4月26日(金) 連休の計画
束の間の休息。賑わう喧騒。
教育棟一階にある売店横の自販機で買った紙パックのココアを口から離した私は、こう問いかける。
「皆さ、ゴールデンウィークの予定はあるの?」
内容はもちろん、明日から控える連休のこと。
平日末ということもあり、朝から頭の中はこの事でいっぱいだった。
「うん、私は家族全員で沖縄に行くんだ。海……はちょっと早いけど入ることができるみたいだし、食べ物もあって楽しみ!」
始めに答えてくれたのは詩音だ。
「ソーキそば、ラフテー、チャンプルー」と口ずさむ姿は、なんとも愛らしい。
「沖縄いいね。首里城や美ら海水族館、離島なんかの観光スポットもあるし」
そこで畔上くんが会話に参加してくると、彼女もまた同じ話題を振る。
「翔真くんはどう、なの……?」
すると、少しバツの悪そうに頬を掻き始めた。
「俺も似たようなもんなんだけど、一応ハワイに」
女子一同、「ひゃー」と驚愕。
まぁ、一同と言っても二人しかいないけど。
「沖縄は時期的に海は早いって言ってたけど、ハワイはどうなん?」
沖縄、ハワイ、どちらもマリンスポーツが有名だ。
となれば、是非とも気になるところ。
「シーズン真っ盛りらしいよ。ダイビングにサーフィンと、俺も楽しみだよ」
おぉう……サーフィンと申すか。
本当になんでもできる人だな、この人は。
それにしても、二人とも旅行なんだ。
十連休っていう大型休日だし、それが当たり前なのかね?
「……で、そらは?」
我関せず、一人本を捲っていた隣の幼馴染の肩に頭をぶつけながら尋ねる。
コイツのことだし、どうせ聞いてはいるだろうけど。
「特にはない」
おー、同士よ。
完結かつ共感を呼ぶ返答に、心中で喜びを謳った。
「……けど、母さんは町内の旅行に行くらしい」
「へぇー、そうなんだ」
そういえば、そんな話もあったっけ。
ウチのお母さんは私とお父さんだけを残して家を空けるのが嫌だからって断ってたけど、そらママは行くんだな。
やっぱりコレが娘を持つ親と息子を持つ親の違いなのか……?
「最後はかなちゃんだね。どうなの? なにか予定はある?」
そのまま当然私にも同様の話が回ってくるが、答えはつまらないもので話す前から苦笑いが生まれてくる。
「いーや、私もなし」
お手上げ。降参。
そんな意味を込めて両手を高く上げると、そのまま軽く背中を伸ばした。
同時に、机に置いていた紙パックにも手を伸ばすが、持ち上げた感覚は軽い。
少し吸うだけで、ズズズッとストロー飲料独特の音が響く。
「そっか……。お土産は買ってくるから、楽しみにしててね!」
「もちろん、俺もな」
二人がそう励まし……のような声を掛けてくれるとチャイムが鳴り始めた。
「任せたよ、親友」
「任せた、親友」
被る声。
手の平をグッパーしながら隣を見やると、同様の動作をするそらの姿がある。
生暖かい目で見てくる二人の視線が、少し気恥ずかしかった。
♦ ♦ ♦
「ただいまー……何してんの?」
家に帰ると、リビングではトランクケースに荷物を詰めるお母さんの姿があった。
入れているのは主に着替えやメイク道具など様々。
……旅行にでも行くの?
「あっ、かなた。実はね、ゴールデンウィーク中にお父さんの休みが取れることになったの。だから、せっかくだし家族で旅行に行きましょ?」
「えっ…………?」
なにその急展開。
いきなりすぎて付いていけない。
「行先は?」
「今、お父さんが調べてくれているわ……会社で」
しかも、行き当たりばったり。
あと、お父さんはぜひ仕事をして。
「――と思ったら、お父さんから連絡。……『ペアならいくつかあるけど、三人は厳しい』か、やっぱりそうなるわよねー」
スマホを片手に一人呟く我が母。
しかし、そこに天命が降りる。
「お母さん、あのさ……」
「なにー?」
「私、ゴールデンウィークの間は友達と遊ぶ予定立てちゃったし、たまには二人で旅行に行くのも良いんじゃない?」
そう話をすると、キョトンと瞬きをしながらこちらを見つめてきた。
「それって、かなただけを家に残すってこと?」
「まぁ…………そうなる、かな」
途端に変わる露骨に嫌そうな顔。
当たり前か。お父さんを残すから、という理由で一度旅行を止めたくらいなんだから。
「それなら、行かない方が良くないかしら?」
「でもさ、せっかくお父さんが休みになったのにずっと家で……ってのも可哀想じゃない?」
「だったら、日帰りでどこか行くことも……」
ぐぅ、手強い。
「……いやほら、ほぼ毎日予定組んじゃったから」
少し苦しいが、追い打ちをかけて手数で攻めよう。
「それに、私もそろそろ自立し始めた方が良いと思うの。料理とか、ね? ね?」
「そうねー……それは確かに」
よし、手応えあり。
なんか後から苦しくなりそうだけど、取り敢えずは前進だ。
「家のことは私がやるからさ、家事も仕事も忘れて二人水入らずで楽しんできてよ」
「…………………………………………」
……どうだ?
「…………分かったわ。その好意、ありがたく受け取る」
やった……!
「――けど、何かあったらすぐに連絡するのよ?」
「はーい」
小気味よい返事をした私に満足すると、お母さんは再びスマホを触り始める。
おそらく、お父さんに連絡を入れているのだろう。
リビングを出た私も、同じくスマホを取り出した。
考えていた
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