第13話 汚いモノをしまえ

「死ねぇええっ!」

 キリタが振り下ろした短剣を、サイは背を向けて手首を縛られた麻縄で受け止める。あわよくば切れるかと期待したが、その感触はない。鍔迫り合いのように膠着しつつ、立ち上がる。腕の力で押し戻すと、尻に激痛が走った。

「うほぉっ!」

 ゴリラが威嚇するような口になって止まる。キリタが横薙ぎに払う刃がサイの脇腹を狙う。サイは悶絶顔のままその場で跳んで背を向ける。金属が打ち合うような音が鳴った。

「なっ……なにぃっ!?」

 剣を受けたのは、クリムゾンネギである。

「ば、馬鹿な!」

 驚愕しつつ繰り出されるキリタの攻撃を、サイは舞うように跳び、全てネギで受ける。

「な……何者だ貴様っ」

「俺は、『ケツネギ』のサイ」

 床に降り立ち、半分振り返ってニヒルな笑みを浮かべてみせる、のも一瞬のこと。「痛てぇよぉおおおっ!」悲痛に顔面を歪めた。

「なにを見せられてんだあたしらは……」

 挿した張本人であるマロナが呆れて頬を引きつらせる。

「でも、そろそろ助けたほうがいいかなぁ。気は進まないけど」

「……だいじょうぶ」

 酷く冷めた目でパニーが言うので、マロナは意外そうにまばたきをする。

「なんで?」

「キリタは、武器を振り回す才能が致命的にないから」

「え? いや、つってもさ」

「ほら、見て」

 示されて視線を戻すと、キリタが攻撃を繰り出し、またサイがケツネギで受けている。いや……違う、とマロナは気付いた。受けていると言うより、当たりにいってると言うほうが正しい。サイが尻を振らなければ、かすりもしないところにキリタは剣を振っている。

 そして、サイが尻の痛みに足を止めた瞬間、キリタの大振りが空を斬った。

 そのまま勢いを殺せず、ふらつきながらサイに身体ごと突っ込む。

「うぉおおっ!?」

 避けようとしてキリタは短剣を床に落とし、身体を半身にする。しかし運悪くサイもとっさに同じ方向に避けようとしたため、衝突して一緒に倒れ込む。組んずほぐれつもがいた結果、うつ伏せで尻を突き出したサイのケツネギの先端を、キリタが口に含んでいた。

「どうしてこうなった」

 一部始終を見ていたはずのマロナが驚愕した瞬間、キリタが顔面崩壊する。

「ごぇええええっ!」

 口から炎を吐いてその熱で火傷する動物ってこんな感じかな、という顔で仰向けに倒れ、口を押さえてのたうち回る。冷めた視線を向けていたマロナとパニーが

「……ごはんにしようか」

「あ……うん」

 と目の前の惨状を黙殺しかけると

「お……お前らせめて奮闘した俺にひと言」

 サイが震える手を伸ばす。マロナは一瞥もせず、吐き捨てるように言った。

「さっさとその汚いモノをしまえ」

 うぅ、とサイが泣きながら事切れた。

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