帝王Tsuyamasama学園ラブコメ短編集② カクヨム投稿版!(コンテスト応募用②)

帝王Tsuyamasama

短編10話

「今日は一時間目が数学かー。小テストあったんだよなー……」

 一時間目から小テストなんてさー。はぁー。

「この上靴を履いたら教室で小テストを受けなきゃいけないんだよなぁ……そうそうこの封筒を中敷きに……ん?」

 俺は下駄箱に到着するなり慣れた手つきで靴交換をしていたわけだが

(ふふふ封筒ぉーーー!?)

 自分の筋肉使用量っぷりでもよくわかるほど驚いた顔をしていた。慌てて辺りを見回してみたが、後五秒遅かったら後ろの男子に見られていたところだろう。引き際の逃走術師マジシャンとでも呼んでくれたまえ。いややっぱやめて。

(とにかくここじゃ見ることなんてできない!)

 俺はいつもより上靴のかかとを踏んづけてしまってから校舎内に入っていった。封筒は忍者入門テストに合格できそうなくらいの速さで学生服の左ポケットに入れ、その手を突っ込んだまま怪しい足取りで歩き出した。11


(……まったく集中できなかった……)

 数学の小テストは撃沈。それでも俺は一時間目の数学を乗り切っ……いや沈没した。

はるくん、次理科だよ?」

 俺に声をかけてきたのは同じクラスの春野はるの 紗和さわだ。絵がうまくて髪も肩を越す長さがあるため、俺らの学年の中では俺よりは有名人だろう。

 俺の名前が空見そらみ 晴雪はるゆきということもあり、小学校のころは『はるはるコンビ』と男子からからかわれたこともあったが、その時のきっかけで紗和は俺のことを晴くんと呼ぶようになりましたとさ。めでだしめでたくねぇよ! 今はそれどころじゃない!

(はっ! ひょっとしてこの封筒の差出人は、紗和なのか!?)

 下駄箱んとこじゃ急いでたから封筒のことは薄いピンク色ってことくらいしかまだ知らない。

 紗和から手紙をもらえるなんて、正直自慢できるレベルだと思う。ほんとに紗和は絵がうまくてさぁ……。

「晴くん、行かないの?」

「ぁ?! い、行くぞ! もちろん!」

 気づけば教室にはもうほとんど生徒はいなかった。次の理科は第二理科室だ。


(……くっ。なんか流れで紗和と一緒に理科室に行くことになってしまった……)

 この休み時間に封筒を確認しようと思ったのに、しっかり俺の横を歩いてやがる……よりにもよって紗和は左側を。

(いつもならさ! 楽しいおしゃべりでもして紗和のこと盛り上げてさ! きゃいきゃい歩いてイェーイなんだろうけど……)

 くっそ、紗和の髪は俺の焦りもなんのそのと優雅にゆらゆらしてやがる。

「さ、紗和ぁ~、珍しいなあ! 俺と一緒に理科室行くなんて~!」

 とりあえずあがいてみる。

「昨日は調理実習で同じ班だったから、調理室まで一緒に行ったよ?」

「そうでした」

 危険な賭けはしてはいけません。紗和は笑っているのかなんなのか。

(でも紗和は今日も元気そうでなによりです)


 二時間目の理科の時間も終わった。プレパラート割った。ちょっと怒られた。

(よし来た二十分休み!)

 封筒を確認するには絶好のチャンスだ!

 俺は教科書ノート筆箱全部持って急いで理科室を出た。


(ここなら……よしっ)

 教科書やらを全部自分の机にぶち込むと、即座に中庭へやってきた。すみーっこの壁際を陣取る。もたれかかると白いのが付くことを思い出したのは時すでに遅しだったが、今はそれどころじゃない。

 俺は左ポケットから封筒を取り出した。角がちょっとだけ折れてしまったがほとんど汚れていない。

 えーっとこっちが表か? え、えらくきちんとした字だな。達筆~……とは違うよな。

(……俺の名前だ)

 散々ノートにテストに書きまくってきた自分の名前が俺のじゃない字で、しかも様付きで書かれてある。同姓同名が学校にいるなんて話は聞いていない。

 手首のスナップを利かせて裏を見てみると、

(……宮花陽湖……)

 そうかそうか宮花みやばな 陽湖ようこさんからかーふぅーん……

(ふぉ!? 宮花陽湖ぉ~!?)

 待て待て待て! あの生徒会長の陽湖かぁ!?

 去年は生徒会には関係なかったんだが、文化祭の手伝いをしてからたまにしゃべるようになっていってたら、今年になって生徒会長になっちまっててそらもう驚いたっけ……

 そりゃよそのクラスのこととはいえ、クラスの級長で忙しそうに荷物運んでたのを見かけて、ちょっと放っておけなくってさー……って、じゃあこの封筒はなんだ?

 シールを外して開ければいいんだよな。音符のシールは簡単にはがすことができた。

 中を確認すると……紙が~、一枚だけか。でも折られてあって、広げるとノートみたいに横線が並んでるタイプだった。ノートとは比べ物にならないほどかわいらしい紙だけど。

 なんか……神殿? とか夜空とかが描かれている紙で、全体的に薄い水色をしている。封筒に書いてあったようなしっかりとした文字で書かれてある。


  晴雪へ

 こんにちは晴雪。突然の手紙でごめんなさい。

 晴雪に伝えたい想いがあります。

 本当に急だけど、今日の20分休みに生徒会室に来てほしいです。放課後は生徒会や習い事で時間がなくて、学校の外で会うのは、なんかちょっと…

 待ってます。

  宮花陽湖


(………………おお…………おおぉぉぉ…………)

 ……果たし状じゃないよな? 違うよな? 違うよなっ!?

