短編29話  数あるカクヨムな留学生たち

帝王Tsuyamasama

短編29話

「はぁ……」

「なんだよお前、元気ねぇなぁ」

 休み時間、中庭の端っこにあるベンチで思わずため息をついてしまった俺、格川かくがわ 貴雪たかゆきに声をかけてきたのは、留学生のカタリィ・ノヴェルだ。みんなからカタリと呼ばれている。

 赤茶色の髪に水色の目をした男子で、いろんな人と会っては小説を作ってるらしい。でも俺は読んだことないし、学校でも特に発表してる様子はないんだよなぁ。

 この学校に来た理由は、ここに通う生徒たちの評判がよかったからだそうだ。ありがたいことだが、俺は今それどころじゃないんだよ……。

「カタリかー。確かカタリって、小説作りまくってんだってなぁ」

「ああ。まぁちょっと変わってるやつだけどなっ。それがどした?」

「てことはさぁ……女子の気持ちとかもわかるわけ?」

「あーそれはあんまりわかんないかな。僕はあくまで一人一人の想いを引き出して小説にするのが得意なだけで、別に女の子について詳しいわけじゃないよ」

「はぁー、そうかそうかー」

「相談くらいは乗ってやれるぜ。話してみなよ!」

 カタリは俺の右隣に座った。まあ……カタリだし、話してもいっか。


「はあ~? そんなのさっさと告白したらいいだけじゃんか」

「それができないからこうしてうじうじしてんだろーがぁ~」

 ああ。自分のこの性格。むなしい。

「例えば真っ黒い表紙にタイトルと作者の名前だけが白く書かれた小説があったとしてさ。外から見てるだけだと内容わからないだろ?」

 なんか例え話をしだしたぞ?

「なんだ急に?」

「いいから聴けって。今お前はその小説の表紙をただ眺めてうじうじ思ってるだけだ。開いて読めば感動すんのにさー、あーもったいねぇ」

「……その例えはうまいのか?」

「だー、とにかくそんななんだよ。今のお前から小説作ってもあんまおもしろくなさそうだから、告白したらまた教えてよ。その時のお前を小説の題材にしたいな」

「小説小説って……」

(でもこれがカタリなりのエール……なのだろうか?)

「……なんかいい告白の方法って、ないか?」

「『好きです付き合ってください』でいいじゃん。いつ告白すんの? 今日?」

「きょ、今日!? 心の準備がまだっ」

「はぁ。だめだ。ちょっとバーグさん呼んでくる。ここで待ってろ」

「お、おいっ」

 カタリはひょいっと飛び立つと、校舎の中に入っていった。


「貴雪様~、お待たせいたしました~」

 しばらく待つと、もう一人の留学生、リンドバーグがやってきた。バーグさんって呼ばれることが多い。ちゃんよりもさんが多いのが謎。

 薄い灰色の髪にオレンジ色の目をした女子だ。カタリとは友達らしくて、一緒にこの学校へ留学してきたのは人の役に立つ勉強をしたいからだそうだ。そんなのどこでもできそうだけど、いろんな人と触れ合うことで将来より正確な処理ができるようになるはずだとかなんとかこーとか……あとカタリは重度の方向音痴らしくて、そのサポートのためでもあるらしい。あれ、あいつ地図集めんの趣味じゃなかったっけ?

「はぁ……」

「あらあら貴雪様、なんて立派なため息なのでしょう。ぱっとしないお顔がさらにぱっとしなくなりますよ?」

「……バーグ。悪気はあるのかないのか……」

「へ?」

 なんでそんな笑顔なんスかね。元気づけようとしてくれてるのかなんなのか。

「カタリから少し聞きました。わたくし、悩んでいる貴雪様のお力になりたいです! わたくしに悩みを打ち明けていただけませんか?」

 と思ったらこの真顔。こんなにまっすぐ言われたら、

「じゃあ……聞いてくれ」

「はいっ!」

 俺はバーグにも今悩んでいることを話した。


「うわー……そこまで来ていてどうして告白できないのでしょう。悩んでる時間があったら小説を書いた方が有意義ですよ?」

 なんでこいつらはどっちも小説推しなんだろう。

(いや、でもある意味これもバーグなりのエール……なのかなぁ?)

「こういう相談をカタリにしてたら、バーグを呼びに行ったってわけさ」

「なるほどー。でも臆病なりに頑張ってる貴雪様のこと、応援したいです!」

「どうせ臆病さウッウッ」

「ほらほらそういうところがいけないんですよ。でもわたくしはその貴雪様の恋、実ると信じていますよ!」

「まじで!? 女子からそう言ってもらえるといけそうな気がする!」

 なんだかんだ言ってバーグはまじめな性格だからな!

