異星の冒険者~宇宙兵器で世界最強~
謙虚なサークル
第1話 軍人、堕ちる
――宇宙歴750年。
人類が宇宙に進出して、実に750年もの月日が流れた。
だがやっている事は石を木の棒に括り付け、殴り合っていた頃と何ら変わらない。
すなわち、人と人の血で血を洗う殺し合い。
今も、そら、目の前でチカチカと命の花火が上がっている。
「何をくだらない事を考えているのですか。アレクセイ」
流暢な機械音声が頭に響いた。
語りかけてきたのは
現在は俺の思考とリンクしている為、思考も読み取れるよう設定されている。
そして俺はパイロットとして搭乗しているアレクセイ=ガーランド。
帝国宇宙軍、第七艦隊所属の28歳。下っ端兵士、彼女募集中である。
「だから、くだらない事を考えてないで働いてください」
「おいおい心外だな。シヴィ、ちゃんと働いてるだろ?」
ちなみに搭載されているAIを、俺はシヴィと呼んでいる。
シヴィは感情のこもっていない声で返してきた。
「それより敵機接近中です。サボっているツケが回ってきていますよ」
シヴィがそう言うと、俺の全面に展開されているスクリーンの端に敵機が映し出された。
こちらにビームガンの銃口を向けている。
「わかってる……よっと」
俺はシヴィを旋回させると、即座に手元のガンレバーを押す。
手にしたビームガンから放たれた光が、画面に映っていた敵機へと真っ直ぐ伸びていく。
そして命中、制御を失ったビームガンは、あらぬ方向へと発射された。
敵機はそのまま爆発四散し、虚空の闇に溶けていった。
「まだ来ます。アレクセイ」
「はいはい。ったく少しは休ませろってんだ」
舌打ちをしながら、俺はガンレバーをクリックしてスクリーンに映し出された敵機をロックしていく。
だが数が多い。こちらがロックしきるより早く、向こうが撃ってきた。
「シヴィ、回避は任せる」
「了解です。ロックは外さないで」
オート回避を起動し、機体制御をシヴィに任せる。
機体に背負っているバックパックから青白い炎が勢いよく吹き出し、迫り来るビームを縦に、横に高速運動して躱していく。
激しい運動にコクピットが揺れるが、俺はその間も敵機のロックは続けていた。
避け切れない攻撃は、ギリギリまで引きつけてからビームガンで相殺。
視界内、全ての敵をロックし終わった俺は一旦距離を取る。
「オーケイだ。ホーミングレーザー、機動」
「了解、ホーミングレーザー機動します。充填率70……80……90……発射」
機体の背中から突き出しているポッドから放たれる、何本もの光の束。
それは頭上で別れ、周囲を取り囲んでいた敵機へと曲がりくねりながら向かっていく。
敵機は各々回避を試みるが、ホーミングレーザーは熱源を捉えどこまでも追っていく。
本来、この機体には重量のあるホーミングレーザーは装備されてない。
高機動型は装甲が軽く、その分機動力を上げているからだ。
しかし俺はその機動力を犠牲にして代わりに武器をめいっぱい詰め込んでいる。
攻撃は最大の防御、俺の座右の銘である。
一機、二機と命中し、最後まで逃げていた機体の胴を貫いた。
漆黒の闇を、無数の爆発が煌々と照らしていた。
「敵機、全て撃破。流石ですアレクセイ。これでもう少し真面目だったならば、上級士官にでもなれたものを」
「おい、一言多いぞシビィ。いーんだよ俺は。士官なんてガラじゃねぇ。自分の命を背負うだけで精一杯さ」
「ご謙遜を。ガリア宙域での撤退戦、見事なものでしたよ」
――五年ほど前、とある戦争にて、俺は軍の嫌われ者を集めた予備隊に所属していた。
本来ならば本隊だけで勝てる戦、だが司令官のミスで俺たちは敵軍に敗れてしまう。
話はそれだけで終わらず、司令官は責任も取らずに自分たちだけは逃げられるように、予備隊に殿を言い渡したのだ。
彼我の差は百倍以上、万に一つも生き残れる戦いではなかったが、俺たちはあらゆる手を尽くし、何とか任務を果たした。
しかし部下は殆ど死に、生き残ったのは俺を含めた数人。
そんな俺たちの手柄を、その司令官はまるで自分がやったかのように奪い取ったのだ。
『自分の的確な指示のおかげで、彼らは生き残り本隊もまた無傷で撤退に成功したのだ』と。
何度も補給を要請したが、連絡は無視され補給品が送られたことは一度としてなかった。
その代わりに送られてきたのは、『気合いで守れ』だの『命をとして任務を完了せよ』だのふざけた命令ばかりだったにも拘わらず――だ。
それを聞いた俺は即座に指令室へと赴き、思い切りぶん殴ってやったのだ。
潰れたカエルみたいな面が笑えて傑作だったが、当然俺は処罰を受け、結果こうして最前線に飛ばされたわけである。
