第8話

「おはよう。モニ。」


 「……おにいちゃん、だれ?」


 彼女と相思相愛になってから一ヶ月。


 初めて一緒に寝た次の日から、彼女は俺のことを忘れてる。


 いや、俺だけじゃない。どうやら、子供の頃から今までの記憶がすべて飛んでいるようだ。


 「お兄ちゃんはね。端溜翔太っていうんだ。ショーって呼んでね。」


 「ショー…、じゃあ、ショーちゃんだね!」


 「……うん。ショーちゃんだよ。」


 この自己紹介も毎朝している。


 そして、ショーと呼び捨てにされることはもう無い。


 「お母様はどこ?カジのおいちゃんは?」


 「……お母さんとカジおじちゃんはね、モニの病気を治すため、薬を探しに行ってるんだ」


 「モニ、病気なの?」


 「……うん、ちょっと体が動きにくいだろ?でも、大丈夫。お母さんとカジおじちゃんがいい薬を見つけてくれるから。」


 「じゃあ、大丈夫だね!お母様とカジおいちゃんはすっごい強いんだから。なんでもできるの!」


 「…うん。だから、その間、モニちゃんのことはショーちゃんがするからね。モニちゃんのためなら、お兄ちゃんなんでもしちゃうよ。」


 「ほんと!?うわ~~~~~~、モニお姫様になったみたい!!」


 「モニちゃんはお姫様より綺麗だよ。」


 「ほんと~~~~~!? うへへへへ~~~~~そうかな~~~~~、ほんと~~~~~?」


 「本当さ。モニちゃんより可愛い女の子なんて見たことないよ。」


 「ほんと~~~~~?ほんとにほんと~~~~?えへへへへ~~~お兄ちゃんもかっこいいよ。」


 「ありがとう。モニちゃん。そうだ。お友達を紹介するよ。ほら、メリィっていうんだよ。」


 「ギュシッwwww!ギュシッwwwww!ギュシシッ!」


 「うわ~~~~~!かわいい~~~!あたしモニっていうの!よろしくね!メリィちゃん!」


 「ギュシッ!!」


 どうやら36回目の自己紹介はうまくいったみたい。


 メリィも大分慣れたようで、ツボを心得ている。


 「そうだ、モニちゃん。おなかすいてない?鶏肉とか魚とかあるよ。」


 「お腹…ん~~~~~、あんまり空いてない……」


 「そう………、じゃあ、ジュース飲まない?アルゴジュースだよ?」


 「アルゴ?アルゴの実?あたしアルゴの実、好き!ジュースあるの!?」


 「あるよ~。すっごい美味しいんだよ。」


 「飲む!!飲みたい!!」


 「よ~~し、すぐ用意するから、メリィと遊んで待っててね。」


 「うん!待ってる!!」


 俺は、いつも通りアルゴの実を絞ってジュースにする。少しだけ岩塩を入れて塩を摂取できるようにする。


 メリィがモニの目の前でわけの分からない踊りをしている。モニは楽しそうだ。


 「ほら、アルゴジュースだよ~~~~。全部飲めるかな~~~~」


 「飲めるよ!!だってあたしアルゴ大好きだもん!!」


 「ゴクゴクゴクッ…」


 「ッぷはーーーーーー、美味し~~~~!」


 「良かった良かった。もっといる?」


 「うん!飲む!!」


 俺は姫様のご要望に答え二杯目のアルゴジュースを作る。


実ははちみつの様な物を手に入れている。とは言え虫の蜂がいたわけじゃない。雀よりも小さな鳥がいたんだ。この鳥はどうやら、花から蜜を集めて、雛鳥に与える習性があるようだ。


ただ、雛鳥が巣立った後もこの習性は続く。そして無精卵を産むのだが、この卵の中身がとても甘い。卵を割ると、白身の部分しかなく、黄身がない。この白身はどろっとしており、水に溶けないのだが、お湯の中では溶ける。


一度お湯に溶かし、甘い水を作った上で、アルゴの果汁を付け足す。ここに、岩塩を少々加えていくと、アルゴの味を損なわないままポカリス◯ットとかアクエ◯アス風の味になる。


これは、モニ姫様の大好物となっている。鳥の卵を集めるのは大変だが、モニが寝静まった後、必ず探し出す。


どんなに危険でも、一晩中かかっても探し出す。


モニが起きているときは、なるべくそばを離れないようにしている。俺が心配ということもあるし、俺がいなくなると泣き出すからだ。もとより、彼女に心細い思いをさせるつもりは毛頭ないが。