(あ、やべ! 二十分休みってもう行かなきゃなんねーじゃん!)

 俺はあれこれ思いつつも急いで封筒に手紙を戻して、生徒会室へ向かった。


(……生徒会室前の廊下までやってきたが……スタタタ)

 ここは人通りが少ないとはいえ、まったく人がいないわけでもなく。なんとなくぶらぶらしながら人通りがなくなったところで

(スタタタタッ)

 俺は忍者入門テストで合格をくれそうなくらい素早い動きで生徒会室のドアをスライドさせた。いつもは鍵がかかっているはずだが、すんなり開いてくれた。

 そのまま体を反転させながらまたすぐ扉を閉める。完璧な流れだった。

 普段入らない生徒会室のにおいを感じつつも、改めて室内に目をやると、そこには陽湖が立っていた。

「ほ、本当にいた……」

「来ていきなりそれー?」

 陽湖は三つ編みの髪を前に出して手でいじっている。

「手紙っ、読んでくれたからー……よね?」

「は、はい」

 陽湖は級長や生徒会長をやってるうえに三つ編みをするタイプなのでお堅いイメージを持つやつもたまにいるんだが、実際はそんなことはなく、活発で明るい方だ。正義感が強いって感じだろうか?

「……意味、わかってくれた?」

「い、意味って?」

「な、内容のことよっ、もうっ」

「あいや、想いがなんたらとしか……」

 陽湖はため息をついている。

「そんな遠いとこにいてないで、もうちょっとこっち来てよ」

「失礼しま、す」

 今日は生徒会活動がないのか、キャスター付きの長い机はたたまれて、イスもまとめて端に置かれてある。俺は一直線に陽湖に近づいた。

「……じ、時間ないから、言うわよ」

「え、もう!? あ、はい」

 俺が手紙読んだのがついさっきだってことはだまっておこう。

 陽湖は俺をまっすぐ見てきた。読んだり走ったり時間なかったりで落ち着いていないが、俺は陽湖の言葉を待った。

「晴雪。あなた……ずばり!」

 ずばり!?

「紗和ちゃんのこと好きでしょ!?」

「へ?」

 え、えと、えっと、えっっっと。

「はい」

 あ、はいって言っちまった。

 陽湖の表情が急にやわらか……いやかっこよくなった。

「よく言った晴雪! じゃ、紗和ちゃんに告白してあげなよ!」

 うぇっと………………

「ちょまーーーーー!! え、いや、いやいやいやいや!! 陽湖何言ってんだおめぇ!?」

 陽湖の表情はさらにかっこよく……? なった。

「いやーねぇ~実はさぁ~紗和ちゃんが晴雪のこと好きらしくってさー。でも当の晴雪はこんなキャラだし、こりゃ進展ないだろうなーと思って。それで! あたしがお手伝いしてあげようってわけ!」

 陽湖の親指ぐぅがばっちり決まった。

 俺は……とりあえず頭が追いついてないことはわかっている。

「紗和ちゃんと遊んだことないんだって?」

 俺はうなずいた。

「紗和ちゃんなりに積極的に晴雪へアタックしてるっていうのにー、これだから男って鈍感で困るのよねー」

 俺は……ぬぁ!?

「ちょ、よ、陽湖! 俺頭追いついてねぇって!」

「晴雪、明日ひま?」

「ぁ明日? あ、ああ。何の変哲もない土曜日だ」

「じゃあ……ここっ」

 陽湖は俺の右手を取って、メモ? か何かを握らせてきた。そのまま両手で俺の右手を包み込んでいる。

「あたしなんかだったらこうやって晴雪のこと呼び出せるけど、紗和ちゃんはおとなしい子だから、晴雪がリードしてあげなきゃ、いつまでも幸せになれないわよー?」

「し、幸せておいっ」

「せっかくの両想いなんだから。幸せになりなさいよ」

 陽湖が少しだけ俺に近づいた。

「ねっ?」

「は、はぁ……」

 いきなり幸せだなんだとか言われても……そりゃ、紗和はいいやつだとは、思うけど、さ……

 笑顔の陽湖がゆっくりと手を離すと、俺の手にちょっとだけぬくもりが残っていた。

「鍵返さなきゃいけないから、出よう」

「だったらなんでこんな場所にしたんだよ」

「晴雪も、紗和ちゃんに告白するときは、二人っきりの場所でしてあげるのよ。わかった?」

「そ、それは答えになってるのか?」

 陽湖はそれ以上何も言うことなく、俺の背中を押して生徒会室から追い出した。

「なにこれ白いの」

「あ」

 陽湖はなでるような形で俺の背中の白いのを取ってくれているようだ。


 陽湖が生徒会室の鍵を閉めると、また改めて俺を見てきた。

「ねぇ晴雪」

「あん?」

「晴雪はさ。紗和ちゃんのどんなとこが好きになったの?」

「ぉおいおい陽湖あんま言うなよ。俺だってよくわかってねぇし」

「うふ、おあついわねぇ~!」

「なんだそりゃっ」

 紗和のどんなところを、かー……

「んー……やっぱかわいらしいとこかな。しゃべってると、もっと一緒にしゃべってたくなる。絵もうまくてみんなから尊敬みたいなんされてるのもかっこいいと思うし。今日も理科室まで一緒に歩いたけど、誘い方も優しかったなー。て俺何言ってんだか」

 空見晴雪人生史上最も柄にないセリフを発した瞬間だった。

 なのになぜ陽湖は黙ってんだ。俺の史上最高瞬間に対してノーリアクションか。

「あーっと! あたし次体育だった! ごめん晴雪、ありがとう! ばいばい!」

「ちょぉい!」

 生徒会長が廊下走るのはさすがにまずくないか? しかもなかなかの速さだなおい。

 二人っきりの場所で告白してあげなさいということを教えるためにここを選んだみたいだったけど、鍵借りて次体育とか……なぁ?

