夜桜

 儚い想いと共に揺れていた薄桃色の懸想文は、日暮れと共に白く浮かび上がってその表情を変える。その白色は、例えるなら、暗闇の中で愛を迫る女の柔肌とよく似ていた。


 夜風に舞い、視界を覆い、夜が明けても瞼の裏で踊り狂い続ける。愛しいひとから決して離れまいと。愛しいひとを決して離すまいと。


 ただ彼の人の視界を病的なまでのその白色に染めんとする花は、間違いなく美しき執念の囚人で、狂気の成れの果てであった。




 ──暮れ方、満開の桜花は、愛と狂気の境界に在るのだという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る