ルート変更
セリス・アルバーンとの契約
1、汝は術者の売買を安定化させる為に如何なる手段を使おうとも成功させる事が義務付けられる。
1度この義務を全うされた場合この義務は無効となる。
2、術者は万が一にも汝が1を失敗させぬよう、契約が続く限り如何なる事態からも汝の命を守る事が義務付けられる。
3、売買が成功した場合術者は汝にその利益の2割を5時間以内に差し出す事が義務付けられる。
利益を差し出した時点で3の契約は破棄される。
4、契約が持続する限り双方は互いに対しこの契約に関わる嘘を付いてはならない事が義務付けられるが、契約成立後120時間後に4の契約は自動的に破棄される。
5、双方が契約は完遂されたと認めればこの契約書に記された全ての契約は即座に破棄される。
6、術者の望む新な身分証を手に入れた場合6の契約は破棄される。
7、術者が望む新な身分証を入手できず、契約を完遂されなくとも契約成立後720時間後全ての契約は自動的に破棄される。
8、双方のどちらかが上記の契約による義務を放棄した場合、その者の命は即座に奪われる。
「……………」
ガラガラと荷馬車に揺らされながら初めからもう一度から見直す。
また下まで目を通し終えた、まだ気が付いてない何かがあるかもしれない、まだ、まだ何か………
「そんなに見つめたって契約は破棄されないだろ?」
「うっ……分かってますけど………ここまで緊張したの大商会のお偉いさんに会った時以来ですよ……」
私は昨日、魔法使いであるセリスさんと契約を交わした。
この契約が交わされて直ぐ様セリスさんが私の身を守る為の魔法を複数掛けてきて、万が一持病がある事を考え飲むようにと渡してきたエリクサーという薬。
渡された薬が本物のエリクサーだとしたらその1本でどれだけの価値が付くことか……
だって、エリクサーってエルフの象徴の1つである神の秘薬とまで呼ばれてる……飲まされた後に言われて本当に肝が冷えた。
魔法使いにとっての契約の重要性が少し理解できた瞬間であり、昨日は緊張であまり眠れなかった。
そんな私と違ってセリスさんは横で小さな吐息を立てていたし今も荷台で昼寝をしている。
ターニャはセリスさんの様子に「やる気あるのか?」と言っていたけれど……
緊張してガチガチな4年そこいらの若輩者と、
幾つもの場を踏んできた一流の余裕。
自分の命が掛かっていてあんな余裕でいられるものなのでしょうか?
いや……違う…………
私は頭を横に振り、今の『当たり前のこと』に対して抱いた馬鹿みたいな疑問を拭う。
セリスさんが昨日言ったように商人は利益の為に命を掛け金として差し出す事もある。
行商人であれば尚更そのリスクが強くまとわり付く。
例えば、高級な食品を運んでいる最中に荷馬車の車輪が壊れてしまい、食品が生ゴミ同然になってしまい破綻する。
それにより奴隷に落ち、下手をすれば死よりも恐ろしい辛い日々になる。
これは商人であれば知っていて当然の事だ。
そう言った意味では安全も保証されている今回の契約は私自身が常日頃背負っているリスクと比べて軽すぎるくらいです。
けれど、死ぬという事をハッキリ突き付けられる事によってここまで緊張するものだとは思ってもみなかった。
私は心の何処かで自分には関係無い。
自分なら大丈夫だって何の根拠もない自信を抱いていたんだと今になって気付かされた。
だからこそ、私とセリスさんの態度の差は普段からどれだけそのリスクをきちんと見つめられているか。
という意識の違いなのではないかと思えて仕方がない。
そう分かっていても胃がキリキリする。
「うぅ……早く契約を済ませないと胃に穴が飽きそうな気がします……」
「そんなになのか?
だから嫌だって言ったのに……」
「でも、これくらいの事できなきゃ商人じゃないよ。
それにターニャも私を信じて妥協してくれたでしょ?
だから私も頑張る」
昨日ターニャは嫌だと言っていたが、私が乗り気なのを見て不安そうではありながら最終的には契約書にサインする事を黙認してくれた。
友人として。
「そっか……頑張れ」
「うん、頑張る」
ターニャが私の頭を帽子越しに撫でてくる。
「仲の良い事だ「うわぁ!!!」けど……」
気がついたら私の荷台から身を乗り出していたらしいセリスさんに声を掛けられる。
何を驚いたかってセリスさんの顔が僕の肩の側にあって声を掛けられるまで一切気が付けなかったんですよ?
それはもう手綱を離してしまうくらいには驚きました。
ただ、私が驚いた事にセリスさんも驚いていた。
「……ククク、何もそこまで驚……フフフ」
少しの沈黙の後にセリスさんはすぐに笑い出した。
うう……少し恥ずかしい……
「初対面の時も思ったが……あんた本当は魔法使いじゃなくて盗賊か暗殺者じゃないのか?」
「私は正真正銘普通の覇王だよ」
「普通の覇王ってなんだよ……」
「覇王は覇王だろう?
経歴だけ見ればどこに出しても恥ずかしくない覇王だったと思うんだけどなぁ」
またターニャが露骨に嫌そうな顔をしている。
昨日初めて知ったけどターニャってもしかしなくてもからかうのは得意でもからかわれるのは苦手だよね……
あとセリスさんの覇王押しは何なのでしょう?