「おわっと、そういえば陽湖からなんか紙握らされたな」

 俺は右手を広げた。これは封筒のあれとは違いただの紙っぽいな。

 折りたたまれてあったので広げてみると、

「……ん~? これは~……?」

 ああ反対かな? 陽湖から手渡されたが、さっきの封筒の字とは違うな。さっきのよりはかわいさ重視って感じだ。それはともかく紙の向きを直すと……

「……住所?」

 途中までの見慣れた文字列と、番地とか書かれてあることから住所なんだろう。あ、手で隠れてたとこに郵便番号もあった。

「て!」

 そのさらに横に春野紗和という四文字が!

(これ紗和の住所か!?)

 明日がどうのとか言ってたけど……つまり明日ここに行けと!?

(まったく陽湖ってやつはぁ~……)

 そう。この辺こそ陽湖が正義感強い感増し増しなとこである。


 三時間目は国語。本読みのページ間違えた。寝ぼけてると思われた。

 紗和はちょっと笑っていた。


 四時間目は体育。サッカーで顔にボール直撃。痛かった。

 体育は男女別なので紗和に見られてなかったと思う。


 給食。おいしかった。フルーツ牛乳のジャンケンに俺が参加しなかったことを驚くクラスメイト多数。紗和も驚いたうちの一人っぽい。


 掃除の時間。ちりとりでごみ集めたのにほうきをバケツに放り込むというアホやらかす。笑われたけどこれはギャグとして使えそうだ。その直後に紗和と目線が合ったが、アホ場面に対するツッコミはなかったので見られてないと思う。


 五時間目は社会。黒板に並べて書かれた西暦を突然筆算してしまった。

 頭の中での出来事なので、紗和の表情は普通だったと思う。ここからじゃ振り向かれでもしない限り顔は少ししか見えない。


 六時間目は英語。先に家を出たジェイソンを兄のジャックが自転車で追っかけたので速さ時間距離の計算をしそうになった。数学がちょっぴりトラウマになった。でも紗和が授業中にこっちをちょっとだけ見た。でもすぐに前向いた。


 今日の授業が終わった。終わった……。

 なんて長く苦しい一日だったろうか……

「あ、あのー! 空先輩!」

 この振り向く前から速攻でわかる独特な声と呼び方は、小道こみち 桃葉ももはだな。ひとつ下の部活の後輩だ。ああそうだった部活があったよ……。

 今日も髪をツインテールにしている。学校内ではそうそう見ない髪型なので、この桃葉も有名人の一人なのかもしれない。かといって学校の外でわんさかいるってわけでもない。

 クラスに結構生徒が残っていたので、注目されちゃった。

 俺はカバンを持って桃葉のところに向かった。

「桃葉、どうしたんだこんなところまで」

「あの。あの。あのっ。あの!」

 桃葉はなぜか一生懸命だ。

「先輩、今日、部活終わったら、えーっとー……校門来てくださーい!」

「おちょっ」

 桃葉はそれだけ言うとだだだーっと去っていった。

「な、なんだったんだ」

 俺はあっけに取られた。

(てか正門か裏門かどっちだ!? てか今!? この後部活で会うぞ!?)

「晴くん」

「のわっ!?」

 紗和が横にいる!

「こんなとこにいたら、教室から出にくいよ?」

「おわ、そうだったなっ」

 俺はちょっと横によけた。

「じゃ、じゃあな紗和!」

「うん」

 紗和をちょっと見てから俺は部活へ向かった。


 部活。三連続で同じ失敗をする。先輩から超笑顔でドンマイ! って言われた。超笑顔で。


 部活が終わった……これで本当に今日一日が終わる……

(……ああ。桃葉が校門来いって言ってたなぁ)

 一応辺りを見回して桃葉を確認してみたが、今は他の子たちとしゃべっている。

 仕方がないので、このまま先に校門へ向かうことにしよう。


 正門にやってきた。生徒がたくさん帰っていく。

 友達も通っていく中、その度に人待ってますアピール。怪しまれているというかなんというか。

 おっと遠くから見てもわかる紗和のたたずまい。一人で帰っているようだ。

「晴くん? こんなところでなにしてるの?」

 うん。まぁそう聞くよね。

「いや~なんというか~。人を待ってるってゆーかー」

「友達?」

「いや、後輩の女子をだな……」

 紗和は俺をじーっと見ている。表情は特に変わらず。

「一緒に帰るの?」

「い、いや、それはわからない。呼び出されてさ。なんで部活でも会えんのにわざわざ呼び出してんだろうな」

 紗和はやっぱり俺をじーっと見ている。しかしこの表情はいつもの紗和である。

 いつもの紗和である。

 いつもの紗和で……な、なんか長くないか?

