39話 これから
流没闘争の残党。その全てに美蛇が関わっていたこと。伯位の者は流石にいなかったが、
全てを
「美蛇は自分の兄弟を弱体化させて
火精に襲われたとき、引き渡すと言っていたのは……
「美蛇はいずれ高位になるために周りを抱き込もうとしていた。力としては雫さえ手に入ればよかったんだ。只でさえ純度の高い泉が水理皇上の力で純粋レベルにまで上がっていた。一滴とはいえその理力はとても濃い」
「だから、私は逆にそれを利用した。全てに繋がる美蛇が雫を狙うなら、私はその雫を守り、美蛇が尻尾を出すのを待つことにした。その間、華龍どのには辛い思いをさせたが……」
隣の母上を見ると、母上は静かに首を振った。
「元はと言えば我が子のしでかしたこと。そしてそれを止められなかったのは私めの罪でもあります」
「……末子を『雫』と呼ばないのは私への当て付けだろう?」
「…………滅相もない」
母上が
「御上、華龍どのの子の中で生まれつき名がなかったのはこの子のみ。ただ一人自分で付けた名を上書きされて、そう簡単に受け入れられる訳あるまい」
「っいえ、決してそのような」
なぜか先生が母上のフォローをしている。当事者の僕はどうしたらいいんだろう。
「名を返してもいいのだが……雫を保護してきた雨伯の手前、そう易々とは変えられない」
母上がしゅんとしたのが分かった。慰めてあげるべきだろうか。淼さまが、ただ……と話を続ける。
「まもなく泉も復活するだろう。そうすれば雫は、『一滴の雫』ではなくなる」
泉が復活する? そうか、 美蛇の兄がいなくなったから僕が奪われていた分の理力が戻ってくるのか。
「よって、通称名を『涙の雫』に改める。これで了承願えないか?」
「有り難うございます。御上のお心に感謝いたします」
「それと……そなたの長年の苦しみと協力に報いるべく、昇格させる。本日より華龍河
母上が更に目を大きく開いた。驚きで口も少し開いている。固まっている母上の腕をつかんで軽く揺する。
「母上、母上、おめでとうございます!」
「雫もだよ」
「え?」
「美蛇に奪われていた理力を戻す。本来の位である
今度は僕が固まる番だった。僕が
周りから良かったなとか、まぁ当然じゃなとか、何か言われている気がするけど、頭に入ってこない。
「二人とも任命書はあとで渡すから」
「これで水精は落ち着くかのぅ」
「恐らくは。この数ヵ月で対象者はほとんど粛清したので。地位の降格、名の剥奪、本体の差押さえ、合計百三十一件。これでおさまらなかったら……許さん」
ピシッと言う音がして茶器の中身が凍りついた。顔を上げると部屋に雪がちらついている。
「となると、火精の方がやばいな……」
焱さんがズルズルと背もたれからずり落ちてより深くソファに沈んだ。
「流没闘争で受けた無念や悲しみが癒えていない。火精が暴れだすぞ」
皆が一斉に
「やり場のない気持ちを弱い水精を襲うことで晴らそうとしていた。勿論そんなことをしても解決はしないが……こういう気持ちは理屈じゃねぇからな」
御上に相談しないと……と焱さんはぶつぶつ言っている。不安定な姿勢のまま茶器に手を伸ばすと凍った中身を炙って解凍してしまった。
「……焱さんは火精なの?」
「ほら! 言うタイミングがなくなったじゃねぇかよ!」
「十年も騙しておればのぉ」
「騙してはいないです!」
「我が子ながら純粋というか純水というか」
暗い話をしてたはずなのに皆急に元気になった。母上まで僕のことを残念そうな目で見ている。
「雫を守るのに協力を頼んだんだ。元同僚である太子にね。雫に近づくために強すぎる火の理力を押さえる必要があったから、『
『淡』という名前を聞いてもしっくり来ない。聞いたこともあるし、呼んでいた確かな記憶もあるんだけど。
「もう、『
「俺は結構気に入ってたけどな。まぁ、今度はこっちが忙しくなるから、水精ごっこは終わりだな」
「御上に相談してからにはなるが、俺は王館を離れることになるだろうな」
え。何で? やっと会えたのに。また一緒にごはん食べたり、出掛けたりしたいのに。
「火精は本当は水精を襲いたい。でも水精にはまず敵わない。だとするとその怒りが向くのは……」
「金精でございますね」
母上が口を挟んだ。
「金は水を生じさせますので、親しい金精も多くおります。定期的に往来があったのですが、最近は音沙汰がありません」
美蛇が追い返しているのかと思ったと母上は付け足した。
「……まずいな」
「申し訳ありません。自分と子らのことで精いっぱいで……」
「華龍どののせいではない、気にするな」
「思いの外、深刻じゃな。金理は把握しておるのか。……おっと、そうじゃ、その前に。御上に報告があったのじゃ」
「……あぁ、そういえばお勤めご苦労でした」
今更という感じで、淼さまが労いの言葉を述べた。そういえば、僕も先生が二ヶ月ぶりに戻ってきたという事実を忘れていた。
「全く……追加事項で
「どっかでサボってなければこんなに遅くな」
「おっと、報告でしたな」
先生が無理やり話を遮って前のめりになった。
「待て爺」
「渦の主は消滅を確認した。よって、わしが予定通り管理を引き継いだ。じゃが、それと同時に『
僕以外の全員がその場で凍りついた。
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