神龍の後継者〜天衣無縫と呼ばれた貧乏剣士の異世界転生〜
武士カイト
【第1章 さようなら人生、こんにちは理不尽なチュートリアル!】
第1話 どんなに強い剣士でも、隕石には勝てない。
「ふむ。今日は無料十連ガチャの日か……」
俺はPCモニターを前にして、道場から連なった小部屋で布団を被りながらネトゲをしている。
「チッ! 碌なランクの女の子キャラが出やしねぇ。運営の奴らめ、叩き斬ってやろうか」
舌打ちしながら欲しかったキャラが出なかった事に苛立ちを隠せないでいると、背後から忍び足で気配が迫っているのを感じた。
ーーカアァァァァァン!!
「良い加減に稽古をつけて下さいよ師匠!!」
「い、や、だ!! 俺は今年で六十になる年寄りだぞ? 何が悲しくてお前みたいな小娘を鍛えなきゃならんのだ! そんな事より
「アンタが僕を拾って強制的に弟子にしたんでしょうがあああああっ!!」
「身の回りの世話をする下僕が欲しかっただけじゃい!!」
老人に木刀で切り掛かってくるとかこの子怖いわ〜。俺は生きていく上で危ない目に遭っても死なないように優しく慎ましく育ててあげただけなのに、この言い草。親の顔が見たいね。きっとろくでもないに違いない。
「それはアンタの事だああああああああっ!!」
「こらっ! 師匠をアンタ呼ばわりする無礼者に育てた覚えはないぞ!!」
どうやら考えていた事が口に出ていたらしい。
上段に構えた木刀を振り下ろされる前に、俺は弟子の額に掌を当ててその身を反転させた。
足元に丁度転がってきた右腕を踏みつけると、悔しげな表情を浮かべる自称弟子を見下ろす。
「まぁ、落ち着きなさい弟子よ。どうした? 反抗期か? 俺と一緒にゲームしたいならもう一台PC買って来て良いぞ?」
「グヌヌヌヌヌッ! こんなオンボロ道場のどこにそんな金があるんだよ! 僕にばっかり働かせて自分はゲームばっかり……良い加減にしろぉ!!」
俺は東北地方の山の頂上に立てた我が道場をオンボロ扱いされて、ちょっとイラッとしたけど大人として堪えよう。
「だって、俺が金を稼ぐと何故か消えちゃうじゃん。上限一万円って散々検証したじゃん?」
「……」
弟子は苦々しく苦悶の表情を浮かべながらも、下唇を噛んで押し黙っている。
そう、俺は何故か戦場に送られて銃の雨霰を受けても傷一つ付かない『奇跡の男』、『天衣無縫の剣士』、『地上最強の男』などと呼ばれているのだが、その実『貧乏神の想い人』という名が一番有名なのだ。
子供の頃から金が無かった。剣に才能を見出してから、ただ只管愚直に最強を目指したのだが時代が悪かった。
結果として腕を振るう場面なぞ、日本ではなく世界に散らばる戦場にしかなかったのだ。
地球の反対まで飛ばされたり、紛争地域に送り込まれたり、特殊部隊に組み込まれたりと、若い頃は色々やったが、名声と相反するかの様に貰った金は飛んだ。正確には手元に残らなかった。
言葉通り、大金を手に入れては燃え、盗まれ、銀行に振り込もうものならその銀行が倒産し、シェルターに保管しても天変地異の前には無意味だった。
そして、俺は自らの境遇を知る。
ーーあっ。こりゃ詰んでるわ、っと。
年齢が五十を超えた時に現役引退を表明し、最後の戦場で拾った先程から煩い弟子、『
元から自分の年齢を知らない少女だったのだが、今は大体高校二、三年生位には成長した様に思う。戸籍上の年齢はお偉いさんを脅して見た目に合わせたから詳しい事は知らん。
「いつまで引き篭もっているつもりなんですか師匠⁉︎」
「フッ! この寿命尽きるまで、永遠にだ!」
決まった。完璧なポージングにして、俺の断固たる決意を感じて緋那も震えている。
(だって今更嫁探しとか怠いじゃん? それに何年か付き合って振られたりしたら、立ち直れる気がしないしな)
草食系男子という言葉をニュースで見て、俺は感銘を受けた。なので引き篭もるし、恋愛なんぞしてる暇があったらガチャを回す。
金が稼げない俺に代わって頑張って、バイトやら道場破りを倒してくれる
「フハハハハッ! 俺を止めたければ、子供の頃からの約束である『一太刀』を浴びせて見せるんだな、緋那よ!」
「いえ……もう限界なんで出て行きます。師匠は確かに現代において最強ですけど、保護者としては最低ですし、僕は既に自分で生きていける術を得ました」
突如、雪女の様な冷酷な視線を向ける弟子がいた。吐き出される言葉が胸をチクチクと抉ってきやがる。
「そ、そんにゃっ⁉︎」
予想だにしない発言を受けて噛んでしまい、少し恥ずかしくなって俯いている所へ、追撃が来る。容赦ねぇな弟子よ。
「ちなみに僕の貯金は四百万以上ありますので、心配は無用ですから」
「い、いつのまに⁉︎」
「フッ! 師匠には感謝してますよ。本来なら師匠が引き受けて貰うべき褒賞金を、僕を扱き使って解決させたお陰で、直接受け取らせて頂いたんですから」
俺は確かに面倒くさい依頼は全て修行だと言って弟子に押し付けていた。だが、考えられない。こいつは文句を言いながらも、俺を慕う忠臣だと信じていたのだから。
「もしや、へ、ヘソクリ……だ、と⁉︎」
「えぇ、因みに師匠と違って高校で恋人も出来ました。僕、ーーいえ、私、もう幸せですから、これでさよならですね! 師匠は寂しく童貞のまま果てれば良いと思いますよ? プフッ!」
ーーグッサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
「こんな理不尽が許されて良いのか……」
「それ……引き篭もりの言う台詞じゃないですよね」
「じゃあ、俺……婚活するから相手が見つかるまでは此処に居てよ!!」
「絶対やだ!! 『天衣無縫』と呼ばれた剣士がどんだけプライド捨て去ってるんですか⁉︎ キモいを通り越してひくわ爺!」
「グヌヌヌヌヌッ! もうお前なんか知らん!! 破門じゃ破門!!」
「私なしでどうやって生活していくのか見ものですね。課金だってもう出来ませんからね!」
(ピャアアアアアアアアアアアアアッ! それは困るううううううううう!!)
課金の為の土下寝か、仮にも親としてのプライドかを脳内の天秤にかけた結果、打算付きで親、もとい師匠のプライドが勝ちました。
所詮は未成年。保護者の同意無しに一人暮らしなぞ出来まいて。直ぐ様現実に打ち拉がれて戻って来るに違いない。
「それでは、今までありがとうございました! さようならお義父さん!」
「あぁ、現実の厳しさに打ち拉がれるがいい!」
鼻息を荒くして道場を出て行く娘に背中を向け、俺は内心でほくそ笑む。どうせ直ぐに戻ってくるさ。
でも、それが娘の緋那を見る最後の姿になるとは、この時の俺には終ぞ思いもしなかった。
ーーこの夜、道場がある山一帯に謎の隕石が落ちた。
俺の最後の記憶は愛刀『
(あぁ、死んだ、か……)
こうして俺、『
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