「勿体ない事です。あなたを慕う兵は本当に多いのですよ。……命知らずな事に」
「だから、一言多いぞシビィ」
「そうですよ、隊長殿」
シヴィと軽口を叩き合っていると、スクリーンに同じ隊の男が割り込んできた。
先の戦いでの生き残り、俺の部下だった男だ。
だがそれも昔の話。今の俺は降格されており同僚なので敬語を使う必要はない。
「隊長は止めろって言ってるだろ?」
「ははは、私にとっては隊長はいつまでも隊長です。あの戦いで何度も命を救われましたからね。死ぬまで言い続けますよ」
「ったく、戦いの最中だってのに縁起でもねぇ。今度子供が生まれるんだろ?」
「えぇ、帰る頃には……隊長、約束通り真っ先に会って下さいよ」
「わかってるわかってる。……む」
突然、ピピピと警告音が発せられた。
嫌な予感がした俺は咄嗟にレバーを倒し、機体を右に動かす。
その瞬間、ごおう! と光の束が機体のすぐ横を通り過ぎた。
ビームカノン、それもかなり高出力のものだ。
スクリーン後方に、避けそこなった味方機の爆発が見えた。
「敵機接近、あれは――特機です」
俺は即座に前方、ビームの飛んできた先を見る。
僅かに見える小さな光を拡大、拡大、すると真っ赤な機体が見えた。
――特機、エースパイロットの乗る、特別製の機体だ。
性能もさる事ながら、搭載されている武器も通常の機体とは比べ物にならない。
一機で戦況をひっくり返す事も出来る、チート機体だ。
そんなことを考えてる間に、ぐんぐん近づいてくる。
もはや拡大の必要もない。メインモニターに映る真っ赤な特機を前に、俺は舌打ちをしてガンレバーを引く。
「このっ!」
構えた銃口から放たれる、ビームガン。
俺に続いて、味方も同様に特機を狙う。
だが奴は雨あられと降り注ぐビームを、軽々と躱しながら近づいてくる。
その際、反撃の射撃で、また味方が数体爆発した。
「だ、ダメです隊長! 早すぎる!」
「ちっ、ロックオンすら間に合わねぇ……」
さっきからロックオンをしようとしているが、小刻みに動かれそれすらも出来ない。
かと言って適当に撃って当たるはずがない。
機体性能が違いすぎる。だが泣き言を言っててもただ殺されるだけだ。
とにかくやるしかねぇ。
俺は銃を投げ捨て、背中のバックパックからビームソードを引き抜いた。
接近戦なら銃よりもこちらが有利である。
向こうもまた、ビームソードを抜いた。
バーニアを噴かせ、向かい来る特機に合わせる。
「うおおおおおっ!」
ぎぃん! と交じり合った光の刃が火花を散らす。
二度、三度と刃を交えるたびに俺は大きく吹き飛ばされた。
くそ、やはり力負けしてしまうか。
だが特機は俺を倒すのを面倒と思ったのか、バーニアを逆噴出し向こうへ飛んでいく、
ふぅ、助かった。
「た、隊長!」
安堵する俺の目に映ったのは、特機に斬りかかられる男の機体。
あっという間に右腕を切り落とされ、返す刀で頭部も落とされてしまった。
「ちっ、あのバカ! 何やってんだ!」
咄嗟にペダルを踏み、バーニアを全力で噴かせる。
「危険です、アレクセイ。このまま当たれば機体を損傷してしまいます」
「百も承知だ!」
ブレーキを踏んでは間に合わない。
全速力で突進し、そのまま特機にぶち当たった。
がぁぁぁん! と鈍い音がして機体が大きく揺れる。
特機はビームソードを振り上げたまま、バランスを崩していた。
男の機体は何とか無事だった。
だが安堵している暇はない。俺はバーニアを更に噴かせ、敵機諸共戦線を離れていく。
「アレクセイ、何をするつもりですか?」
「このままあの星に突っ込む。特機とはいえ大気圏突入は出来ないはずだ。これなら確実に倒せる」
「しかしそれは私も同じです。あなたも死んでしまいますよ」
シヴィの言葉に、俺は苦笑する。
「……ま、しゃあないわな。特機と相打ちなら上出来だろ」
「アレクセイ、あなたは……全く」
シヴィは機械とは思えぬようなため息を吐いた。
「隊長! 隊長!」
通信機から男の声が聞こえる。
敵機もまた懸命に暴れ、機体が揺れる。
だが俺は構わずバーニアを噴かし続ける。
「……大気圏、突入します」
静かな声でシヴィが言うと、スクリーンに映る外の景色が赤い光に包まれる。
外部は摩擦熱でとんでもない温度になっているだろう。
気づけば敵機もまともに動けなくなっていた。
重力に囚われ、もはや俺も戻れない。
「隊長! 隊長! 隊――」
男の声が途切れる。
もはや通信も届かないほど、距離が離れたのだ。
俺は敵機と共に、目の前の惑星へと落ちていった。
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