第34話 年明け

 

「おもちー!!」


「みこちゃん、それ明日だから」


 ばたばたと家の中を走り回る白色が誰かの背中にぶつかり、ぶつかられた男の呻きが漏れる。いつものこととは言えまつりごとの前はいつだってこうだ。


 白色の頭を捕まえ、しゃがみこんで視線を合わせてやれば楽しげに細められた金色の瞳と憎々しげに歪められた紫色の瞳が合わされる。


「みこ、家の中は……?」


「走らない!暴れない!」


「お前は今、何した……?」


「りゅうきに突撃した!!」


 それがルールに沿ってるとどうして思ったんだ。


 片手に料理用のしゃもじを持ったままため息をつく。ルールを再度確認しようと口を開いた瞬間、背後から蹴りを入れられる。


「みこに構ってないで料理終わらせなさい」


「……何だこの似た者同士が」


「お、お父さんお父さん。僕も手伝うから」


 お前は俺似だな、琉斗。


 そう言って少年の頭を撫でてやると少年は嬉しそうに笑う。


 背中を蹴られた男と少年は年明けに向けて調理を進め、女性と白髪の少女は取っ組み合いを始めた。


 ドタバタといつにも増して物音の大きい家の近所住人がくすりと笑う。


 年明けの夜、夜更け。


 ようやく静かになった家の中、一つのテーブルで横並びに並んだ二人がグラスを傾けていた。


「年明けぐらい、大人しくできないのか」


 男の言葉に女性はグラスを傾けながらカタカタと笑う。


「大人しくなんかしないわよ。私らしくないから」


「らしくなくても良いだろ、たまにはさ」


「嫌よ。それよりほら、そろそろ年明けね」


 外を見て、女性が言った言葉にああ、と生返事を返す。


「まあ、何だ。変わらずよろしくな」


「嫌よ」


 女性は男のグラスを奪い、一気に飲み干す。


「もっと楽しませてくれないと、ね」


 けろり、笑う女性に釣られて男も笑う。どれだけ頑張っても、苦笑いしか出なかったが、ただそれでも楽しいと思った。

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