「さ、紗和帰らないのか?」

「じゃあ……またね、晴くん」

「じゃあなっ」

 紗和はちょっとにこやかに歩き出した。紗和の背中をちょっと見送る。

「空せんぱーい!」

 とここで桃葉がやってきた。

「それじゃ先輩行きましょう!」

「あ、い、行く?」

「もちろんです! さあ行きましょう!」

「ておいおいぃ?!」

 俺は桃葉に右手を取られて、紗和の方向とは違う方に歩かされた。

「お、俺桃葉の家の方向とか知ら」

「とりあえず公園行きましょ!」

「公園てうぉおおい!」


 桃葉に連れ去られるがままに公園にやってきてしまった。そういやこんなとこあったなぁ。この辺の中では小さい公園な方で、しかも大通りから遠いから普段あまり寄らないとこだ。ブランコや滑り台、シーソーなど一通りの遊具はそろって……あ、ジャングルジムと砂場がないや。

 桃葉に連れ去られながらも少ししゃべったが、結局はいいから公園行こうぜで締めくくられていた。

「それじゃ先輩! そこ立ってください!」

「はぁ」

 俺は滑り台の下に立たされた。身長ぎりぎりだ。てかなんでここなんだ。

 ここで桃葉は改めて俺を見てきた。さっきの陽湖の感じと似てるなぁ。

(はっ!? え、いやまさかそんな!? そんなまさか!?)

 二人きり。突然誘われる。連れ去られてる間は何がどうなってんだと混乱していただけだが、今少し考えてみると、桃葉と二人っきりの場面って初めてなんじゃないか!?

「先輩! 聴いてください!」

「はいー」

 よくわからないが、桃葉はやっぱり一生懸命だ。

「先輩……あの……あのー!」

 俺は一生懸命な桃葉を見ていた。

「せ、先輩! 私と……わっ、私と! 付き合ってください!!」

(んぐっ?!)

「な………………なーーーーーっ!?」

 俺……俺……うん。今日俺の調子ってなんとなく本調子じゃないなって思ってたんだ。うん。そう。これはきっと夢なんだな! 夢なんだから自分が思ったとおりに動けなくて当然だよ当然! ははは!

「先輩っ……」

 桃葉が俺の両手を取ってぎゅっと握っている。やけにリアリティあふれる夢だなぁ~。

「せ、先輩……返事、欲しいです」

 これまで桃葉の一生懸命な姿は何度も見てきた。いつもいろんなことに全力でぶつかっていく桃葉。でも今日のこの表情は、今までの頑張り屋桃葉ちゃんの中でも一際一生懸命さが伝わってくる。それだけ本気ってことなんだろう。

「も、桃葉……あ、あの。あのさ。ちょっといろいろ急すぎやしないかな……?」

「すいません先輩! でも先輩。今日しかないと思って! 男の人としゃべるの慣れてなくって、でも先輩がいっちばんおしゃべりしやすいんです! 今のあたしには先輩しかいないと思って……だ、だから先輩! 今日付き合ってください!」

 こんなにも……こんなにも俺に対して気を許してくれていただなんて……しゃべりやすい存在、か。そんなにも俺って接しやすい存在に想っててくれたのか……

「……桃葉の気持ちは、その、すごくうれしいけど、さ……俺こういうの慣れてなくって、どうしたらいいか……」

 これが今の率直な気持ちだ。桃葉が一生懸命俺にぶつかってきてくれてるんだから、俺も正直な気持ちを伝えないと。

「難しく考えなくて大丈夫ですよ! 空先輩が感じたことを教えてくれるだけでいいんです! そこから先はあたしが頑張りますから! 空先輩がいてくれるだけでとっても心強いです。空先輩がいてくれたら、あたし勇気が持てる気がします!」

「桃葉っ……」

 なんて真っ直ぐなんだろう。改めて思い返すと、俺ってあんまり冒険しないタイプだったなぁ……桃葉みたいな一生懸命さって、俺こそ身につけなきゃいけないかもしれない。

「……桃葉。も、もしさ? もし俺と付き合うとしたら、その……俺にどんなことをしてほしいんだ?」

 付き合うとか、よくわからないけど。

「ですから、空先輩は感じたこと、思ったことをそのまま伝えてくれるだけでいいんです! あたしお洋服迷っちゃって、でも大切なことだから、どうしても男の人の意見が欲しくって……」

 おしゃれに迷ってるってことかな。桃葉はおしゃれにこだわりありそうだなーきっとツインテールにも大切なこだわりがあるに違いない。

「桃葉はトレードマークのツインテールがあるんだから、きっと何着ても、似合う、さ」

 さっきの陽湖のときに迫る柄のなさ!!

「え? 先輩、あの。あたしが着るんじゃないですよ?」

「は?」

「でもそうですかぁ? あたし何着ても、に、似合うんですか? えへへーてれますよぉ~」

 うん?

 うん。

 うん!?

「桃葉」

「はい先輩っ」

「俺。桃葉の何に付き合えって?」

「あ! 言ってませんでしたっけ!? 今度お兄ちゃんの誕生日なんですよー。来年の三月で高校卒業ですから、大学生になっても着られそうな服なんてどうかなーって思ったんですけど、男の人の好みとかわからないんです! だから先輩、今日お誕生日プレゼント選びに付き合ってください!」

 ……俺は。こう、返事をした。

「はい」


 部活終わった後なので近くにある地元感あふれる服屋さんで決めることにした。

 そこで桃葉はジャケットやカッターシャツをいくつか手に取り悩んでいた。

 俺こんなこと頼まれてるけど、俺だって別に服に詳しいわけじゃないぞっ。

 とりあえずこのいくつかある中では最も大人っぽくてかっこよさげだと思った紺色のジャケットを推してみたら、桃葉はそのまま決定したようだ。

 こんだけ大量にある服の中からささっと候補を選ぶ桃葉のおめめは相当訓練されているに違いない。

 服屋さんの外観だけでなく中にいるおばちゃん店員さんもベテランの味をかもしだしていて、包装もプロの技でちょちょいのちょいだった。桃葉はとっても笑顔だった。

 おしゃれに力を入れてそうな桃葉だったが、今日は自分の分は特に考えていなかったようだ。時間も遅いからかも。


 ……とまあ、本当にそれだけだった。服屋さんを出ると解散。本当に。

(今日は疲れた……帰ろう……)

 俺はもう帰る。帰るったら帰るっ!



