4月13日(土) 土曜講座①
割と楽しかった学校行事を終え、今日は土曜日。
自称進学校であり、その中でも難関国公立大学を目指す進学・特待クラスな我らは、土曜日だろうが高い頻度でこうして通わなければならない。
しかし、平時の学校とは違い
「ほら、頑張れ。段差に躓くなよ?」
「んー? ぅあ……!」
寝ぼけまなこを擦るかなたの手を引っ張り、駅のエスカレーターへとエスコートする。
その際、段差が生じるため声を掛けたのだが聞いちゃいない。危うく転びそうになったので、抱きとめるようにしてその体を支えた。
「あ――ぶねぇ……。言わんこっちゃない、早よ起きろ」
昨日の疲れが残っているのだろう。
コイツ自身、中学の頃から運動らしい運動はしていないから体力がないしな。
けれど、センスだけはあるようで、断じて運動ができないわけではない。
一年生の時、体育の授業でその凄まじい運動神経を披露し、一時期勧誘が殺到したほどだし……。
そして、そんなかなたは現在、赤子の如く俺の腕の中に収まり「あったかー……」などとほざいているため、一発叩いといてやる。
「…………いたっ……」
涙目で、見上げるように抗議の視線を向けられた。
だが、残念だな。そんなに強く叩いたつもりはない。大方、あくびで目が潤んでいるだけだろう。
「起きたか? 起きたな。別に引っ付いていてもいいが、少しくらいは周りに気を付けろよ」
「ういー……」
ぼんやりとし、それでいて何気にそそっかしい幼馴染を連れて、今日も俺は通学する。
♦ ♦ ♦
そして、教室へと到着。
駅からここまで所要時間はものの数分であるが、それでも歩くというのはいい運動になったのだろう。
先程までのだらけきった姿は鳴りをひそめ、普段通りの通常営業へと移行していた。
……もしくは、学校という外の場に意識を切りかえただけかもしれないけど。
「おはよーっす」
「はよー」
ドアを開け中へと入った俺たちは、自席に鞄を置き、近場の友人たちに挨拶をする。
「よっす、そらに倉敷さん」
「おはよう」
授業開始まで十五分。
余裕を持って登校してきたはずなのだが……やっぱり自転車・徒歩組は早いな。
敢えて早く来ない限り、この二人には勝てそうにない。
…………いや、別に勝負ってわけでもないんだけどな。
「にしても、面倒だよなー。土曜まで学校があるなんて」
朝から早々に愚痴をこぼせば、翔真は苦笑を浮かべてこう返す。
「それ、毎回言ってるよな。どうせ午後から部活なんだし、どっちにしてもだろ」
「いいや、違うね。俺は授業も部活もそんなに嫌いじゃない。ただ、学校に来たくないだけだ」
「いや、両方とも学校に来なきゃできないぞ。というか、学校からその二つを取ったら、何も残らないよ」
そんな俺の言葉を冗談と受け取ったのか、笑われてしまった。
割と本気なんだけどなぁ……。通信教育とか楽でいいと思う。
まぁ、そんなことをすれば、絶対に勉強しなくなるだろうけど……。
結局、人間は多少束縛された方が働くのである。
「…………一限って何だっけ?」
生じた会話の隙間を埋めるために、適当な話題を振ってみた。
「古文。でその次が、数II・Bと英語」
「いきなりダルいなぁ……」
古文は予習必須。
予め次の授業でやる内容は知らさせれており、その文章を模写、日本語訳までしてこなければならない。
まぁ、それはいいんだけど……問題は、その日本語訳を毎回適当に当てられるという事だ。
人前で発表など、断じてしたくない。訳を間違えたら、いちゃもんつけられるし……。
「ま、三限で終わりなんだ。頑張ろうぜ」
そう翔真が締めくくると、丁度よくチャイムが鳴り響く。
教科書よし。予習済みのノートよし。筆箱よし。電子辞書よし。
机上の準備が万端なのを確認し、今日も俺は勉学に臨む。
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