第2話初めてのモンスター
――眠たし。ただ、ひたすらに。
5、6間はあるであろう、この街を取り囲む外壁から朝日が半ば顔を出す。
腹がすいては戦はできぬと言うが、こう眠たいと戦う気すら起きない。
昨日、このどことも分からない国で目覚めてからというものまともな食事も睡眠も取っていない。
ギルドとやらを後にし、休息をとる場所を探し、日が暮れるまで街中を徘徊していた。
どうやら、
そしてその宿屋に着いたは良いものの、宿泊するには金が必要だと店主は言った。当然金など一文も持っているはずもなく、仕方なく宿屋を後にし、狭い路地で体を丸めて就寝した。
しかし、硬い石畳の上で熟睡できるはずもなく、大して寝られず朝を迎えた。
「何故……何故儂ともあろう者が地べたで夜を明かさねばならんのだ……」
そんな事をブツブツと呟きながらギルドへ入る。
今のこの状況を打開するには、何としても"金"が必要だった。その為に、昨日教えて貰ったクエストをこなして少しでも稼ごうというわけだ。
「あら、ノブナガさんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
昨日、色々と教えてくれた女がにこやかな笑みを浮かべて言った。
「
いきなり叫んだので、女は体をビクッと跳ねさせた。
女は咄嗟に頭を下げた。
「すいませんっ! もしかして、お金をお持ちで無かったのですか? でしたらクエストをこなしてみてはいかがですか?」
女は早口で捲し立てクエストボードを指さした。
「もとよりそのつもりよ」
そう言い、眠さのせいか空腹のせいか、はたまたその両方かのせいで千鳥足になりながら女が指さしたクエストボードに辿り着き、そこに貼られた紙を一枚一枚念入りに確認する。
ふと一枚の紙が目に入った。
「すらいむの討伐? おい女!」
少し大きめの声で呼ぶと、女は呼んだのに気づき、小走りで向かってきた。
「はい、お呼びでしょうか?」
「うむ、このすらいむとやらは何者だ?」
女は少し驚いた様な表情をしたが、すぐさま先程までの笑顔に切り替わる。
「スライムと言うのはですね、小さいのでこれくらいのプルプルした生物ですよ。色んな色のスライムがいて、色んなものを体に取り込んで消化し、エネルギーにするんですよ」
そう言うと女は、「これくらいですね」と言いながら両手で丸を作った。
河原に落ちている大きめの石くらいの大きさだった。
「では、このクエストを頼む」
「はい、農場のスライムの討伐ですね。分かりました。では、こちらのカウンターへどうぞ」
そう言うと女は奥のカウンターと呼ばれる所へ歩いって行った。
女は懐に手を入れると、印章のようなものを取り出すと紙に押した。
「受注手続きが完了しました。クエスト受注期間は1週間となります、それを超過してしまうと強制的に受注が取り消されますので予めご了承下さい」
そう言うと女は一枚の紙をこちらへ差し出した。
見てみると、ここから農場までの地図だった。
「そう言えばノブナガさんお金無いんですよね? 武具は持ってたりしないですよね?」
「うむ、武具は持っていない」
すると女はカウンターの奥に歩いて行き、少しすると、ガチャガチャと音を立てながら戻ってきた。
そこには数種類の武器があった。
刀のようなものに、槍、棘の付いた篭手のようなもの。
「ギルドでは武具を持っていない冒険者に無料で貸出しています。この中からお好きなものを一つお取りください」
女は抱えていた武器を並べて言った。
一目見た時から刀のようなものに決めていた。
それを手に取り、鞘から抜いてみる。
刀とは違い、刀身は流線型ではなく、真っ直ぐで、両刃になっていた。
それを腰に差し、地図を見ながらギルドを後にした。
街中を抜け、街を取り囲む外壁の下の門を抜け、野原をひたすら歩くと目的の農園に到着した。
そこには農園の持ち主であろう中年程の男がいた。
こちらを見つけると、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「もしかして、冒険者の方ですか?」
「如何にも」
「よかった。ようやく来てくれたんですね。上がっていってください、スライムが来るにはまだ少し時間がある。昼食でも一緒にどうですか?」
昼食、その単語を聞くだけで口の中が涎で溢れそうになる。
言葉に甘え、家へと上がる。
家の中には尾張やそこらの城や屋敷では見た事の無い家具ばかりだった。
見慣れない家具達を見渡していると、農場の主の男は皿に三角形の白く、間に野菜が挟まった物を持ってきた。
「何だ? それは、食べ物か?」
「おや? サンドイッチをご存知でないのですか。まぁ、美味しいので食べてみてください」
そう言うと男は皿をこちらに差し出した。
一切れ手に取り、口へ運ぶ。
「ふむ、中々美味いではないか」
今まで何も食べてなかった胃袋に食べ物が入り、体中に栄養が行き渡るのを感じる。
ペロリとサンドイッチを平らげ、ゆっくりしていると、男は窓の外を指さした。
「あっ、来ましたよ、スライム」
窓の外を見ると、見るからに柔らかそうな外見の丸い生き物がいた。
ただ、ギルドで女が教えてくれた大きさとは似ても似つかず、その10倍――いや、20倍はあるであろう大きさだった。
しかし、金のためには大きさはさして問題では無かった。
立て掛ていた剣を手に取り外へ駆け出す。
「その首、この信長が頂戴する!」
そう言い抜刀し、スライムに斬り掛かる。
すると、人間の首を落とすのとは違い、謎の弾力を剣越しに感じ、弾き返される。
何度斬り掛かっても無情に弾き返されるだけであった。
「チッ、これでは埒が明かない」
ただひたすらに考えた。コイツの息の根を確実に止める方法を――
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