「それよりもあっちに町があるね、あそこが目的地なのかい?」
そう言いセリスさんは山……リンデルの方を指す。
目的地はフォンドであり、リンデルとフォンドは同じ巨大な湖付近に存在している。
現在地からフォンドは馬の足で1日と半日ほど掛かり、リンデルは半日も掛からない程度だ。
なるほど……どこの町で契約を完遂しなきゃいけないなんて明記されてないから当然リンデルでも良いという事ですか。
「……あれ?……確かにそっちにリンデルがありますけど山に遮られて見えませんよね?」
「そりゃ~上から見たに決まってるでしょうに」
そう言いセリスさんが右手を頭より高い位置に持っていくと白い鳥……いや、全身白紙の鳥が右手に止まった。
その紙の鳥は呼吸して自然な形でお腹が膨らみ……そう、まるで生きているように今も動いている。
「コイツを使って上から見たんだよ。
魔法使いなら使えて当然の基礎中の基礎だから知識として頭の片隅に覚えておきな」
「そうなのか?」
「物を動かすのは基礎ですけど生きていると誤認するレベルの技術を基礎と言うのでしょうか?」
「基礎はどこまで行こうが基礎だろ?
一流の剣士の素振りと素人の素振り程度の違いしかないと思うけどね」
「なるほど……Aランク冒険者の一振りを見たことあるがあれと同じ道理か……あれは1つの芸術だと思うね」
ターニャは理解したみたいだけどその例えは分かり難いですね……
「とりあえずリンデルへ向かいましょう」
あれですかね、同じ商品でも出所の信頼度と品質で相場に差が出るみたいな……
いや、なんか違う気が……
・
そんな風に話を続けながら数時間後、ようやくリンデルの門へとたどり着きました。
「止まれ」
そこで見覚えのある門番に声を掛けられる。
「どの様な理由で町へ?」
この質問は門番が存在する町なら必ず行われる質問です。
「僕は行商人のメリル・ダンウィルと申します。
本日は岩塩と釘を売りに町へ訪れました」
私は少し緊張した様子で答える。
契約のせいとは言えこんな事で緊張するなんて旅を初めてすぐの頃以来ですよ。
「私はターニャ、冒険者で護衛途中だ」
ターニャさんも僕に続いて身分証を見せながら答える。
「……そちらの方は?」
「えっと……」
よく考えたら身分証を持ってない時どうすれば良いかなんて知らないし考えてませんでした。
自分の契約のリスクばかり考えていてそこまで頭が回らなかったなんて…………
くっ……これは通貨の名前を覚えきれてない駆け出し以下と言われても仕方の無い盆ミスではないのか?
私の馬鹿!
「フフフ、お兄さん私に興味あるのかい?」
私が思考を詰まらせているとセリスさんは荷台から降りて門番へと近づいていた。
この人本当に気配を絶つのが上手いんですけど……
一流の魔法使いには求められる技能なんでしょうかね?
混乱した頭のせいもあり関係無い事を考えている私を他所に、セリスさんは門番へと顔を近づけ昨日私へナイフを突きつけていた時のように目を細めて猫のような笑みを浮かべていた。
「え……あの……」
そのセリスさんの行動に門番の男性はたじろく。
同性である私でも魅力的な色気を感じるのですから、その気持ちはお察ししますよ。
「フフフ、君も悪くない反応をするね」
門番から一歩離れたセリスさんは取り出した杖を持ち、まるで演劇のような振る舞いをし、
「我は普通の魔法使い、セリス・アルバーン!
契約に従い契約主の安否を死守する者!!!」
とても気高いと言いますか……演劇のような………ではなく正に演劇の舞台だと言わんばかりに凛々しい声でそう宣言しました。
「……え?……あの…………」
「なんだい?反応悪いねぇ。
フフ、冗談は置いといて真面目に話しても私は契約に従い契約主を守っているんだよ」
先程の凛々しさとうって変わって砕けた感じな口調で話始める。
「その契約での私の要求は町の中に入る手助けをしてほいしって内容なんだよね。
私としたことが身分証が無くなってしまってね。
偶々酒の席で話した事のある行商人に頼んで手助けをしてもらえる事になって本当に助かったよ。
という訳で彼女は私の保証人になるんだが、身分証が無い者が入る為の手続きとかは何かあるのかい?」
セリスさんの言葉を聞き、門番は私の顔を見る。
「ええ、その通りです……コホン」
声が裏返ってしまったので1度咳払いをした。
嘘はついてません、昨夜は緊張をほぐすためにとセリスさんから少しだけお酒を進めらて口にしました。
「彼女は同じように旅をしていて共に話をした仲です。
彼女はそういう性格ですが、とても多くの知識を持ち沢山のアドバイスをくれたりするんですよ。
そう、そうです、そういう性格をしていますが確か……彼女は人混みは苦手だと言っておりましてね。
転々としているうちに普段使わない身分証を落としてしまってみたいです。
事実彼女と出会ったのはどれも小さな村でした」
僕はとにかく思い付いた事を口にしてみた。
セリスさんのさっきの行動を見て少し緊張が和らいだお陰で意外にスラスラ出ましたね。
セリスさんのあれは恥ずかしくないのでしょうか?
こんな真っ昼間の門前で……
そのかいあって門番は納得したのか手続きを始めてくれました。
最後に私が紙にサインをして終わりです。
「……はい、確かに。
これで手続きは終わりになります。
入ってどうぞ」
「ご苦労様です」
手続きを終えて馬を動かす。
門から少し離れたタイミングでドサッと私の背中にのし掛かってくる感覚がした。
「2回も言ったそういう性格ってどう言う性格なんだい?
ん~?セリスお姉さんに言ってみなさいな?」
「あ、いや……あれは言葉のあやと言いますか……」
「フフフ、怒ってないって。
私は『そういう性格』だからね、フフフフフ」
「え……あ……あははは」
本当に怒っていないようで心底可笑しそうに笑うセリスさん。
やっぱりセリスさんは何処と無くターニャに似ている。
同族嫌悪と言いますか、だからこそターニャはセリスさんの事が苦手なのかもしれないと思いました。
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