第20話 ラッキースケベ
「お邪魔します」
礼儀正しく家に入る絢香。
こういう所は好感持てるんだけどな、こういう所は。
「どうぞ。てか絢香、足はもう大丈夫なのか?松葉杖もすぐに使わなくなってたし」
「ええ、まだ完治はしていないと思うけど。痛みはないし、テーピングももう必要なくなったから。元々、そこまで酷い骨折じゃなかったってのが幸いだったわ」
「そうか、それならよかった。スリッパ用意するから、ちょっと待っとけ」
罪悪感が、心の中のモヤが少し晴れた気がした。
閉じた傘を傘立てにしまい、絢香がスニーカーを脱いでいる間に靴棚から客用スリッパを一足取り出した。ポンッと絢香の元に投げ捨てる。
「もっと彼女に優しくするべきじゃない?」
「優しくなくて悪かったな」
絢香を玄関に取り残し、オレは洗面所に向かう。
そして再び玄関に戻り、手に取ったそれを無造作に絢香へと投げつけた。
「……悠真くんって、優しいのか優しくないのかわかんないわよね」
「悪かったな。それと靴下は脱いどけ」
尻をフローリングにつけ、言われるがまま靴下を脱ぎ、オレが与えたタオルでゴシゴシと水気を拭いた。
絢香が履いてるジーンズ生地のスキニーパンツも、可視出来る程に濡れている。
「……ほら、風呂入るぞ」
「ッ――!?一緒に入るの!?」
「ば、ばかッ!お前だけに決まってるだろ!!」
どこをどう捉えたらそう勘違いするのかは定かだが、絢香はかーっと顔を赤らめた。
「ふ、ふーん……そっか……」
「当然だ、固辞させてもらう」
彼女の珍妙な反応のせいか、泉のごとく絢香が全裸でシャワーを浴びている妄想が脳内で溢れかえった。髪が滴り、二つの熟した果実に血色の良い白くプニプニな太もも。健全で童貞な男子高校生には少しばかし刺激が強すぎた。
必然的につられてオレも赤面する。
気まずい……。
普段は鉄人で微動打にしない筈なのに、こういう時に限って普段と違った反応をされるから困る。
全く……(多分)処女なんだから、もっと貞操観念しっかりしろよ……。
オレじゃなきゃ、家に連れ込んだ時点で襲いにかかっていただろう。男の家に入り浸るとは、そういうことだ。理性の神と呼んでくれ。
「ほら……行くぞ」
「う、うん……」
使用済みのタオルと靴下を手に、絢香はオレの後ろをぺたぺたと影を追うようについてくる。
またオレも、絢香が肩掛けしていたショルダーバッグを持って彼女の先を歩んだ。
目的地はそう。
――浴室だ。
***
「なぁ、一つ尋ねてもいいか」
「何かしら?」
脱衣場にて、オレはドラム式洗濯機の中に放り込まれた絢香の使用済みの衣服を眺めながら、浴室の壁越しに絢香へ問うた。
「なんでオレはここで待ってなきゃならないんだ」
執念深く、絢香は何度もここで待っててとオレを引き留めてきた。
絢香を袖にして、自室かリビングでくつろいでいたいのに、なんでオレは脱衣場に座ってなきゃならないんだ。
シャワーの音がオレの男心を擽り、壁越しに映る絢香の影像が下半身を刺激する。
「私を一人にする気?」
「いや、子供じゃねーんだから……」
望外の僥倖であることには違いないが、この生殺し状態がオレの意識を朦朧とさせるのだ。
クソ!ノリで一緒に入るって言えばよかったな!
もれなく童貞卒業、非童貞という名の称号を獲得することになるが。
「貴方にとっても嬉しい光景でしょ?」
「アホか」
しばらくするとシャワーの音が止み、わしゃわしゃと髪をシャンプーで洗う音が耳に入る。
「なぁ、もう一つ聞いていいか?」
「……なに」
「絢香さ、どうやってオレの住所を知ったんだ」
「…………秘密事項よ、それは」
「おい!?」
どこからオレの個人情報が漏出したんだ!?
幾つかの仮説が浮上するが、それらに等しく関連してゆかりとみちるの顔が思い浮かぶ。
「はぁ……みちるか」
「よくわかったわね、正解よ」
「正解よ、じゃねえ!!」
ココ最近、やけに二人の仲が親しくなっていたことは記憶に新しい。
男のゆかりより、女のみちるに擦り寄る方が正攻法だろう。なんて悪辣な融通、貶め方だろうか。
「あのクソアマ……覚えとけよ……」
どうせ問い詰めたところで、「証拠は!?いつ!?どこで!?何日の何時何分何秒に!?」とか言い出して謂れの無い疑いねと済まされるのがオチだろうが。
「まさか正解を言い述べるとは思わなかったわ」
「まぁな……あれで長い付き合いだし」
みちるは今年で五年目、ゆかりは倍以上の時間を共にしているのだ。きっと腐れ縁とはこのことを比喩するのだろう。
互いのことは何でもお見通しだ。
そういえば、初めての合同体育でゆかりも同じことを言ってたっけな。
なんだか面白くなり、クスリと笑いを零した。
「……羨ましいわね」
「そうか?人と人との仲で大切なのは時間じゃないと思うけどな」
「そうだといいけれども」
「確かに共に過した年月は偉大な効果を発揮するけど、だからと言って愛すとはならないだろ?」
「ええ……まあ」
「小学校から高校まで同じ学校だが、大して好きじゃないなってのと同じだ。まあ、何が言いたいかって言うとだな……オレは結構お前のこと好きなんだぞ」
好きなら浮気紛いのことをするなって話だけどな。
半ば脅迫されたからと自分に言い訳を聞かせた。
しばらくの間が空き、絢香はポツリと漏らす。
「……結構は余計」
「ふっ、はははっ、ごめんごめん」
怒気を込められた絢香の声に、つい笑い転げてしまう。
「うるさい!うざい!鬱陶しい!チキン!バカアホ!だいたい、彼女に向かって結構好きってなに!?愛してるでよくない!?」
「だからごめんって」
これでもかというほどの罵詈雑言を、いつもなら深刻なダメージを負っている所が無傷で済んだ。
いつにも増して気分がいいらしい。
「最後にもう一個だけ聞いていいか?」
「しつこいわね、なに?」
「絢香って何カップ?」
「――ッ!?」
ガシャンと浴室のドアが横に引かれた。
顕になった絢香の裸体はしっかりと目に焼き付けられる。
双方に揺れるおっぱいは、手で覆いきれないほど大きい。形も整っていて、まさに理想のおっぱい。魅力的なおっぱいだ。
キュッと絞められたくびれのせいか、余計に胸とお尻が魅惑的に感じるのも素晴らしい。
火照った身体は所々赤みを帯びていて、蠱惑的にオレを誘っているように思えた……のだが――
残念なことに、湯気と彼女の腕で大事な部分はしっかりと隠されている。
それも束の間、湯桶が脳髄目掛けて飛んできた――
「グハッ……」
地べたに座っていたオレが避けれる道理もなく命中し、雷に撃たれた感覚に陥った。
三秒間ほど目の前が真っ暗になり、徐々に意識が回復してくる。まるでポケットの中のモンスターだな。
「上がるまで外に行ってろスケベ!」
「……はぁ」
自分の家なのに、居場所がなくなったのは言うまでもなかった。
ラッキースケベってなんだよクソ、見えなかったじゃねーか……。
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