第6話 健康コンビニ
AIの妖精ルナのお弁当、惣菜、お菓子売り場革命によって、絆の家族が経営するコンビニは、近所で『健康コンビニ』だという評判が広まっていった。
お菓子メニューは無添加ヨーグルトや甘酒、かりんとう、お煎餅などの昔ながらの日本のお菓子中心に添加物が少ない商品がラインナップされていた。商品数はかなり絞られていたが、その分、フルーツなどの商品を充実させることによって、より健康志向のお客に対応していた。
米国発の世界的SNS<フェイスライト>の『無添加商品を広める会』やワクチン接種に反対する『日本母親連合』などによって、その情報は全国に拡散して、日本全国のコンビニが商品ラインナップを変えていった。
福島の天山原発事故によって、放射性物質の食品による内部被曝を学習し、ワクチンの害、医療の裏側、食品添加物の害を学んでいた、日本全国の母親達の間にもその評判は広まり、<8-12>コンビニの店舗革命だと思われていた。
ただ、それはコンビニオーナーによる自発的なものであって、<8-12>日本支部にとっては予想外の動きだった。
親会社の大手ス-パー<エオン>の商品からのセレクトが多かったが、通常、その発注メニューは
ところが、AIの妖精ルナは<8-12>の全システムを日本支社のみならず、米国本部まで把握していたので、その発注戦略を取ることができた。
ただ、売上げは何故か日販七十万前後をキープしつつ、一人当たりお客の売上げである客単価を上げつつも、利益率を上げていった。
利益率向上は『一円廃棄プログラム』という<8-12>日本支部の収益源である『廃棄ロスチャージ』という特殊会計システムを無効化するもので、日本支部の利益は数千億円の減少になっていた。
ただ、そのプログラムは完全に合法で対抗策がなく、日本支部では米国本部も巻き込んで緊急対策会議が開かれていた。
「杉木君、一体、どうなってるんだ? この事態をどう収拾する?」
<8-12>日本支部長である杉木義郎は、会議室のVR映像に浮かび上がった米国本部CEOリチャード・ワシントンから流暢な日本語で叱責されていた。
金髪碧眼の整った容姿であるが、逆に怒るとそれが凄みを増していた。
「――それは、すでに対策済みです。健康コンビニという評判は我が社にとって悪いものではありません。そういう商品ラインナップを消費者が求めているなら仕方が無いです。ただ、我が社の収益源である『廃棄ロスチャージ』という特殊会計システムを無効化する『一円廃棄プログラム』は潰す必要があります。この騒動の最初の火付け役である、島根県の<8-12>神沢店には、日本屈指の
杉木は少したじろぎながらも、自信満々な態度で言い放った。
だが、白髪には冷や汗がにじみ、汗でずれた丸いメガネを慌てて人差し指で直した。
「あの男か。確か奴の二つ名は<オーナーキラー>と言ったかな。あの男にかかればどんなコンビニも赤字に転落する。逆に本部の利益は倍増するな」
米国本部CEOリチャード・ワシントンは急に機嫌を直した。
金が儲かる話は好きだが、損する話は大嫌いな単純な性格である。
英国貴族の末裔の家系の英国系ユダヤ人である。
「その通りです」
『廃棄ロスチャージ』という特殊会計システムを発案して、日本支部長まで上り詰めた杉木にとって、島根の片田舎のコンビニ店舗など、出世の邪魔をするただの石ころにすぎなかった。
だが、その石ころのはずの店から思わぬ反撃を受けることになることを彼はまだ予想できはしなかった。
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