6月20日(木) 新たな悩みの種・少女編
「……………………はぁー」
いつものお昼休み。
昨日から久しぶりに友人合わせて四人でご飯を囲んでいるというのに、隣に座る幼馴染は疲れたようなため息を吐いていた。
「どうしたの、かなちゃん? この前のことで、まだ何か言われてるの?」
心配そうに顔を覗く菊池さんは、つい一昨日のことが関係しているのかと疑い、かなたの身を案じている。
「いや……それは大丈夫なんだけど…………」
が、それに対して返ってくるのは否定。
しかし、いつもとは違い言葉の歯切れは悪く、要領の得ない話し方になっていた。
「じゃあ、どうしたんだよ。大人しく吐いて、楽になっとけ」
面倒くさくなった俺は投げやりに促す。
別に悩み当てクイズをやっているわけでもないのだ。これで話せないのなら、恐らくは話したくない内容なのだろう。
箸を進めながら気長に待っていると、ポツリとかなたは口を開く。
「……………………こ、告白が増えて……困ってる……」
「…………は?」
「えっ?」
「へぇ……」
思わぬ発言に、三者三様の反応。
もっと具体的にその様子を挙げるとすれば、俺は何を言われたのか分からずに惚け、菊池さんは言われたことを理解したが故に驚き、翔真は全てを察して面白そうな笑みを浮かべていた。
一方で、そう語るかなたもまた一丁前に照れた様子で目を僅かに伏せ、コイツの普段を知っている者なら物珍しく思うほどに、滅多にお目にかかれない表情を晒して――って、今はそういうことを考えてる場合じゃないだろ!
「それはアレか? 俺と付き合ってる云々の噂が原因なのか?」
「多分……?」
本人も置かれている事態をよく分かっていないようで、俺の問いに首を傾げながら答える。
まぁでも、どうにもかなたは裏で男子に人気なようなので、告白されたという状況そのものは起きて然るべきことだったのかもしれない。
そう一人で納得していると、恋愛マスターと名高い――少なくとも人一倍モテているだろう御仁から意見が飛んでくる。
「いや、その噂が……ってよりも、噂を二人が否定してまわってることが原因だと思うよ」
しかし、さすがはかの御仁のお言葉。
何を言っているのかさっぱりだぜ……!
「あっ、そっか……!」
対して、菊池さんは理解できたようで……ヤバい、俺の恋愛能力の低さが世間に露呈してしまう。
…………いや、よくよく考えれば別にいっか。
「二人で納得しているところ悪いんだが、俺が分からん」
「…………私も」
恐る恐る手を上げる、俺とかなた。
どうやら、この幼馴染コンビはそっち方面に疎いようで、見事にポンコツ具合を晒していた。
「簡単な話さ。まず最初の噂で二人が付き合ってると広まった。けど、俺たち外野からすれば、正直な話『やっぱりそうなんだ』って納得できるような周知の事実だったわけなんだよ」
「けど、それをかなちゃんと蔵敷くんが否定したの。その行為って、『私たちはフリーです』って宣言してるようなもので――だから、挙って皆がかなちゃんに告白しに来てるのだと思う」
…………なるほどな。
仲の良い奴がいるっぽいけど、付き合ってないなら俺にもチャンスがあるかも!? ――って思った輩が大勢いたってことか。
まぁ何と言うか……ご愁傷さまだな。
それもまた、人気者の宿命ってやつなんだろうけど。
「断るの面倒なんだけど、どうすればいい……?」
しかし、それはあくまでも他人事として受け取れる俺の勝手な言い分であり、そう尋ねる
「手っ取り早い方法としては、『恥ずかしくて否定してたけど、実は付き合ってましたー』って二人が公言すること……かな。元からそうかなって思われてたくらいだし、元鞘に収まるだけだと思う」
確かに、一番堅実で安定性のあるやり方だと思う。
が、しかし……うーむ…………。
「…………やるか?」
「んー……あまり嘘はつきたくないかも」
だよな。それで、さらに余計なことを背負いこんでも嫌だし……。
「じゃ、じゃあ……かなちゃんが『私は誰とも付き合う気がない』って広めるのは……?」
おぉ、それは割りとアリな作戦な気がする。
「それは……良いかも」
かなたもノリノリなようだ。
これで悩みの種が消えてくれればいいんだけどな。
そう意見が纏まろうとしていれば、忠告のように翔真は一言だけ水を差した。
「それでもいいとは思うけど、告白の数が減るだけで玉砕覚悟の人とかは平気で来るから気を付けてね。あと、同性愛者だ――って噂がたつこともたまにあるから、それも気を付けて」
経験者は語る、とは言うけれどその目には悲嘆のような何かが浮かんでおり……。
「あっ、はい」
思わずすで返事をする、かなたであった。
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