 朝がやってきた。

 眠りがいまいち浅かったような気がするが、でも俺は起きた。八時かー。

(しっかし、この住所……ねぇ……)

 陽湖が渡してくれた住所。今日ひまか聞いてたってことは、今日行けって意味なんだろうなぁ。

 とりあえず着替えてごはん食べよかな。


(……さて。勢いよく飛び出してしまったが……)

 大まかな場所は地図でわかったけど、番地なんてどこ指してるのかよくわかんなかった。

 時刻は九時半。今日もいい天気だ。

(てか俺なんでこんなことやってんだろう。陽湖はあんなこと言ってたけど、うそだったらどうするよ? 紗和のことは、まぁその、ちょっとはさ、気になるけどさ。仲悪くなるなんて嫌すぎるぞっ)

 とかごちゃごちゃ思いながらも、住所に向かって歩いている俺。


 この辺は俺の家からだと学校の通り道でもないから全然来ないとこだなー。小学生のときに自転車でたまに……しまった。今日も自転車で来たらよかった。なんで徒歩なんだよ。とほほ。よしこれ今度使おう。


 結構歩いたが、紗和の住所に近づいてきていると思う。

 つーか電話すらしてなかったけどまずかったかな? だれもいなかったら悲しすぎる。

 よし、あのお兄さんに聞いてみよう。

「すいませーん」


 俺は何回か聞いては近づいて聞いては近づいてをしていると、紗和の家を知っているおじさんに出くわした。やっぱり紗和の住所だったんだなこれ。


(……春野……)

 とうとう着いてしまった、紗和ん家。実は表札は付け替え式で今日だけカモフラージュとかじゃないよな!? 頑丈にくっついてた。

 さあインターホンを押そう。俺は白い部分を押した。地味に音の最後に切れるプツッが好き。

(ほ、ほんと俺何やってんだろう?)

「はい」

 お、来た!

「あ、えーこほん! 俺、あ、僕? 空見晴雪って言います。紗和~……ちゃんいますか?」

 やっべどっきどき。

「晴くん?」

 い、今の紗和だったのか。声が聞こえたと思ったらすぐ切れた。

 しばらく玄関のドアを見つめながら待っていると、ドアが開いた。

 すると、出てきたのは

(おお……本物だ)

 紗和が薄いピンクのブラウスに真っ白のスカート装備で登場した。私服だが本物の紗和なんだろうな。

 紗和はサンダル装備で近づいてきた。

「や!」

 とりあえず手を上げてみた。

「晴くん、おはようっ」

「お、おはよ」

 私服紗和が目の前にいる。手の組み方が紗和だ。

「どうしたの?」

「……まじで俺何してんだろうな」

「ええっ?」

 まそりゃ紗和の方が意味不明だよな、うん。なんかちょっと笑ってるけど。

「や、やあ紗和!」

「おはよう、晴くん」

 うーん。何度見ても紗和だ。

「……やあっ」

「ご要件は?」

 紗和は清々しい表情でそう聞いてきた。

「……ほんと俺。何の用事があってここ来てんだろう」

「晴くんが来てくれたのに、私もっとわからないよ?」

「うむ」

 まったくもってごもっともすぎるお答えである。

「さ、紗和」

「はい」

 にこにこしてるなぁー。授業のない日だからかな。小テストのない日だからかな……。

「あそ……ぶ?」

 紗和は手を自分のほっぺたに当てている。別に蚊が止まったわけではなさそう。

「いいの?」

「あいやむしろこっちが……いいの?」

 紗和は手を下ろしながら組んで、うなずいてくれた。

「じゃ、じゃあ、遊びましょう紗和さん」

「はいっ」

 うーん紗和だ。どこからどう見ても紗和だ。

「晴くん?」

「どの角度から見ても紗和だなぁ~」

 俺は紗和の周りをぐるぐる回りながらじろじろ見た。

「おうちの中、入る?」

「よ、よし」

 この反応はいつもの紗和だった。


 自分自身で本調子から遠いことはよくわかっていた。なのでここで一発気合入れるべく。

「じゃますんでー」

「どうぞ」

「じゃますんならかえってー」

「え?」

「あいよーってなんでやねん!」

 紗和は絶対このネタ知らないと思ったので、全部一人でやってみた。見てこの腕の角度!

 紗和の反応は……うん、まあ、そうでしょうね。そこにはいつもの紗和がいました。この場面ではそのいつもすぎる表情が逆に……!

「おじゃまし、まーす」

「どうぞ」

 さっきのやり取りがあったのかなかったのかよくわからなくなってきたが、紗和が誘導してくれつつ俺はそーっと紗和ん家に入った。

「今私一人だよ」

「どてっ。おじゃましまーす」

「どうぞ」

 さっきのネタが紗和の父さん母さんとかに聞かれるのもそれはそれで……まぁいいや靴脱ぎ脱ぎ。

 紗和ん家は、俺んとこよりもちょっと広い感じかな? 女の子がいるおうちだからなのか、かわいらしい置き物とかがちょいちょいある。かえるさんが笹の葉を傘代わりに使っているようだが、別に雨漏りはしていなさそうだ。

「何飲もう。みかんジュースとりんごジュースだったらどっちがいい?」

「みかんで」

 今の鮮やかな返答スピードにドヤァってても、紗和は淡々とコップとみかんジュースを用意していただけだった。

「晴くん?」

「みかんで」

「みかんだよ?」


 リビング内をちらっちらっしていたら紗和がおぼん持って登場。

 おぼんにコップがふたつとみかんジュースが入ってる透明縦長容器が乗っている。

「それじゃあ、上にいこ」

「上? って?」

「私のお部屋」

「え、紗和の!?」

「ここがいい?」

「いや紗和の部屋がいい」

「うん」

 お、俺は聞かれたからそう答えただけだぜ!?


