シンプルトーク
花るんるん
第1話
「ワカクサ、統括がお呼びだ」
課長が渋々、俺に伝えた。彼は自分に正直な男で、渋々感や侮蔑感を隠す気がさらさらない。
よくそんなんで、社内の駆け引きで勝利を納め、この中枢部署を獲ったな。
ひとえに、相手が俺だから、遠慮する必要がないと感じたのだろう。
ま、孤児院出としては、悪くないポジションだ。
このビルの最上階全てを借りきり、統括官室がある。この部屋に入っただけで、社内でのステータスとなる。
さすがは、統括官室。
エレベーターには、エレベーターガールが付いている。緑色の帽子が印象的な、かわいい子。
最上階に着くと、先ほどのエレベーター・ガールが、スタスタと統括官室へ入っていった。
エスコートにしては、大胆じゃないか?
噂話じゃ、「統括官室から出てこなかった者もいる」とか。
僕は慌てて、付いていく。
しかし、僕に聞こえてきた、統括官の開口一番は、予想を裏切るのに十分なものだった。
「すまないな」
そして、その続きも、僕の予想を裏切るのに十分なものだった。
「はい、お父様」
ああ、思い出した。エレベーターガールの正体は、リンドバークさんだ。統括官の娘で、統括官の秘書だ。
ふつう、娘や秘書は、自身の肩書だけでは、生きていけない。ビジネスの深いところには関わらない。
「隣国サイとの交渉にあたってほしい」
ただ、彼女は、最高ランクの交渉人と言われていた。
「分かりましたわ」
「今回も企業の立場としての極秘交渉となる。目立たぬように事を運ばなければならない。だが、危険な任務であることに変わりない。サイには世界最強を称する『一番騎士』もいる。そこでだ、優秀な護衛を一名付けよう」
…………。
「ワカクサ君、頼んだよ」
せっかく企画部門に配属されたのに。
「よろしく、お願いしますわ」
ま、いいさ。よろしく、お願いされる――か。
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