4月7日(日) しがない休日①

『――ってことが昨日あってさ』


『へぇ、そうだったんだ。やっぱりかなちゃん達は仲が良いね』


 明日に学校が控えた、休日の午後。

 暇だった私はベッドに寝転がり、親友の詩音とメッセージアプリで会話を楽しんでいた。


 内容は昨日のそらとの出来事なのだが、あいつの沽券に関わるため、入学式の話だけに留めている。


 そうしていると、口癖のように毎回言われる一言が今回もテキストという形で送られてしまったため、私もしっかりと言い返しておこう。


『えー……別に普通だよ。詩音も家の隣に娯楽施設があったら通うでしょ? それと同じ』


『かなちゃん……。それって、蔵敷くんをおもちゃって言ってるようなもの、だよ……?』


 すぐに来る返信。

 それを見た私は「んー」と唸り、首を傾げる。


「……別に、おもちゃではないんだよなー」


 現に私がそらを揶揄からかうことは少なく、逆もまたそうだ。

 何だろう……なんて言っていいのかは分からないけどしっくり来ない。


『いや、そらじゃないな。強いて言うなら、そらの家そのものがアミューズメントというか……楽しいというか……』


『居心地がいい、とか?』


『あー、それかも』


 なんとも的を射たような答えに、思わず現実でも声を上げてしまった。


 そう、居心地がいいのだ。

 何かをしていようと、していまいと、一緒にいるだけでいつの間にか時間が過ぎてしまっている。


 それが楽で、通っているのだろう。


『ふふ……やっぱり、仲がいいね』


 またしても言われてしまった。

 否定はしないけど、何だか釈然としない。


『じゃあ、今日も蔵敷くんの家に行ったの?』


『いーや、行ってない。というか、上げてくれなかった』


『えっ!? なんでだろ……』


 その問いに、私は「分からん」と台詞付けされた腕を組む男のアニメキャラのスタンプを送る。


『そっか……かなちゃんに分からないんじゃ誰にも分からないね』


 などと返事が来るけれど、本当は何となく勘づいていた。

 多分だけど、昨日言っていたことが関係しているのだと。


 やれやれ。あんなことを知っている異性なんて、私だけで十分だろう。

 そんな気持ちから、詩音にはお口チャックでいこうと思う。


『それよりさ、詩音は入学式のこと覚えてる?』


 話を逸らすように、始めにしていた入学式の話題へと移した。


『えっ? うん、もちろんだよー』


 殆どノータイムで返信が来たため、返しに『私たちが初めて出会った日だしね』と打とうとしていたのだが、続く彼女からのメッセージに私は消去のボタンを長押しする羽目になる。


『翔真くんの挨拶、カッコよかったよね!』


 そして、ハートで彩られたスタンプ。

 お、おう……詩音さん、相変わらずパないですな……。


『そ、そうだったね……。色んなところから歓声が湧いてたし……』


『そう! そうなの! 新入生代表の挨拶って入試の成績が一番の人がやるみたいなんだけど、そこからもう凄いよね! あの時は、私も含めて皆が顔しか見てなかったと思うけど、翔真くんのことを知れば知るほど驚くもん! 運動も出来るし、顔もかっこいいし、誰にでも優しいし……本当に憧れる! クラスも一緒だし、部活でもマネージャーになれたし、もうこの学校に来て良かったよー!』


 その後は歓喜するスタンプの連打。

 この惨状に画面を見つめる私は空笑いしか出来なかった。


「やっぱ、凄いな……この子」


 一途で純粋で、少し度が過ぎているかもしれないけど立派な女の子だ。


 あの時――入学式の日もそう。

 トイレに行ってか、お気に入りのハンカチを無くして必死に探していた私に詩音は声を掛けてくれた。


 それどころか一緒に探してくれて、正直引くくらい色んな人に尋ね回って、私が「もういい」と諦めだしても彼女は聞きやしなかったけ。


 結局、とっくの昔に拾われて裏で落し物として保管されていたんだけど……。

 その事を関係者の人に教えてもらうまで、ずっと付き合ってくれた。


 だから、その後のクラス移動で前の席だと分かった時には、話しかけるのにさほどの時間はかからなかったと思う。


『――なんてことも一応あったんだけど…………覚えてる?』


 興奮している詩音を宥め、畔上くんの話を打ち切り、そんなことを聞いてみた。


『……そうだったけ?』


 その数秒後に来た返事がこれだ。

 テヘペロ、と舌を出して片目を瞑るお茶目なスタンプと一緒に。


 あぁ、本当に……一途だなぁ…………。

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