恐怖! 転生勇者「ゆうた」がやってきた!!

ちびまるフォイ

ゆうた:ちーとください

「ふぅ、ゲーム転生主人公も無事送り出せたし

 あとはしばらくゆっくりできそうだなぁ」


女神がお茶を入れていると、部屋にひとりの子供が立っていた。


「あれ? 君は? 主人公じゃ……ないよね? さっき送り出したし」


「ちーとください」


「え?」


「ちーとください」



「いや、それはちょっと……」


「なんで」


「そんな簡単にあげられるものじゃないし……。

 というか君、どうやってこのゲームの世界に入ってきたの?」


「かいぞうくえ」


「へ?」


「かいぞうくえではいった」

「なにそれ!?」


女神はどうしようかと頭を悩ませた。


「ごめんね、チートはあげられないの。

 だから、戻ってくれないかな? ほら、現実に戻してあげるから」


「はやくいこ」

「え」


「はやくして」


「いやどこに!?」


少年は女神呼び出しベルを鳴らしまくる。

チリンチリンとけたたましい音が天上界にこだまする。


「ああ、もうわかったから! チートあげるから! それでいいんでしょう!?」


「はやく」

「厚かましいな!!」


女神は少年にチートを与えた。


「君、名前は?」

「ゆうた」


「そう……。ゆうた君、チートあげたんだし、もうここには戻ってこないでね」


「うん」

「それじゃいってらっしゃい」





ゆうたは動かなかった。

さっきまであんなに急かしていたのに。


「ゆうた君?」


「はやくいってやくめでしょ」


「な、なんの?」


「おまえがたおせ」

「私!?」


チートとはいったいなんなのか。

ゆうたにとってチートとは修学旅行で思わず買ってしまう

剣のシルバーアクセサリーくらいの扱いらしい。


「いや、私そういう戦闘系は無理なのよ。

 だからこうしていろんな人を世界に派遣しているわけで……」


「わかんない」


「つまり、ゆうた君じゃないと世界は救えないの」


「さきにいって」


「……」


女神の眉間に血管が一瞬ピキッと浮き上がった。

かくして、ゆうたはゲームの世界に転生していった。


「はぁ……なんかすごく疲れた……。やっと休める……」



――力尽きました。



女神のもとに主人公が死んだことの通知が入った。

ふたたびゆうたが天上界に戻ってきた。


「おかしい」


「ゆ、ゆうた君? なにがおかしいの?」


「ちーとなのにまけた」


「え、えっとぉ……チートといっても無敵じゃないわけで、

 ほら相手も対策はしてくるだろうから、そこは腕前でなんとかしてもらわないと」


「かいふくください」


「回復……」


「かいふくください」

「……」


「むしすんな」


「……わかったわよぉ……」


女神は寝負けしてゆうたと一緒にふたたび転生した。

今度は死なないように、女神の加護をもって必死に回復した。


「ゆうた君!! 危ない!! 魔法がくるわ!!」

「ゆうた君、その攻撃は相手に通じないよ!」

「ゆうた君!? むやみに突っ込んじゃ――」



―― YOU ta DIED



女神の奮戦むなしく二人はふたたび天上界へと送り返された。


「……」

「……」



「まじめにやって」


先に口を開いたのはゆうただった。


「かいふくおそい」


「回復って時間かかるのよ。回復する前に突っ込んじゃったら

 私の回復だって間に合わないし……」


「やくめでしょ」

「……」


「ぼくここにいるからたおしてきて」


「私パシリなの!?」


「はやくして」


ついに女神も許せなくなった。


「もういい加減にして!! なんなのさっきから!!

 私だってずっと頑張ってるって言ってるじゃない!


 それなのにねぎらいの言葉どころか人任せじゃない!

 どうしてあなたは相手の気持ちを考えないの!?

 

 ゆうた君みたいな自分勝手な人にはもうついていけないから!!!」



「……」


ゆうたはさすがに反省したのか何も答えなかった。


「わかってくれた? ごめんね、少しキツく言い過ぎたかも。

 でも、少しでも私の気持ちをわかってくれたら嬉しいかな」



――転生回線が切断されました。



「ゆうたぁぁぁぁ!!!!」


女神の怒りの咆哮は天上界を震わせ、

下界の主人公も裏ボスが天上界にいるのではと震え上がらせた。


これで心の平穏が訪れるかと思った女神だったが、

ふたたび何食わぬ顔でゆうたは戻ってきた。


「ゆうた君、また戻ってきたの!?

 もうなにを言っても、私は絶対に甘やかさないからね!!」


女神は怒りの勢いそのままに言いのけた。

すると、ゆうたはすぐに頭をさげた。


「この度は、息子が迷惑をかけてしまって本当にすみません」


「え?」


「息子がゲーム転生したのはネット小説を読んで知ったのですが

 失礼なことをしてしまっいたようで、私が代わりにやってきました」


「ゆうた君の親御さん?」

「はい」


「あ、そうだったんですね……」


「息子は普段はいい子なんですけど、こういうのに慣れてなくって」


「いえいえ、誰でも最初はわからないですから。

 こちらこそなんか感情的になってしまって、ごめんなさい」



「そうですね」


「……え」



「たしかに息子の言葉は礼節に欠いた部分はあると思います。

 でも、あなたのような女神が年下の子供に声を荒げて怒るなんておかしいです。


 そもそも、息子が死なないように回復したり気を配るのは当然のことで

 すぐに死んじゃうのであれば相応の対策をするべきでしょう?


 第一、チートを与えたうえで死んでしまうという状況が間違っています。

 あなた女神なんだから勝てるように気を配るのが役目なんじゃないですか。

 いったいどういうつもりなんですか?」



女神は泣いて答えた。



「かえってください」

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