第73話 断罪する

 アシュラドは屋根の上にいた。隣にはパニーが座っている。

 竜を『操作』するとき、大抵はここに上る。単純に見晴らしがいいので周辺の確認がしやすい。アシュラドたちは今、サバラディグへ向けて飛行する空の上だった。


「サバラディグの王子、キリタタルタの命を狙った刺客たちをあたしらは撃退した」

 軍服らの手当てが落ち着いたころ、マロナがおもむろに言い出した。

「なにを言ってるんだ? マロナ」

 当のキリタは眉間に皺を寄せた。

「そーいうことにしよう、って言ってんの。

 国際社会の外で起きた犯罪は、適用法が明確に規定されていない。この町には現地法を適用しようって主張するひともいないだろうし、だとすると次に有効なのはセルクリコの法だけど、もう国自体が機能してない。

 となると、言ったもん勝ちなんだよ。

 サバラディグを襲った奴ら共々、あんたの国で裁けばいい」

「ぼ、僕はもう王子じゃ」

「あんた、それ正式な手続きを経たの?」

「へ?」

「王子ってのは公的な身分なんだから、そう簡単に『やめまーす』って言ってやめられるものじゃないよ? 王族は国際社会の議会で全員管理されてんだから、加わるのもやめるのも議会の承認がいる」

「そ、そうなの?」

「……はっ、やっぱりね。そんなことだと思ってたわ」

「や、でも……僕の一存で奴らを連れ帰るってのは……大体、どうやって護送するんだ」

「ふんじばって竜に乗せればいいじゃん」

「う」

「さすがに、このまま放置ってわけにはいかないでしょ? 怪我が治ったら、また奴らはパニーを狙うかもしれないよ?」

「任せろ! 我が王家にて奴らを断罪する!」

「じゃ、そゆことで」

 豹変したキリタに一切驚かず、マロナはひと仕事終えたというように片手を上げた。

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