第48話 神力 ※キャラコラボ

 

 目の前で手際よく切り捨てられた異形を前に、龍騎は呑気に拍手を送っていた。拍手を送られたクロナはただ不機嫌に眉を寄せた。剣に付いた血糊を払い落とし、貴方も戦ったらどうだと言葉を向けるも龍騎は楽しげに笑って異形の死を確認する。


 ここ竜の国には魔物と呼ばれる、人とも動物とも別の種類の生き物が数多く存在する。その殆どは人の住む街から離れた険しい山の中や森の中に住んでいる。しかし時折、人の街近くに下りてくることがある。街の外に出た『厄介事』は騎士が鎮める。


 騎士だけで手が足りない場合は警兵たちが、そしてそれでも手が足りない場合。


「騎士が傭兵の手を借りて良いのか」


 騎士は傭兵を呼び出すことがある。


「傭兵の管理なんてことをしてるのはこれが理由でもあるからなあ」


 でなければあんな面倒なことするか。


 龍騎はからりと笑って辺りを見回した。彼らの住む街にほど近い街道から外れた獣道に横たわる何頭かの狼。牙と爪が発達し、人の首に噛み付いたならば一瞬で命を奪うことが出来る。


「今俺が怖いのは遥の小言だよ。クロナさんと討伐に出たなんて知れたらなんて言われるか」


「……不思議な関係なのだな」


 剣を収め、龍騎を見やると首を傾げている。何が。と、今にも言い出しそうなほど。


「嫌ではないのか。自分以外の」


「あー、そういう。どうでもいいね」


 からりと笑った龍騎は両手を、全身を押し上げるように空へと伸ばした。


「どうせ俺たちはお互いの元にしか帰れないから」


 さて、次の巡回ポイント行こうか。


 見晴らしの良い街道から外れ獣道へ。慣れない人が歩けば体力を多く奪われ、足を取られ、傷を負う。二人は慣れた手つきで草を除け、足場を見つけ、踏み出す。


 龍騎は背後から聞こえる変わらない足音にため息を吐きそうになった。平時、騎士隊舎のような足場の安定した場所で強ければこうした荒地には弱かろうと、思った。見知った青の姿ではないにしろ、彼も彼で『普通』とは言い難い。


「あれから琉斗たちとは話した?」


 獣道に差し掛かる草を払い振り返る。変わらない無表情でクロナは首を振る。


「雪山に駆り出されて以降、貴方の子たちには会っていない」


 おや藪蛇。


 いつかの失態を出されるも龍騎は変わらず笑った。


「この場所に『魔法』は無いと聞いた」


「お、今更な話だな。そう、少なくともこの国に魔法なんてものは無い」


「ならば何故雪山で暖を取れる」


 振り向いた龍騎を迎える無表情。ならばと笑ってはいるが変化はない。


 ふむ。わざとらしく顎に手を置いた龍騎は足元に転がる石を一つ拾うと、真上へ放り投げた。がさがさ、音を上げて枝を折り幹を傷つけた場所から多くの緑が落ちる。


 なんのつもり。声をかけようとしたクロナは視線の中の違和感に口を閉じた。


 一枚。


 たった一枚の葉が地面に落ちることなく龍騎とクロナの間で静止する。


「魔法ほど便利なものは無いな」


 宙に浮いたまま静止する一枚の葉。


 龍騎が軽く手を触れればそれは時を取り戻したかのようにひらりひらりと落ちていく。


「あまり実演する人はいないだろうから覚えておくと良いよ」


「今のは」


「この国で神力(しんりき)と呼ぶ力。手を触れていなくても物であればある程度思い通りになる。重い物や早く動く物を止める人は居ないだろうなあ。何も無いところに火を起こすのも同じだ。力を多く使うのはつらい」


ーーこの力は命を喰うから


 こともなげに放たれた『力』


「この力を使えるのはこの国の民だけだ。命を喰われる理由は皆が知ってる。気になるなら聞いてみたら」


「命を喰われるというなら、何故平気な顔で使える。帰る場所や待つ人がいるならそれは使わずにおくべき力のはずだ」


 いつもより饒舌な言葉に龍騎は背を向けたまま笑い声を返す。巡回ポイントに到着。そう言って振り返る龍騎はやはり笑顔。


「遥のためなら」


 茂みを揺らす音がして、龍騎の背後に人と同じ大きさの狼が爪を振り上げる。剣に手をおくクロナよりも早く、龍騎は振り返り剣を斜めに振り上げた。


 首を深く斬りつけられた狼はその場で倒れ、絶命する。


「アイツのためになるなら俺は俺もどうでもいいと思うよ」


 血のついた剣をそのまま鞘へと収めた。剣を悪くするぞ。クロナの言葉に応えず龍騎は終わり、と両手を空へと伸ばした。


「お手伝いどうも。傭兵に貸しを作ると怒られるんでな、俺達に手伝えることがあれば声をかけてくれ」


 竜を使ったなにかであっても、手助けしよう。


 それはかつて夫妻に断られた申し出。竜の持つ翼を使うことが出来れば物を捜す範囲は格段に広くなる。探しものをする彼にとって翼の有無は大きい。


「あとは遥に貸しを造れると良いな」


 最後にけろりと笑って言われた一言に、クロナは隠しもせず大きくため息を吐いた。

 

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