「はい! だって貴雪様、そのどうしようもないくらいの慎重さは安定を求める女の子からすると高ポイントだと思います! そして貴雪様の想い人、読山よみやま 文美あやみ様は、まさにそういった方を求められているとわたくしは推測しています!」

「まじかよ! じゃあ告白するならどんなふうに告白したらいいか?」

「それは『好きです、付き合ってください』で充分だと思いますよ。貴雪様、それ以上に女心を突き動かせる言葉なんて思いつかないでしょう?」

「ぐっ」

「じゃあ臆病なら臆病なりの範囲で伝えたらいいのですよ!」

「臆病臆病とウッウッ」

「わたくし。貴雪様のこと信じています! あ、なんならわたくしが文美様を放課後お呼び出しいたしましょうか?」

「あんたも今日派かよぉー! わあったわあったもうこうなったらやけくそだ! 今日部活終わったら文美ん家行くって伝えててくれ!」

「承知いたしました! 頑張ってくださいね、貴雪様!」

 バーグは笑顔で立ち上がり、これまった超笑顔で校舎に戻っていった。

(はぁぁ……勢いでこんなことなっちまったけど、ほんとにうまくいくんだろうか……)

 そうは言ってもやっぱりまだちょっと不安だった。


 文美は違うクラスだし部活も違うこともあって、昼休みから後に顔を合わせることはなかった。これでもしバーグが伝えてなかったらやばいけど。

 文美は小学校のときから知ってる幼なじみだ。明るい性格で友達が多く、加えてテストの点数もいい。



 ……ついに決戦の地、読山家に着いてしまった。学校からかなり近いんだよなぁ。朝起きるの粘れそうでうらやましい。

 読山文美が立っている。横にくくられた髪が風で揺られている。

「呼び出すんなら直接呼び出してくれてよかったんだよ? それじゃ、今日の用事をしゃべってよ」

「あ、あー、そうだ、な。ウォッホン。あのー、さ、文美」

「なに?」

 目の前に文美がいる。住宅街で少し中に入ったところだからか、今この近くに人はいない。このタイミングを逃すとまじでもう言えなくなるかもしれない。

「前にさ、気になる男子がいたって言ってたよな?」

「……それいつの話?」

「に、二年前」

「あぁー…………うん、いたよっ」

 なんか微妙な反応だなっ。

「そ、それって、ひょっとして俺か!?」

「違う」

 …………………………oh。

「……じゃ、じゃあな、文美」

「終わり!?」

 俺は文美に背中を向けて、とぼとぼ帰

(ぅいいぃっ?!)

 ろうとしたら後ろから、だ、抱き、抱きつ、だだだっ。

「文美ぃ!?」

「ふふーん……ねぇ。なんでその話を私にして、違うって言ったらすぐ帰ろうとしたのかなー?」

「え。いやまぁそのー。そろそろ晩ごはんが食べたくなってきて」

「もし気になる男子が貴雪くんだって言ったら、どうしてたのかなぁ?」

「さ、さぁ~? その時にならないとわからないかなぁ~?」

 ずっとくっついてんのは一体なんなんだ!

「ふーん。じゃあもういいや。貴雪くん、これで用事は終わりなのかな?」

 文美の抱きつきが終わった。助かった……けど、やっぱり俺には告白なんて無理だったんだ。バーグに散々臆病臆病言われまくったけど……ほんと俺、どうしようもないくらい臆病なやつだよな。

(俺、文美と仲悪くなりたくないし……)

「……あーあ。なーんだ。カタリくんから『告白するらしいから話してやれ』って言われたのになぁー。あーあ」

「ちょおおおお!! あいっつ何言ってやがんだーーー!!」

 俺は思わず文美の方に振り向き直してしまった。

「カタリくんはうそなんてつかないタイプだと思ってたのになー。あーあー」

 俺は道路のど真ん中でorzのポーズをした。文美はまったく動こうとしない。言葉ではめちゃんこ俺をいじめてきてるが。

「……貴雪くんは本当に帰るのかな」

 トーンが普通の……いや、いつもより少し静かに聞こえたかな。

「う、うう……」

 俺はなんとか立ち上がったが、文美の目を見ることはできなかった。

 しかしとうとう文美は小さくため息をついてしまった。

「ごめんね、貴雪くん。引き止めちゃったね」

「俺こそ呼び出して……ごめん、文美……」

 猛烈に申し訳ない気持ちがわきあがってきてしまった。ほんと俺、何やってんだろう。

「……ほら。早く帰りなよっ。晩ごはん、冷めちゃうよ?」

「まだ作ってないと思うけどさ……」

 ここでようやく文美の目を見ることができ

(えっ……ちょ、なんで)

「あ、文美なんで泣いてんだ!?」

 文美は制服の袖で涙をぬぐった。

「そんなの知らないわよ……貴雪くんが帰っちゃうからじゃないっ?」

 泣きながらそんなことを言われて、俺はものすごく胸がずきずきした。

(どうしようどうしよう。もう本当にこれが最後の最後かもしれない。これ以上のチャンスなんて、もうないかもしれない……)

 ああでも俺は最後のこの一絞りの勇気が

「いでっ!」

 突然俺の後頭部に衝撃が! 視界に一瞬オレンジ色の羽

「てうわっ!」

 そのままよろけて、俺は目の前にいた文美を、その、そのっ。

「きゃ、た、貴雪、く、んっ」

 抱きしめてしま……いや……あれ……唇に……これ……


 文美から顔を離す。まだ抱きしめたままだ。

 文美は……とてもはずかしがっているようだ。か、かわいい。

「……これは……どういうことかな、貴雪くん」

「……言えなかったのに、できてしまいました」

「ますます意味がわからないんだけど」

 そう言いながらも俺にくっついたままの文美。

「……ほらほら。貴雪くん。何か言いたいことは?」

 言いたいこと……それは……。

「好きです。付き合ってください」

(言えたーーー!!)

 文美は、ちょっと間を置いて、改めて俺をぎゅっと抱きしめ返してきた。

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