第四章その8

 その日の夕食後、杖立つえたて温泉から帰ってスマホを見るとLINEの通知が来ていて望からだ。

『みんな、お盆休み楽しんでる?』

 光は微笑んで返信する。

『たった今、温泉から帰ってきたところ』

 すると既読数がどんどん増えてみんなトークに参加し始める。

『あたしは菊池川の天然プールで遊んできたよ!』

 春菜がメッセージと共に動画を送ってきた、なんだろうと再生すると吊橋の上に春菜が手を振ってる。

『みんな行くよぉぉっ!』

 威勢良く躊躇うことなく七メートルの高さから飛び降りた、流石桜木さんだ。二階から中庭に飛び降りるくらいだから、これくらいのことは朝飯前だろう。

 更にずぶ濡れになりながら満面の笑みを見せ、川から上がった時の写真も送ってきた。

『私は天草の海で親戚の凪沙ちゃんと遊んだわ』

 夏海からで、写真にはどこまでも広がる海を背景に小麦色の肌にショートカットの女の子と眩しい笑顔で写っていた。すると冬花がメッセージと共に写真を送って来る。

『おおっ! オ~シャンビュー! あたしは田舎でスイカ食べてきたよ!』

 冬花が送ってきたのは長身の黒髪美人さんと一緒にスイカ食べてる写真で、一見なんの変哲のない写真に見えるが春菜が驚きの声を上げる。

『えっ? もしかしてこの人川崎香澄さん!?』

『知ってるの桜木さん?』

 望が訊くと、春菜は興奮気味のスタンプと絵文字を混じえて返信してきた。

『知ってるも何もフランスで活躍してるスーパーモデルよ! 知らない?』

『私は知らない』

 千秋は知らないようだ、もしかすると興味ないのかもしれない、すると夏海がメッセージを送って来る。

『この人、日本よりも海外の方で高く評価されてるだって』

『うん、だから街歩いても目立つだけでパリのファッションモデルだって気付かれないんだって』

 冬花はメッセージを送ると、春菜は催促するスタンプと共にメッセージを送る。

『冬花、友達がファンだって伝えて! そしてサインお願い!』

『ごめん、今日のお昼にケープタウンに行っちゃった。多分今頃乗り換えでシンガポール辺り』

 冬花は謝罪のスタンプと共に返信すると春菜は慟哭する。

『ノォオオオオオオオッ!!』

『次のチャンスを待つことね』

 千秋は溜息のスタンプと共にメッセージを送って来ると、間を置いて写真を送ってきた。

『わぁ千秋ちゃんかっこいい!』

 冬花の言う通り、阿蘇山の草原で馬に跨がる千秋はとても凛々しい表情を見せてる。すると、動画を送って来ると風のように阿蘇の草原を疾走する千秋の姿があった。

 夏海がメッセージと驚きのスタンプを送って来る。

『凄いね千秋ちゃん、でも怖くない?』

『そんなことないわ、馬は素直で可愛い子よ』

 千秋が言うと、春菜は冷やかすようなスタンプと一緒に送る。

『誰かさんと違ってね』

『悪かったわね!』

 千秋は怒りのスタンプと一緒に送って来る。すると、望が熊本城を背景に背の高い爽やかなで清涼感のあるイケメンと一緒の写真を送ってきた。

『望、一緒に写ってる人は?』

 光が訊くと返信が来る。

『横浜の親戚の達成君、実は今一緒にLINEしてる』

『結構イケメンじゃない?』

 夏海が送ると光は思わず彼に嫉妬の念を抱くと、望が彼に代わって返信する。

『だよね! でも達成君そうは思ってないって、自分よりイケてる人はいっぱいいるし、光のこと美少年だって!』

『だってよ光君、何かいい写真撮ってない?』

 冬花が送って来ると、どうしようかと少し悩んだが代わりに古い写真を送る。夕方にコンビニでスキャンし、スマホのデータに入れた何枚かの写真のうち、ラバウルで零戦二一型に乗ってた頃の一枚と、生前最期の一枚になった紫電改と共に写る曾祖父の写真を送る。

 真っ先に望が見抜いた。

『御先祖様の写真? もしかして戦争の時に零戦に乗ってた頃の写真?』

『うん、旧日本海軍で零戦や紫電改とかの戦闘機に乗ってた僕の――』

 そこで光は少し悩む、夢は起きたらすぐに忘れてしまうのに、不思議とハッキリと覚えている。あれはただの夢じゃなかったと思う、お盆休みに会いに来てくれたんだと信じたい。

 だから光は自信を持って書いて送信した。

『――自慢の曾お祖父さんさ! 終戦前に亡くなったけどね』

 するとすぐにみんなから返事が来る、最初に来たのは望だ。

『昔の出来事だけど、忘れちゃいけないって思わせる写真だね』

 次に冬花が送って来る。

『凛々しくてかっこいいけど、優しそうな人だね』

 冬花の言う通りだ。こんな軟弱な曾孫の話に耳を傾け、笑って背中を押してくれたと微笑み、春菜と千秋が送って来る。

『曾お祖父さんに負けてられないよ朝霧君!』

『何がよ春菜、まぁでも曾お祖父ちゃんの分まで胸を張って生きなきゃね』

 千秋の言う通りだ、曾お祖父さんのためにもこの夏休みに奇跡を起こそう、でなきゃ鉄拳制裁か下手すれば精神注入棒で尻をぶっ叩かれるだろう。

『冬花ちゃんの言う通りだね、優しそうな目付きが朝霧君そっくり』

 夏海からの返事に、光は誰もいないのに頬が赤くなって照れ臭い気持ちだった。

 帰ったらすぐに湘南旅行の準備がある、昔から終戦の日を過ぎると夏休みはもう半分過ぎたと思うが、今年は違う。まだまだ楽しみが残っていて、八月三一日が楽しみな夏休みは初めてだった。

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