第11話 新庄みちる
学校内全生徒からもてはやされた一日が終了し、放課後。オレは教室を出て廊下へと乗り出した。
初日さえ乗り切れば、話題にさせられるのも徐々に減っていくだろう。人の噂も七十五日というしな。
やっと一息つける、帰りにカフェにでもよるか。
どこのカフェに寄ろうか、今の時期だとマンゴーかな。いや、イチゴもまだあるか?
季節のフルーツ、どんなのが他にあったかななんて脳内はパフェのことで持ちきりだったが、オレは一つ重大なことを失念していた。
それは――みちるの存在だ。
「ゆーーーまーーーっ!!!」
二年生のクラスが並ぶ廊下に、嵐が叫ぶような声が響いた。
「げっ……みちる……」
怒涛の勢いで迫りくるみちるが視界に映り込み、オレは顔を引き攣らせた。
完璧に完全にコイツのこと忘れてたわ……めんどくせえ。
ドッドッドッ、と地を響かせて突っ走ってくる。
外見は普通以上のルックスを持つ女の子。言動は猪。新庄みちるとは、猪ガールなのだ。
「あっ、みっちじゃん」
隣にいるゆかりが、みちるのあだ名でそう呼ぶ。
オレと名前の呼び方が被るから〜、なんて理由でゆかりが付けたのだ。
「おい、あれ止めてくれ」
「ん〜、無理かな」
無理ってお前の彼女だろ!?
みちるがオレに衝突するまで約5メートル。
避けるか悩むが、その場合はみちるがズッ転けることになるという憂慮すべき事態が頭に浮かぶ。
どうしてこうもヘンテコな女ばっかりオレの周りにいるんだよ!! もう、クソっ!!
降参だ。少なくとも、ゆかりがいる場で避けるなんて選択肢はない。断念し、オレは身体の力を抜いた。
「――喰らえッ!」
「――グハッ!」
そう決め台詞を彼女が吐くと刹那、オレの腹部に強烈に痛みが走る。
ジャンピング頭突き、という技名らしい。身を乗り出して、オレに頭突きを繰り出してきた。
ゲームなら「会心の一撃!」と表示されただろう。
もうあと一発喰らえば瀕死になる……くっ、ヒールしなきゃ……。
「ざまぁないわね!ゆーま!」
ふふん、と立ち上がって地にひれ伏すオレを上からの目線で見つめてくる。
満足気な顔しやがってこのクソアマ……。
「これでウチの
「おい、公共の場でサラッと下ネタを挟むな」
「うるさい祖チン!」
「まあまあ、そこまでにしといてみっち」
「ゆかりがそー言うなら」
おい、ゆかりはよくてオレはダメなのかよ。リア充なんて弾け散れ。
不満を抱えていると、ゆかりが手を差し伸べてくる。それを取り、オレは立ち上がった。
するとすかさず、みちるから嫉視反目される。
オレとゆかりは幼稚園からの仲、みちるとは中学からの仲だ。
ゆかりもそれは同様で、ゆかりとみちるは中学三年生の夏から付き合っているのだが――何故かオレとゆかりが馴染んでいると噛み付いてくるのだ。
オレらに真似して作ったセミロングでウルフヘアの毛先をクルクルと弄るみちる。
先生に「地毛です!」と無理やり押し通した金髪がチャームポイントだ。
懐かしいな、日本人のDNAだと生まれつき髪色は黒になるんだぞと先生に指導されたのに、「私の親は外国人です!」と嘘100パーセント吐き出したコイツに、先生もやれやれと降参の手をあげていた。
小さい口を大きく開けて、彼女は俺を敵視する。
「ゆかりに触れないで! ――って、そうだ」
だが、思い出したように彼女は尋ねてきた。
「ゆーまって住野さんと付き合ったの?」
「ああ、まあな」
「ふーん、そっか。なんで好きになったわけ?」
なんで、か。
非常に難解な質問だ。そもそもオレは絢香のことを恋愛的に好きかどうかはわからない。
なので、オレは偉人の言葉を借りることにした。
「癒しが欲しかったからさ」
「「癒し……?」」
二人は息を揃えてそう言う。
「ああ。人生で最も素晴らしい癒し――」
オレは床をドンッと踏みあげて、二人に指差しをして決めポーズをとり言い放った――
「それが愛なのだ!!」
ふっ、決まった……。
「バカだねユーマ」
「アホだねゆーま」
またしても息を揃えて、罵倒される。悲しきかな、偉人の人。
「まあまあ。兎にも角にも、そういうわけだから」
「はぁ……あんた、全く理由になってないっての。まぁいいわ、折角だし住野さんも連れてカフェ行こーよ」
「――は?」
毎度毎度疑問に思うが、何でコイツらはオレの心情を的確に見抜くんだ?
恐らく、オレがこの後ラーメンを食べに行くつもりでいたら、みちるはラーメン食べに行くと騒いでいただろう。
これがイツメンと言うやつだろうか。
悪い気はしないな。
「ダブルデートよ、やっとゆーまにも彼女が出来たことだしね」
「おっ、みっちそれいいね。早速住野さんに連絡してよ」
「……わかったよ」
渋々といった感じで、オレは絢香に電話を掛けた――。
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