第45話 朧、ジェレーレ火山で狂喜乱舞する 2

 

 雷の矢は一本大体MPを11程度消費する。

 コラプサーレを放って消費したMPを鑑みても、上手くいけば三千匹程度は火蜘蛛を狩れるだろう。


 魔力回復薬マジックポーションは連続して飲むと効果が弱まるって聞いた事があるけど、実際に試した事は無かった。


 だって、魔力枯渇に陥るまでMPを消費する機会が少なかったからね。


「さて、とりあえず炎楼蜘蛛の性格が俺の予想通りか試してみるか」


 俺は雷の矢を蜘蛛の巣の中心部へ掠める様にして撃ち放った。


 だが、炎楼蜘蛛フレアタランチュラは一切中央から動かず、周囲を火蜘蛛に守らせている。


 これではっきりしたな。炎楼蜘蛛は知能が非常に高く、そして自らの価値を知っている。

 即ち、何匹の子供を犠牲にしてでも自身の命を優先するのだ。


 ーー故に取り乱さない。激昂して襲い掛かるなんて真似はしない。


 全ては子に任せ、自分は『特異能力ユニークスキル』で無限に子を増殖し続け、獲物の体力が弱ってから捕食すれば良い。


 俺の想い描いていた計画プランにおいて、理想的な魔物だ。


「さて、とりあえず邪魔な人質を解放するか」


 風の槍で吊らされていた竜人の糸を断ち切り、そのまま俺の背後へと流す。

 生死を確認するのはイゴウルに任せよう。寧ろ、一緒に逃げてくれないかなぁ。


「イゴウル殿! 俺は貴方の弟子に頼まれて助けに来た者だ! どうか捕まった者達を守って欲しい!」

「……あ、あぁ。坊やは一体何者なんだよ……」


 こちらに向かって来るイゴウルを背後から襲おうとしていた火蜘蛛を蹴散らし、俺はすれ違い様に小声で告げる。


「神龍の後継者さ。間に合って良かった」

「ーーーーッ⁉︎」


 ギョロっと目を見開くイゴウルの肩を叩き、俺は迫って来た二十匹程の火蜘蛛の頭部を一斉に四散させた。


「話は後だ。暫く俺の背後で体力を回復させて欲しい!」

「お、おい! さっきの言葉が本当なら、名前を教えろ!」


 信じられないのも無理はないが、名前を名乗る事に何の意味があるんだろ? まぁ、いいか。


「グレイズ・オボロだよ」

「…………」


 俺が名前を名乗った瞬間、イゴウルは無言のまま片膝をついて跪いてしまった。

 面倒臭い事になりそうなので放置する。


「とりあえず、背後の者達の事は任せたぞ!」

「……はい」


 イゴウルは呆然としているが、その瞳は力強さを失っていない。これなら任せても平気だろう。


 俺は二十歩歩みを進めると、根比べを始めるのに一番丁度いい距離を定めた。


 眼前には四方八方に蠢く火蜘蛛の群れ。背後には守るべき対象がおり、自然と集中力が高まる。これ以上ないって位に整った環境だ。


「さぁ、蜘蛛ども! 食わせろお前らの経験値を!!」


 一斉に飛びかかって来る火蜘蛛へ向かい、雷の矢を放つ、放つ、放つ、放ち続ける。

 それはまるで蜘蛛の波を切り裂く紫電の光。


 群れて密集しているせいで、感電に巻き込まれる馬鹿な魔物達。


 それでも尚、無謀な突撃は止まらない。こいつらは教え込まれているのだ。


 獲物は襲い続ければいつか動かなくなる、と。


「おいおい、狙撃を使うまでもないぞ! かかって来いよ! もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっとだあああああああああああっ!!」


 ただひたすらに雷の矢を放ち続け、火蜘蛛の死骸が積み重なる。


 それが壁になるまで積み重なった頃、同胞の壁の両サイドから這い出て来た新しい子供達を狙って爆散させた。


 経験値が流れ込み、レベルが上がっていくのを感じながら俺は狂気乱舞する。


「もっと効率のいい方法は、ーーこれだ!!」


『知恵の種子』の効果なのか、今の自分に何が出来るのか瞬時に判断出来た。


 俺は大量の水球を生み出し、蜘蛛の巣の天井部分に当てて割る。


 びしょ濡れになった蜘蛛達は、さらに通電性を増して雷の矢の餌食になった。


「何匹殺したかなんて、数えてられないなぁ。最高だよお前た、ーーち?」


 俺は首を傾げながら、水蒸気を風魔法で散らした。

 すると、千匹はいた火蜘蛛達の死骸が地面に広がっており、グロい。


 マザーは今も頑張って子供を産み続けているが、どうやらペース配分を間違えたかな。


「まぁ、第一弾はこんな感じかね。さて、休憩するか」


 俺は振り返ると、顔面蒼白なイゴウルの元へ向かって掌を振る。石みたいに固まっちゃってて反応が無い。


「お〜い! 起きろよイゴウル殿!」

「ーーハッ⁉︎ し、失礼しました! グレイズ様のお力が余りに凄まじく、常識を超えていたものですから……」

「そんな堅っ苦しい敬語はいらないさ。俺は貴方に会いに来たんだから、もっとくだけてくれて構わないよ」

「そ、それは流石に……」

「命令だ。敬語を止めろ」


 冷や汗を流しながら困っているようだったので、一応命令って形をとった。

 やっぱり龍王の親族だけあって、俺の事は知っているみたいだ。


 この場においては助かると思った方が良いかな。


「んじゃあ、グレイズ様は一体何でこんな場所へ? 呑気に話せる状況じゃあるまいし、本当に弟子達に頼まれて儂を助けに来たって言うのか?」

「ん〜。まぁ、そんな所だな。正確に言うと、俺はお前の鍛治の弟子になりにきた。これから手に入れる素材を、自分で活かせる知識をくれ」


 俺が目的を述べると、イゴウルは若干苛ついているような、困ったような不思議な表情を見せる。


「申し訳ねーが、鍛治の道はそんな甘いもんじゃねぇよ。最低でも十年は修行して、漸く一人前と認められるレベルに辿り着けるかどうかって位、厳しいんだぜ。大体二年で若い奴らは挫折を味わう」


 凄まじく真剣な瞳を向けられて、思わず胸が高鳴った。こいつは本物だ。覇幻を預けるに相応しい力を持った、本物の鍛治師だ。


「ありがとう。俺も心からそう思うし、イゴウル殿の慧眼に削ぐ得ぬと判断されたら、大人しく身を引くと約束しよう。これは男の約束だ!」

「……その言葉に嘘偽りはねぇのか?」

「あぁ。正直に言うと俺は武神から加護を貰っていて、それを試したいだけなんだよ。『強化成功率百%』って書いてあるんだけど、一体何の事か分かんなくってさぁ」

「ーーちょっ⁉︎ 今、何て言った⁉︎」

「おっ? そろそろ第二弾の数が揃ったみたいだ。話は次の休憩の時にね」


 俺は土魔法で炎楼蜘蛛の巣に土壁を発生させて分断していた。


 気配察知と気配感知で様子を伺いながら休憩をとり、ガリガリと土を削る音を立てて、ヒョッコリと現れた火蜘蛛を再び雷の矢で吹き飛ばす。


「おぉ、さっきより増えてるじゃん」


 どうやらマザーはやる気を出して頑張ったみたいだ。見渡す限りに新しく産み落とされた蜘蛛達が蠢いており、気持ち悪い事この上ない。


 まだまだ余力は十分にある。魔力も同様だ。


 どんどん子供を生み出してくれよマザー!!

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