探偵は強くてカッコいい? おまけにカワイイ?

探偵はカワイイものがカワイイという事実を告げる

桜花おうか〜」


 目覚ましに反応しない桜花の両ほっぺをアタシの人差し指でさすさすする。

 うーん、スベスベでいてかつもっちりさと柔らかさと弾力が適度で100さすりぐらいしたいよ。


「う〜ん。お姉ちゃん、やめてー」


 やめないよ。

 やめるわけないじゃない。

 桜花がその可愛らしい瞳を完全に開ききるまではね!


「おはようございます」

「あら、おはよう」


 目覚めた桜花と一緒に台所へ行き母親と挨拶を交わす。


 早速アタシは玉子のホロホロ、つまりはたっぷりと砂糖を入れた甘ーいスクランブル・エッグの製作にかかる。

 隣には昨夜仕込んでおいたなめことお豆腐のお味噌汁を決して沸騰させないように温めながら。


「うーん。IHはらくちんだー」


 アタシは我が家のガスレンジ時代をかろうじて経験してるからこれは実感。桜花などは完全なるIHチルドレンだけどね。


「桜花、神棚のさかきとお仏壇のお花のお水、仕替えといてねー」

「はーい」

「横着せずにちゃんと脚立きゃたつを使うんだよー」

「はーい」


 家事手伝いはアタシ自身が仕事をこなせばいいってもんじゃない。ちゃんと家の中のマネジメントをしながら、次世代へのOJTも欠かさない。


 家事手伝いを舐めないでね。


「いただきまーす」


 父親・母親・アタシ・桜花。

 プラス去年亡くなったおばあちゃんの陰膳。


 4人とひとりが揃った朝の食卓。

 玉子のホロホロ、切り干し大根と油揚の煮物、シラスときゅうりの酢の物、ごはん、豆腐となめこの味噌汁。


 王道。

 ううん、芸術品だよ、これは。


 父親が会社に出かけ、アタシは桜花を幼稚園に送る。


「お姉ちゃん」

「ん?」

「お姉ちゃんの手って、すごく柔らかくて暖かい」


 桜花と手を繋いで登園路を歩く毎朝の習慣がたまらなく愛おしいアタシの時間。

 アタシは桜花に事実を告げてあげたよ。


「桜花の手が柔らかいからアタシの手も柔らかくなってくの。アタシの手は冷たいけど桜花の手に温められて暖かくなるの」

「ふふ。わたしもそうだよ」


 ああ。

 愛おしい。

 桜花がいてくれてアタシは生きていこうっていう意思を毎朝もらえてる。


 幼稚園の先生に桜花を託してバイバイ、と手を振る。


 さてと、次はもうひとつの生きてこうっていう意思の源泉、王子探偵社・洋館ブランチへ。


「おはようございまーす」

「zzzzzzzz」

「うわ。こんなところで寝ちゃってる。王子様、風邪ひくよ」


 ほっぺをさすさすしようか。


 なーんてことができる訳もなく、応接ソファで長い足を伸ばして胸あたりで手を組んで帽子を顔にかぶせて眠る、いわゆる『探偵眠り』をしてる王子様。


 ただ、伸ばした足には紫のスリムタイツで男性なのに華奢な肩幅には胸にフリルのついた純白のブラウス、帽子はレースにブーケをあしらったお姫様スタイルだけどね。


 あと、これでもってロンドンブーツを履いてるグラムロックスタイルでもあるけどね。

 肩をゆさゆさ揺すったら足が長いからスローモーションのように見える動作で組み直しながら、むくっ、と上半身を起こした。


「いけないけない、わたしとしたことが。T-REXの20th century boyを聴きながら寝落ちしちゃったわ」

「・・・いいけど。ほらほら。朝だよ王子様。仕事仕事!」

「ん?」

「? なに?」

「ひ、緋糸ひいとクン! なんてカワイイの、アナタは!」

「え」

「晒させてもらっていいかしら!?」

「・・・はい?」

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