7月9日(火) タイプ別診断・幼馴染編
「…………ひまー」
昼食を済まし、放送部の流す小粋な曲に耳を傾けながら五限目までの時間を潰す現在。
幼馴染のかなたは、そう退屈そうに唸り、机にへばりついていた。
「…………何かネタない?」
問われる俺であるが、急に言われて出てくるわけもなく肩を竦める。
一応、翔真にも目線だけで尋ねてみるが同じような姿が返ってくるだけだ。
「あっ、じゃあ……かなちゃん。ネットのタイプ別診断でもやってみる?」
『タイプ別診断……?』
そんな中、意外にも菊池さんから振ってきた話題に俺たち三人は揃って首を傾けた。
名前からして、性格診断的なやつだとは思うが……。
「うん。十五個の質問に答えて、その人を十七のタイプに分ける診断サイトがあるの。…………これなんだけど」
そう言って差し出されるスマホの画面を眺めてみれば、可愛くデフォルメされたキャラクターの絵が載っているポップなサイトが見て取れる。
「……まぁ、確かに暇つぶしにはなりそうだな」
こういったものは腐るほどあるし、故に信憑性の欠片もないおふざけに過ぎないのだけど、だからこそ手持ち無沙汰な今を過ごすお遊びとしては相応しかった。
その事をかなたも感じたのであろう。
一つ頷くと、画面をタップし、早速質問に答えていく。
『第一問。議論や討論は好きな方ですか?』
その様子を眺めていると、どうやら①から⑤の割り振られた数字で解答するようで、①のいいえ、③がどちらでもない、⑤がはい、とそれぞれ程度で分けられているらしい。
「……あんまり好きじゃない。……①で」
『第二問。たとえ遊びの約束でも、遅刻をする人が許せない方ですか?』
「そうでもないけど……一応、②」
『第三問。政治の話をするのが好きな方ですか?』
「…………嫌い」
そう断言し、迷わず①を選択するかなた。
てか、学生で政治の話が好きなやつとかいるわけ――いる、わけ……いそうなんだよなぁ、そんな変人。だって日本だもん。
『第四問。旅行に行ったらお土産は忘れない方ですか?』
「……忘れないから、⑤」
というよりも、これで①を押せるやつは相当気が利かない奴だな。間違いない。
『第五問。小さいものや可愛いものが好きな方ですか?』
「……普通、③」
おいおい、それでいいのか花の女子高生。
――などと繰り返すこと残り十問。
テンポが悪いため、少し駆け足で進めていこう。
『第六問。人に同情して流されてしまいやすいタイプですか?』
「……②かな」
『第七問。相手の学歴や働いている企業を重視しますか?』
「……①、もっと大事なところがある」
『第八問。幽霊や超能力は信じない方ですか?』
「……そらがいるかもしれないし、いないかもしれない――って言ってたから③」
『第九問。フィクションよりもノンフィクションの方が好きですか?』
「……どっちもだから、これも③」
『第十問。喜怒哀楽が激しい方ですか?』
『これは絶対に①!』
「なんで皆が答えるし……」
『第十一問。趣味や娯楽にお金を惜しまない方ですか?』
「……使うけど、そらほどじゃないし②かな」
「おい、なんで今引き合いに出した?」
『第十二問。何かといい加減で遅刻などをしてしまうタイプですか?』
「…………どう、そら?」
「遅刻は割としないよな、お前。まぁ……いい加減ではあるけど」
「……じゃあ、②で」
『第十三問。ウジウジと悩んでしまう方ですか?』
「……あんまり悩まないし、①かな」
『第十四問。世間体を気にする方ですか?』
「全く……①で」
『第十五問。人から期待されると嬉しい気持ちより、ストレスを強く感じますか?』
「最終問題だね。どうなの、かなちゃん?」
「んー……その期待してくれる相手による、かも……」
……そう言いながら、チラチラとこっちを見るな。
「じゃあ、③かな?」
「…………③だろうな」
そんなこんなで、五分足らずで終えた問答。
その質問画面から切り替わるのを待っていれば、出た結果はこんなものだった。
『個性がないのが個性! 平均タイプ』
……あー、うん。
何か色々と察することのできる見出しに、一同は沈黙を保ちつつ診断結果を読んでいけば、そこに書いてある内容はあってないようなものであることに気付く。
曰く、バランスの良いタイプ。何でもそつなくこなす。可もなく不可もなく。普通。普通。普通。
ネタ枠としか考えられないほど書き込みの薄い結果であるのに、どうしてこうも心を削られる思いがするのだろうか。
診断されたかなたへの不憫さに空気が悪くなっていくのを感じ、俺は声を上げた。
「ま、まだ時間もあるし、俺もやってみようかなぁ……!」
半ば強制的にそのスマホを手に取れば、敢えて問題文まで読み、気分を紛らわせるように進めていく。
その際に気付いたのだけど、質問の内容が少しかなたのものと変わっていた。しかし、あまり変わり映えしないので割愛。
そのままタップすること十五回。同じようなロード画面に入る。
選んだ解答によって問題を変えてくるらしく、かなり凝った作りをしているようだが、結果は果てさて――。
『個性がないのが個性! 平均タイプ』
「ふざけてんじゃねーよ……!」
何だこの診断サイト、壊れてんのか?
それとも、俺たちが壊れてる――もとい、平凡すぎるのか?
投げそうになる手元のスマホであるが、菊池さんのものということで取り敢えず、壊す前に返した。
「……なぁ、そら
しかし、そうなればぶつける当てもなくなり、行き場のない怒りを一体どうしたものかと思案していると、翔真は肩を叩き、俺に語りかけてくれる。
「普通、って何だろうな」
「やかましいわ」
そんなもの、俺が聞きたいわ。
割と個性的な人物だと自覚していた分、この結果に自分でショックだよ。
「あれ……でも、これ――」
そんな面白味も何もない、悲しい結末に涙する人間が二人いれば、菊池さんが何かに気付く。
そうしてスマホを机に置くと、画面のある一部分を示した。
「平均タイプの人は、平均タイプの人と相性がいいみたい。しかも、最高って。ここだけ見れば、かなちゃんたちに当てはまってるね」
――どれどれ…………ふむ。
曰く、非常にバランスの取れた最高の組み合わせである、と。
その言葉に、一人の少女が頷く。
「ん……本当」
同時に浮かんだ微笑み。
それが、先程まで蔓延っていた空気を霧散させた。
……何だよ、良いとこあるじゃん。この診断サイト。
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