 とあるドアの前で紗和が立ち止まった。ということはここが紗和の部屋なのだろう。紗和の部屋、かぁ……

「晴くん開けて」

「おお俺がっ?!」

 ここで紗和がおぼんを上げ下げしておぼん持ってますアピール。

「あ、はい」

 俺は右手でしっかりと紗和部屋のドアノブに手をかけた。

「……開けるぞ……」

「早く開けて」

「はい」

 俺は……心を込めて、ゆっくりと……慎重に

「早くっ」

「はい」

 ドアを開けた。


 ……女子……


 ……女子っ……


 女子の部屋要素だらけだーーーーー!!

 ぬいぐるみ! カーテンの柄! 布団の色! カーペットの模様! 勉強机のきれいさてこれは俺が汚してるだけかっ。セーラーも掛かってるー! そしてお絵描き道具も充実ってるー! 描いてる途中の絵を立てかけて作業するあの武器みたいな盾みたいなやつも折りたたんでかけられてあるぅ~!

 俺のそんな驚きと感動をよそに紗和はスッと入って、持ってたおぼんを小さいテーブルの上に乗せた。

「閉めていいよ」

「へい」

 俺はゆっくり静かに神聖なるドアを閉めた。

「そっかー……紗和はここで生活してるのかー」

 紗和はざぶと……クッションって言うんだろうな。を用意してくれて、そのまま俺を見上げて座っている。

 紗和なんだろうけど……いつも学校で会ってるあの紗和なんだろうけど……なんだろう、この別人感。

 私服の効果なのか、お部屋の効果なのか……うむむむ。

「座ってください」

「はい」

 おとなしく座りました。なぜか紗和は笑っている。

「なんだか今日の晴くん、わんちゃんみたいだね」

「わんわん」

 紗和はさらに笑っている。その笑顔のままでみかんジュースをコップに注ぎ始めた。今こちょこちょをすると大変なことになるのでやめておこう。


「あの時、晴くん寝ちゃってるかと思ったよ」

「寝てないやい!」


「ごめんなさい、見ちゃった」

「のぉーーー!!」


「えっ? 西暦で筆算?」

「ああうん、気にしないでくれ」


 紗和との会話は楽しいなぁ。紗和もなんだか楽しそうだし。


「……そうだったんだぁ」

「そーなんだよ! 桃葉のやつってばよぉ!」


「それで、私のおうちがわかったの?」

「わかったっていうか、最後その辺の人たちに聞きまくったけど」

「でもそのメモ、私が陽湖ちゃんに年賀状で住所交換しようって書いたのだよ?」

「は!? そうっかどーりで陽湖の字じゃないわけだっ」

「陽湖ちゃんの字、かっこいいよね」

「そう! そうだよな! わかるか! わかるかこのかっこいいって気持ち!」

「うん。私あんなかっこいい字書けないよ」

「俺だって書けねえよっ」

「私もあんなかっこいい字書けるようになったら、かっこよくなれるかな」

「そんなことしたら、かっこいいのもかわいいのも両方兼ね備えたスーパー紗和ちゃんになっちまうじゃねえかっ!」

「……え、えっ? 晴くん」

「なんでいてやんでいっ」


「みかんジュースおいしいな!」

「お母さんがこのシリーズ好きなの。今は家にないけど、ぶどうとかももとかいろいろあるんだよ」

「紗和はどれが好きなんだ?」

「どれもおいしいけど……そうだなぁ……マスカットかなぁ」

「マスカット!?」


「……はぁっ、疲れちゃった」

「な!? 急にどうした!?」

 紗和は首を横に振っている。

「晴くんとこんなにいっぱいおしゃべりしたの、初めてだから、体がびっくりしちゃってるかも」

「それは~……どゆ意味?」

 紗和は指を組んで微笑んでいる。

「……晴くんが来てくれて、とってもうれしいっていう意味だよ」

(ぬぉぁー…………撃ち抜かれたわぁ…………)

 ドスッとかビィィーーンとかじゃなくズキュゥーーン! という感じ。

 すごい感覚が身体中を駆け巡った。

 それでいて紗和の微笑みは、今までに学校では見られなかった、とっても穏やかな微笑みだ。なぜか指であやとりみたいなことやってるけど。男子でもちょっとだけブームになったなぁあやとり。

「晴くん。来てくれて、ありがとう」

(ばたっ)

「晴くん?」

 空見晴雪は倒れてしまった。

 しかしすぐ復活した。

「こ、こっちこそ、ありがとな、紗和」

 さ、紗和よ。そんなにもとびっきりの笑顔で喜ばないでくれっ。いやいいことだけどさ、いいことだけどさ!


