隠された秘宝
ザード@
それを盗むということ
怪盗リオはその館に忍び込もうとしていた。先日予告状を出したばかりの館だ。古典通信網を乗っ取るのは簡単だったので、そこを経由して予告状を転送するのは簡単だった。そして、こんなセキュリティレベルの館なら簡単に侵入できる。そう思っていた。
「鍵の解読ができないな」
それが最初の難問だった。量子鍵は原理的に盗聴が出来ないから、自身を正当な相手であると対象に誤認させる必要があった。そのために古典通信網を再び乗っ取る必要があるのだが。
「内部と外部の通信はザルなのに扉だけ別プロトコルを使ってやがる。簡単には開きそうもない」
手持ちの端末では手の施しようがないことを悟ったリオは別の入口を探し始めた。アシストを使って20メートルジャンプして館の全体像を目視する。地図で見るのとはまた違う情報が脳内に入ってくる。視力アシストと情報解析アシストを駆使して徹底して弱点を探す。
「なるほどな。ゴミ出しは古典通信網か。ここを逆に辿れば……」
端末にコマンドを入力し、送信する。瞬間、館の全機能は停止した。
「お待ちしておりました。リオ様」
館に正門から忍び込むと執事に出迎えられた。
「どういうつもりだ? 俺は盗みに入った怪盗だぞ」
「存じております。ですから、予告状にあったものは既にこの世から消し去りました」
「はあ? アレは大切なものなんだろう?」
リオは呆れた。
「はい。しかし盗まれるくらいなら」
聞きながらリオは何か裏があるなと察した。
「隠しただけという訳でもなさそうだ」
執事は両手を広げてみせた。
「はい。正確に言えばそれはまだこの世のどこかにあります。しかし、再び具現化させることは出来ないでしょう」
リオは端末を操作し例のものを解析させた。しかし調べた特徴は発散してしまう。あらゆる場所にそれの痕跡がかすかながら読み取れた。
「一体何をした」
リオが執事に迫る。
「測定したんですよ」
「じゃああれはもうこの世に存在しないのか?」
「そうは言っておりません。現にあなたの端末にはあれの特徴が出現しているでしょう」 リオはもう一度端末を見る。量子強度は低いが確かにそれはあった。
「……あれをもう一つの量子情報と重ね合わせ、その基底で測定したのです」
「言ってる意味がよく分からないな」
「固有値としてそれではないものが得られます。その時、元々重ね合わせに含まれていたあれの情報はどこに消えるのでしょう」
「測定した時点で重ね合わせの量子情報は破壊されて消えるんじゃないのか」
リオは答える。しかし、脳がそれは違うと言っている。
「違います。情報は外部に発散するのです。つまり、測定の反作用で、得られなかった方の重ね合わせが外部に拡散するのです」
リオはやっと事の重大さに気づいた。
「まさか!」
「怪盗リオはこれまで盗めなかったものは無いと聞きます。お手並み拝見といきましょうか」
混合状態から純粋状態だけを精製し分離する。今度の盗みはそういうことだ。怪盗として知恵を絞るがどうにも解決しそうにない。
「敵は世界か……」
全ての空間領域から拡散したそれの量子情報が得られる。全ての空間をそれについて足し合わせれば取り戻せるが、それを現実の操作として実行するのは不可能だ。
情報は得られない。それが手に入らない。諦めるしか無いのか。しかしそれは。
「あの執事は盗んでいったんだ。怪盗の俺から」
リオはため息を吐いた。
「俺が怪盗であることを」
隠された秘宝 ザード@ @world_fantasia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
6/30に退職するSES/ザード@
★41 エッセイ・ノンフィクション 完結済 28話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます