君の隣でなにしよう
烏賊モドキ
昼食と友人と低燃費
「
「大声出さなくても聞こえとる」
はるか廊下の彼方から熱烈に手を振って寄ってきたのが例えばクラスの中で一番小柄な
「
「いで!」
吊り上がった眉に対して垂れ下がった目じり。ああ、深谷は結構睫が長いのだなと思ったのはつるみだしてからのことだった。瞳が小さく、ワックスで固めた髪の毛と着崩している制服の所為で一見すると警戒しそうな男の名前は
なんてことを回想しながらその広い額を片手で抑える。いだだ、あだだと言いながら手を引っぺがそうとする深谷に少しばかりいじわるなのだが、抵抗して指先に力を籠めるとやめろと悲鳴に近い声をあげたのでごめんと言って手を離す。
「ごめんっていうならやるんじゃねえよ!!」
「廊下を深谷が走るから」
「走ってねえよ!!競歩!!競歩だから!」
「競歩の割には良いフォームだったぞ、目指せ地区大会」
「目指さねえ!」
「ところでどうした」
「ああ、そうそう、飯食おう、飯」
「わざわざその為だけに走り抜けたのかお前」
「競歩」
「わざわざその為だけに競歩で走り抜けたのか」
「どうして言い直した」
良いから行こうぜという深谷は強引だ。こっちの回答を聞く前にもう勝手に俺の弁当と腕を掴んで引っ張っていく。
まあ、特に用事もないから良いんだけどなんて思いながらついていった先には、深谷の幼馴染であり彼の手綱を握ることが出来る存在の
「あっくん、よりにもよってお前なんて人選だ」
「よりにもよって俺で済まない」
「いいや、馬場は被害者だから謝るな」
きちんと髪の毛を後ろに撫でつけたオールバックの髪型をしている日向は、わざと少し髪をつんつんとさせている深谷と対照的だ。性格も逆で、深谷は賑やかなのに対して日向の方はクール、というのがしっくりくる。無口なわけじゃあない。
「あっくんと、さっちゃんと、たっくんで良い感じじゃね?」
「何をもっていい感じじゃね?って言ってるんだ?」
「とんでもなく単純明快な発想で俺は拉致られてしまったんだなあ」
あっくん、というのは深谷のことだ。彩斗だから、あっくん。
たっくん、というのは日向のことで、フルネームが
そう、消去法で気が付いただろう。俺が「さっちゃん」になる。
「すまない馬場、観念して俺達と昼食をとってくれるか」
「答えはまるで聞いてないやつだな、良いよ」
諦めてくれと言わんばかりの顔をした日向に頷いて、大人しく机をくっつけ、弁当を広げる。多目的な教室は他にも何人か昼食を食べにくる同級生や下級生がいる。
「馬場、そんなでけえのにそれしか食わねえの!?マジ!?」
俺の弁当を見てそう言った深谷の視線は二、三度俺と弁当箱を往復して、「嘘だあ」なんていってる。まあ、サイズ的にもう少しデカイ弁当箱の方がしっくりくるよな、なんて思う。でも俺はこれで丁度いい。
「肉体が低燃費で出来ている」
「うっそだろ」
深谷にまるで信じられないといった声を出される。いやあもう、こればかりは事実なんだが。まあ、デカイ弁当箱持ってる深谷からしたら不思議なのかもしれない。俺は彼より背丈もあるし。
「エコで地球環境にやさしいぞ」
「何を言ってるんだ馬場は」
一口サイズに出し巻き卵を箸でカットしながら、日向が呆れたようにこっちを見ている。
「馬場、お前、地球の事考えてるとか規模が普通じゃねえぞ」
「そして何を言ってんだあっくんは」
ボケてるのか素で言ってるのかわかりかねるが、深谷がとても真面目にそういうので、多分素に違いない。付き合いの長い日向が間髪入れずにツッコミを入れている。
「そうだろ?環境に配慮している食事量だ」
「普通に小食なだけだろ」
まだそんなに付き合いがない俺にさえ、すかさず言葉を投げるあたり深谷で鍛えられたのだろうなと思ってしまう。
「的確に言葉を差し込んで来る…流石日向だ」
「たっくん、冷静…なん、なんていうんだっけ?沈殿?」
「沈着だ深谷」
「俺を沈ませるな」
こうなってくると、やっぱり俺も日向に配慮してボケに回っていた方がいいのだろうか、なんて考えながら口に運んだ一口に、深谷が一口の量もエコなのかよ、と驚いていた。
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