「晴くん」

「なんだ?」

「えっと…………」

 紗和のターンである。

 だが首を横に振ってターン終了の合図のようである。俺はみかんジュースうまうま。

「まだ飲む?」

「もち!」

 紗和はみかんジュースを注いでくれた。二人で結構飲んだな。


「……ほんとに疲れちゃったぁ」

「そんなに? じゃあもう帰った方が?」

 紗和は首を横にぶんぶん。

「そんなこと言わないで。もっと晴くんとおしゃべりしたい。もっと会いたい。もっと遊びたいな」

(ばたっ)

「晴くん?」

 空見晴雪はまた倒れてしまった。

 しかしやはりすぐ立ち直り、

「さ、紗和ぁ。学校でそう言ってくれりゃ、俺だって紗和もっと誘うのにさー」

「学校でなんて無理……今も恥ずかしいのにっ」

「紗和ぁ~」

 実際の発音はすあぁうぉぁ~とかだったかもしれない。

「……ねぇ晴くん」

「すぁわぁ~」

「……晴くん晴くん」

「なんだよぅ」

 ……しーん。

「人を呼んどいてなんもないんかーい!」

 だからなぜそこで笑うっ。


 どれくらい経ったかなぁ。

 ジュースを飲んだり互いに見合ったりはしたが、言葉がないまま。紗和は自分の手あやとりブームが去ったのか、膝の上に手を置いているだけだ。


(……はっ)

 ここで唐突に陽湖の声を思い出した。

 両想いなんだからとか、二人っきりの場所でうんたらとか……で、でもなぁ。そういう関係って、こんな簡単に決めちゃっていいものなのだろうか? もちろん紗和の考えも大事だけど。

 今の友達としてでも充分楽しいし、紗和は今くらいの関係が心地いいかもしれない。わかんないことだらけとはいえー……。

 陽湖は、紗和は俺のことをごにょごにょと言ってはいたが、それもどこまで本当のことなのか……陽湖がうそつくようなやつには見えないけどさぁ。

(なんかー……なんかー、ないかなー。いい感じのセリフが……)

 俺はちょっと考えてみた。が、こんなの即興で思いつくわけもなく、紗和がただただ俺を見ている時間が続いていた。


「さ、紗和?」

「はい」

 紗和がこっちを……はずっと見ているか。

「紗和ってさ。付き合ってる男子とか、いる?」

(やっとのことで絞ってこれかぁ……俺ってやつはつくづく……)

「ううん。いません」

「こ、告白されたことは?」

「ありません」

「まじかー!?」

 なんか、なぜか、なんか知らんけどそう叫んでしまった。

「はい」

「そ、そっかー」

 ……会話が止まってしまった。しかしこれ以上言葉は浮かばな……いやなんとか浮かんだ。

「紗和はさー。そのー。男子と付き合うのとか、っていうのについて、け、見解を……」

 今度は俺が紗和を見る番だ。あれ、自分の指あやとりブーム再来。歴史は繰り返す。

「とってもすてきなことだと思います」

「な、なるほどなー! 紗和はだれかと付き合いたい気まんまん!?」

 俺。恋バナをする。

「……いい人とだったら」

 紗和はちょっと目線が下がっている。

「どんな人がいい人!?」

 ここぞとばかりにずいっ。

「……一緒にいてて楽しい人」

「ふんふん」

 ひとつ挙がりましたっ。

「……終わり!?」

 紗和はうなずいた。

「そんなの学校中にいっぱいいるんじゃっ」

 紗和は首を傾けている。こ、これはどういう意味だ?

「晴くんは……私、だれかと付き合った方が、いいと思う?」

 ここで紗和からも質問がっ。

「しょ、正直俺もその、好きとか付き合うとかよくわかってないけどさ、紗和って絵うまいから、人選ぶのも得意そう」

「そんなことないと思うけど……そうなのかな?」

「わ、わかんねぇけど。たぶん? だから付き合うとかなっても、相手がいい人なわけだから、きっとうまくいく。たぶん」

 紗和は笑っている。うまいことは言えなかった。

「晴くんがそう言うなら、信じます」

「ちょちょい俺もわかんねぇってばー!」

 なんだかよくわからないハードルが上がってしまっている。

「晴くんは……モテモテだもんね」

「なんでいきなりそんなことなってんだ!」

 謎すぎるぞ紗和さん。

「昨日も校門で……」

「だからあれはさー」

「メモを握って……」

「だっ、だからあれもさー」

「あれもー……これもー……」

「うがーーー!」


 紗和さん。立て続けの連続攻撃はだめっスよ……。

「だから、晴くんはモテモテ」

「ううっ」

 た、立ち上がれねぇ。

「……だから。晴くんは、だれかと付き合っちゃうんだろうなぁ」

「ぴくぴくっ」

 それでもなんとか立ち直ってみせた。

「俺ってそんなに女子と付き合うようなやつに見えるかー?」

「晴くんは思いやりがあるから、女の子からすごい告白されたら、お付き合いしちゃいそう」

「さすがによく知らないやつとはそんなことないと思う……お、思う」

「よく知っている女の子からすごい告白をされたら、お付き合いしちゃう?」

「ええー、どーだろー。てかそもそも俺付き合う以前に告白されるようなやつでもないだろー」

「お付き合いしちゃう?」

「ぅ。ど、どうだろ、な……」

「お付き合いしちゃうの?」

「なわー! わかんねーけどすっげーいいやつだったら付き合っちゃうかもなウッウッ!」

 負けた。

「晴くんのことをよく知っている、すごい告白をする女の子がいて、晴くんもその女の子のことが好きだったら、お付き合い……しちゃうの?」

「はいしますしますからそれ以上俺の心をえぐらないでくれぇー」

 紗和強すぎ。

「ものすごく晴くんのことを大好きな女の子が、晴くんもものすごくその子が大好きだったら、告白されちゃったらお付き合い、しちゃう?」

「紗和様どこまでいじめるんですかー!」

「晴くんは……私のこと……好き?」

「はい好きですずっとかわいいなって思ってました絵うまいのまじ尊敬」

 完敗。

(………………ん?)

 俺。今何言った……?

