エスペランサー・Another

雪月花

第0章 希望の理

「ありえないことだ」


 その神、万象を全て統べる宇宙の創世神にして、全ての理の頂点に立つ神、盤古神は初めて自らに生まれた動揺に驚愕する。


 だが、それもそのはず。

 理、第一階位。

 それはあまねく全てを統治し、支配する万象の頂点。

 彼に起こせぬ創世はなく、またこの宇宙において彼に敵うもの、理解できぬものはない。

 にも関わらず、今、彼は自らの宇宙が崩壊していくのを、何一つ理解できずにいた。

 これほどの不条理が存在していいはずがない。

 なによりも、彼にとって最も理解不能なのは、この現象を自らには止める術がない。その一点にあった。


「過去。いや、異なる時間軸、平行世界、そこで生じた何らかの異常が我が宇宙を崩壊させているというのか」


 だとしても、盤古神に叶わぬ事態などない。

 だが、事実として彼が持つ理、第一階位の力ですら、この崩壊には無力。

 ならば、彼にできることは一つ。

 この発生源となっている場所に自らの眷属を送り込み、この崩壊を止めるしかない。だが、


「伏犠、ソルムンデハルマングもこの崩壊に対処して動けぬか……」


 すでに宇宙の九割を消失。そこに存在した人間、神々、理を有する者。その全てが滅びさっている。

 今、盤古神の力でその発生源へと送れる人材はいない。

 これまでかと諦観の感情が盤古神に宿ったその瞬間――


「……むっ」


 一瞬見えた希望。

 それは自らが支配する星にて、ただ一人消滅から免れた人間。

 そこに住んでいた人類は彼以外を残し全て滅びさり、その星を生み出した人神ですらすでに滅んでいる。

 にも関わらず滅び去った星でただひとり滅びを免れた人間。


「これは……」


 盤古神はその人間に希望を見出した。


「……理を有する存在ですら、この滅びには抗えなかった。だが、この人間だけは違う。ならば、残る希望はこの者に託すとしよう――」


 盤古神は少年に力を与える。

 この宇宙崩壊を食い止めるため、次元を、時空を、世界線すらも越える力を。

 残る己の力全てを注ぎ、その少年に全ての未来を、希望を託す――。


「ゆくがいい。少年よ。君が挑むのは全ての理の果て、この絶望を覆すための希望の旅路だ。我が“開闢”の加護を君に与えよう――」


 そして、少年は往く。

 これは全ての理を踏破する希望の物語――。

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