9月24日(火) 期末考査・一日目

 始まった期末考査。その一日目。


 今日は一限目から順に英語表現、現代文、数Bと三科目が実施された。


 そんな試験は全部で九つ。

 それを四日間に振り分けるため、必然的に三科目の日が一日、残りの三日は二科目プラス自習となり、ある意味で山場は超えたと言えたり言えなかったり……。


 故に三限目のテストを終え、答案を集めた先生が教室を出ていくなりクラスの雰囲気は弛緩したものとなる。


 私も例に漏れず、グッと背伸びをして強ばった身体を解すと、後ろからチョイチョイと啄かれる感覚を覚えた。


「……どうだった?」


 話しかけてきたのは、親友のかなちゃん。

 グッタリとして見えるのは、直前に数学を解いていたからだと思う。


「いつも通り、可もなく不可もなくって感じだよ。かなちゃんは……大変だったみたいだね」


「……でも、やり遂げた」


 手応えはあるのか、ピースサインを浮かべる彼女。

 昨日の蔵敷くんの指導が効いたのだろう。


 ……そういえば、現代文のテストもあったけど、その彼はどうだったのか。

 反対に、けれども同じように、かなちゃんから熱心に教えられていたけれど……。


 座ったまま身体をずらして、突っ伏すかなちゃんのさらに後ろを覗き見る。


 ――と、件の人物はなぜか天を仰いでいた。


「……………………終わった」


「何が? 現文が、か?」


 その様子を見て、すかさず声を掛ける翔真くん。

 しかし、首は横に振られる。


「ちげーよ。今日が終わった、って言ったんだよ。あまり俺を舐めるな」


「いやいや、だって文系はいつも五十点いかないじゃん」


「……別に、赤点じゃなきゃいいんだよ」


 そうバツの悪そうに呟けば、話を変えるように大きな独り言を漏らした。


「さて……帰ったらゲームでもするか」


「そこは勉強しろよ」


「やだなぁ、畔上少年。よく考えてくれよ。今から明日のテストまでおよそ二十時間。睡眠時間を抜けばだいたい十四時間ないくらい。――ほら、半分の七時間ゲームしても、まだ勉強する時間はあるんだぞ?」


「ご飯とお風呂と通学時間を含めたら、もっと少なくなるけどな」


 呆れ顔でツッコミを入れる翔真くんだけど、蔵敷くんは全く意にも介していません。


「それに明日は選択科目と化学だしな。余裕だ、余裕」


 聞く人先生が聞けば、かなり怒りそうな発言ですが、こと理系科目においては、そんなことをしても高得点を取ってしまう蔵敷であるため、私たちは何も言えません。

 当然それは、翔真くんも。


「羨ましいよ、全く」


「はっ、常に学年一位を取り続ける奴に言われてもな」


 などと、談笑している二人の会話を盗み聞きしていて、私はあることに気が付きました。


 ……もしかして翔真、今日はフリーなのでは? ――と。


 ならば、攻めどき。

 善は急げ。思い立ったが吉日。好機逸すべからず。


 すかさず立ち上がり、声を掛けます。


「あ、あの……翔真くん! だったら、私と……その、今日も試験勉強をしませんか?」


 突然のお誘いに、翔真くんも、その近くにいた蔵敷くんも、驚きの表情を向けてきました。

 でもすぐに、彼はいつもの爽やかな笑みに戻ります。


「もちろん、別に構わないよ」


 二つ返事に、心の中でガッツポーズ。

 私、やりました! 成し遂げてやりました!


「――で、こういう良い子もいるようだけど、悪い子の蔵敷少年はどうするんだ?」


 ――――…………え?


「……………………は?」


 思いがけない言葉に、私の心の声と蔵敷くんの発言が被ります。

 すなわち、何を言っているんだ――という心情で。


 けれども、事態を直ぐに把握したのか、彼はすぐにため息を吐き出しました。


「はぁー…………いや、だからゲームするっつーの。恐らく今日も質問に来るであろう、アホの幼馴染の質問に答えながらな」


「…………アホじゃない。けど、ん……そういうこと」


 会話を聞いていたのか、カニのようにピースサインをチョキチョキとしながら、かなちゃんもまた同意。


「そう、か……分かったよ。じゃあ、詩音さん。今日は家が空いてないから、お昼も兼ねてカフェかどこかで食べながらしようか」


「は、はい……!」


 二人の気の利いた断りのおかげで、何とか私の想定通りとなりました。


 このまま午後も頑張れ、私!

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