだけど、いつもハンカチとポケットティッシュをポッケに入れてるのは昔から変わらないなと思う。雰囲気が変わってもそういう、私の知ってる愛助くんがまだちょっとちらっと見えることにこっそり安心したりもしている。
「無くなったら言ってね」
「うん」
「愛助くん用にいっぱいティッシュ持っておかなくちゃ」
「いーーよそこまでしなくて」
「だって鼻水がてろーんって出ちゃうよ?いいの?」
「出る前にかむから」
いらない!と小声で抗議しながらまたずびーっと愛助くんが鼻をならす。
「箱ティッシュ購買で買う?」
「母さんが近所のガソリンスタンドのポイント交換で貰った箱ティッシュ持ってきたからいい」
ああ、なあんだ持っているんだ、と思った。
さっき、無くなったら言ってね、といったことにうん、と返事をしてくれたからポケットティッシュくらいしか持ってないと思っていたんだけど、「持ってる」とすぐ返事をしないところも愛助くんは変わらないなと思う。
「あ、そうだマスクとか付けたら?」
「だせぇからやだ」
「カッコいいマスクとか売ってないのかな?黒い奴とかモデルの男の人とかがつけてたりするよね!愛助くんが持ってる雑誌にのってるお兄さんとか、ほら、骨がかいてるやつ!」
「ドクロって言えよ。生活指導のカミティがうるせえだろ」
「愛助くんがもうちょっと上着の丈を長くすればいいんだよ、そしたらきっと大丈夫だって」
「いーやーだー!!」
多分鼻水が落ちてきそうなんだろう。歩きながらとっさに顎を上げてそういった愛助くんは私より少しだけ背が高い。高いけど、140cmと少しの私より10cm高いくらいだ。男の子たちのなかでは一番背が低いのを気にしてる。それと関係あるかはわからないけど、小さいのを馬鹿にされたくなくてつんつんしだしたのかな、なんて思う時もある。
ちなみに「カミティ」っていうのは上山先生っていう先生の事だ。愛助くんとか、
「はい」
「ありがとう」
ポケットティッシュを勝手に愛助くんの上着のポッケから取り出して、一枚とって渡す。静かに、ちょんちょんと鼻の下を抑えているのは多分鼻をかみすぎて赤くなってるから痛いんだと思う。
「大丈夫??」
「だいじょぶ…あーーもう……目玉とか丸洗いしてえ……」
「じゃあ私、柔軟剤入れようか!」
「目玉ふわっふわにしてどーすんだよ」
「ふふふ、いい匂いだってしちゃうんだよ」
「いらねえー」
ごしごしと目を擦る手首を掴んで、だめ、というと素直に降ろしてはくれるけど、かゆいっていう辛さはあまり私はわからないから、あんまり強くも言えない。
「あーもーーー…耳鼻科行こうかなあ……」
「付き添う?」
「小学生じゃねえんだから一人でいけるっつの」
「ふふふ、ジョーダンジョーダン、流石に小さい頃みたいに、どこでもくっつきむししないよお」
「そーしてくれよ、…お前また変な勘違いされても知らねえんだからな」
「えーなにそれえ?小学校のとき噂になった愛助くんと私が付き合ってるとかっていうやつ?」
「そうそう」
「平気だよお、だって事実じゃないもの、それに私のお友達はちゃんとわかってくれるから、だいじょーぶ!」
あんまりにも私と愛助くんは一緒に動いて歩くから、小学校の時にいちど付き合ってるんだろってからかわれた時があったのを、今でも気にしているみたいだった。私は愛助くんのことはずっと友達、と思っているけど、愛助くんはやっぱり女の子の友達は要らなかったりするんだろうかと悩んだ私に、はっきりと俺とお前は友達なんだぞっていってくれた言葉は今でも大事に胸の中にしまっている。
愛助くんの好きな女の子のタイプって
「いやまあ……それならいいンだけどさ」
「心配しないでよー、ありがとうね」
「
「ん?」
「……もうちょっとアレだぞ、俺の所為だったらごめんだけど、男子に気さくすぎんだろ」
もごもごと俯いて、ティッシュで鼻を抑えている愛助くんの声はくぐもっている。
「そっかな?」
「あれ、あれだかンな……俺はお前がからかわれんの、ヤなんだからな?」
「うんっ、わかった!私は平気だけど愛助くんがヤダ、っていうなら気を付けるよ」
「……石井」
「どっちの?」
「ユキオのほう」
石井くん、と言われてぱっと浮かぶのは同じ図書委員をしてる雪緒くんだけど、クラスに
それをいうと「山崎」さんも、ふたりいるけど。
「石井くんがどおかした?」
「最近ユキオとよくしゃべってんじゃんか……男は単純なんだからあれ、その、あれだぞ、…あの…」
「石井くん優しいよ?」
「男は狼だから気をつけなさいって歌あるだろ!」
「えーなにそれ、知らないー古い歌?」
「クッ……と、とにかく、愛はちっちぇえんだから…なんかあったらすぐ言うんだぞ」
「うん、言う」
多分心配してくれているんだと思う。愛助くんの方がちょっとだけ生まれた日が早いから時々お兄ちゃんみたいなことを言うな、とおもう。
「愛助くんもティッシュがなくなったらすぐいうんだぞ!」
「そっちかよ!」
大人になっても愛助くんは、私とこうしてお喋りしてくれるのかな、と思いながら今日も通いなれて来た道を二人で歩いていく。
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