 はっとなって、紗和を見ると、蚊が両ほっぺに止ま……るわけないか。

「さ、さささささ、さささ!!」

 今度は紗和が倒れたー! 俺も倒れとこーーー!

「……うれしいっ」

 俺も倒れとこーーーーー!!


 怖くて紗和の方見られねぇ。体力使い果たして座り直せねぇ。ああだめだもうだめだ。なにがだめかわからないがだめったらだめだ。


 何分倒れてたかわからないが、紗和が動く音がしたので、俺も座り直すことに。

 テーブルを挟んで向こうに紗和がいる。正座だ。俺も正座するしかない。

 やばい。どうしよう。どうしようか。

 まだ紗和を直視することはできない。夢ではないかと軽く自分のひざをつねってみたが、よくわからなかった。


「……晴くん」

「ひゃい!」

 今のはどの辞書にも載ってない発音だったと思う。

「本当に……本当に、告白されたら、付き合うんだよね……?」

「だ、それは、だ、だだ、それはだだそれはそれは」

 今のはどの教科書にも載っていない文章構成だったと思う。

「晴くん……本当だよね?」

「た……たぶん」

「たぶん?」

「それはだって、その。紗和が告白してくれるんな……ら……」

 ちーん。

(帰りたい。けど帰る力もなくまた倒れてしまった)

 言葉が返ってこないのが逆に、逆にっ。

「さ、紗和っ」

「私だってっ。私だって…………晴くんと、同じ」

(紗和が動いたっ)

「晴くんと同じ……晴くんが……晴くんが、告白、して……くれるなら…………」

(んん!?)

 こ、この展開って……つまり……つまり、さ…………

「そ、そうなの……か?」

 俺は座り直して聞いてみた。

 紗和はうなずいている。

「ほんとに?」

 紗和はうなずいている。

「そうなの、か……」

 紗和は……下見てる。

 俺は……この気持ち。これは間違いなく、紗和のことを好きだという気持ちだと思う。さっきからどきどきしてんの止まらねーし、思わず声に出てしまうほど本気で思ってることだと思う。

(こ、ここにいる紗和と、つつ付き合う、とか、さ)

 紗和もあれだけのことを言ってくれた。紗和の気持ちも……

(気持ち……?)

 そうだ。紗和にそれだけは聞いておかなきゃ。

「紗和っ」

「はい」

 紗和はちょっと顔を上げた。

「紗和はー……俺のこと。好き?」

 紗和は違ってもうそぴょーんとか言わないだろうなぁ。

「……好き」

「さ、紗和」

 紗和が……紗和が……!

「俺も……好き」

 紗和がうなずいている。

「紗和は、俺のこと、好き?」

「……好き」

 紗和が、紗和がー!

「俺も紗和が、好き」

 紗和がうなずいている。

「紗和は~、俺のこと」

「晴くんもうやめてよぅ恥ずかしすぎるからあ……」

「あ、す、すまん!」

 おわ、紗和が立ち上がったと思ったら次の瞬間もう背後にいた。忍者入門テストどころの話じゃない!

「紗和おいいぃいっ?!」

(背中から紗和が、抱き、抱き……)

 首に腕が回っているけど、優しく包まれている。

「さささ紗和とりあえずなんかセリフくれぇーっ」

 もうなにがなんだかわけわかんないところでそんな言葉を出していた。

「晴くん。いつも楽しいから大好き。晴くんがいい。私、晴くん……晴くんっ……」

 左肩に紗和が顔を乗っけてきた。紗和がものすごく近いところにいる。

(これ……すごい告白、なのかな? でも告白って、付き合ってくださいのセリフの部分のことだよな?)

 紗和の気持ちをいっぱい聴くことができてうれしい。けどこれはまだ告白じゃない。

(でもさっき、告白されたら~って……じゃあつまりこれって……)

 俺は振り返って、

「は、晴くんっ」

 紗和をめいっぱい抱きしめた。

「紗和」

「はい……」

 俺はちょっと顔を離して、改めて紗和を見つめた。紗和の瞳はきらきらしていた。ああ太陽の光が窓から入ってるだけかな?

「紗和と俺って、両想いだよな」

 紗和は小さくうなずいた。

「もっと早く俺のこと好きって言ってくれよなー!」

「ええっ、そんなぁ」

 ちょっと笑ってくれた。

「晴くんは、私のこと……ただの友達なのかな、って……」

「そ、そんな学校で朝っぱらから紗和今日もかわいいね好きだよ付き合ってくれだなんて言ってたら、校長室に連行されるだけじゃねぇかっ」

「晴くんってばぁ……」

 紗和は笑いながら俺にもっと顔を近づけてきた。ほっぺた同士が当たった。

「晴くん近いよっ」

「抱きついてきたのは紗和じゃん」

「振り返ったのは晴くんだよ」

「ほっぺたくっつけてきたのは紗和だっ」

「晴くんのことが大好きなの。いっぱい我慢してたもん。もうこれからはずっと晴くんのことが大好き」

「抱きついてきたのは紗」

「もおぉぅ……」

 勝ったな! ここに空見晴雪勝利宣言を!

「紗和。付き合おう。俺も紗和とずっと付き合いたいって思ってた」

 紗和が、すごい、なんていうか、かわいい。ひょ、表情がな! い、いや性格も。

「ちょ、え、さゎ」

 紗和が、くっついてきた。くっつけてきた。俺の唇に、紗和が、くち、く、くっ。

 紗和がちょっとだけ離れた。表情はすごいまま。

「うぉ、ちょおぃ返事はぁ!?」

 紗和はまた笑ってくれた。

「……よろしくお願いします、晴くむっ」

 今度はこっちから高速でくっつけ返しにいった。

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