だからだろうか、最近、この卵を探すときにメリィもついてきてくれる。この島のことに関してはメリィが一番詳しい。それは、昼でも夜でも変わらないようだ。ある日、モニが目覚めるギリギリ前に、泥だらけの姿でこの卵を持って現れた次の日から付き合ってくれるようになった。


 「ゴクッゴクッゴクッ………ッフ~~~~~~!」


 「ショーちゃん、これ美味しいねぇ。こんなアルゴジュース飲んだことない!」


 「そうだろう?これはショーちゃん特性アルゴジュースなんだから!」


 「ギュシッ!ギュシッ!」


 「すまんすまん。メリィも手伝ってくれたな。」


 「二人が作ってくれたの?あたしのために?」


 「そうだよ。モニちゃんだけのために作ったんだ。お姫様でも飲んだことないんだぞ?」


 「うわ~~~~~~!すごい!あたしすごい!!」


 「ハハッ、そうだろうそうだろう。」


 俺は、ナイフ削りを始める。


今はもう、手で全て作れる。手で作ることで色々な事ができることがわかった。例えば、研磨とか、曲げるとかの加工が出来る様になった。


土の属性魔法を使ってると言っていたモニの意味が今更だけど、わかってきた。土の属性魔法は、腕の中心に魔力を通すことで発現する。


ただ、発現すると言っても手元に土が出現するわけじゃない。だから気づくのが遅れてしまった。この土の属性魔法、いや、土の属性魔力といったほうがいいのだろうか、この魔力を手から放出した後すぐに、石とか、土とかに溶け込ませる。そうすると、その溶け込んだ部分にまで自分の感覚が広がっていくのがわかる。


手が伸びる感覚…かな。


この感覚内にある石は、粘土みたいに柔らかくなり、曲げたり、ツルツルにしたり、石の元素の一部を集めたり、そんなことが出来るまでになった。


そして、これは莫大な魔力が必要だった。元々あるナイフの刃先に魔力を集中して、石から新しいナイフを削り出す訓練は一日10本作っても魔力切れは起こさなかったが、これは一本作るだけで3日かかる。


まぁ、単純に作るだけじゃなくて、綺麗で美しいナイフを作ろうとしてるからと言うのもあるが。


昔、インターネットでナイフを調べていた時期がある。中学二年生のときだ。何故かそのときはそれがすごくかっこいいと思っていた。不思議だ……。


その中に、ダマスカス鋼というもので作られたナイフがあった。美術品とかに興味のない俺でも、かなり綺麗で…、出来ればそのナイフを作りたい。


もちろんこれは石だから、本物にはなりえない。ただ、模様だけでも似せられれば、と。そこら辺の石には、灰色の部分と白っぽい部分がある。この二つの色を移動させて集める。そうして白と灰色の縞模様があるナイフが出来上がる。


そして、表面をものすごく滑らかにするとなかなか見れるナイフになる。もちろん、これが魔力操作と増加の訓練に効く気がしたからでもある。


 「うわ~~~~~~、すごい綺麗!! そんなの見たことない!!」


 「そう?じゃあ、モニちゃんの分も作ってあげようか?」


 「ほんと!?いいの?」


 「もちろんさ。モニちゃんはどんなナイフがいい?」


 「ん~~~とね、ん~~~~とね、え~~~~っと、えと、可愛いの!可愛いのがいい!!」


 おっと、これまた難しいお題を頂戴してしまった。


 そもそもナイフとは、男用の武器だ。可愛いナイフのイメージが沸かない。


 「ん。わかった。少し待っててね。可愛いのを作るから。」


 「ほんと~~!!? すっごい楽しみ!」


 「楽しみにしててよ。」


 「メリィちゃん!あたしの作ってくれるんだって!!」


 「ギュシッ!ギュシッ!ギュッシッシ!」


 メリィとの遊びに戻ったモニを横目に、どうしようかと考える。


 当然、諦める選択肢はない。


最高に可愛いナイフをプレゼントしよう。


とはいっても石じゃな…。どうするか……。


いや、待てよ?そういえば、魚をとるときにそこらにあった石で罠を作ったときに、金らしきものがあったな。


砂金じゃん!って思ったけど、特に使い道もないし、何より少なかった。まぁ、いいかってことで無視してたが、あれを装飾品として使ったらどうだろう。


今日の夜モニを寝かしつけたら行こう。ナイフ自体は、小型の首から下げられる程度のものを作ろう。穴を開けて糸を通せばいつでも身に着けられる。取り敢えずナイフの部分だけでも作っておこう。


たしか…昔の人が髪を整えるようのナイフがあったと思う。持ち手が長く刃の部分は短い。持ち手に金で装飾を入ればいい。ナガルス族だから…羽をイメージした物がいいかな。あれ・・・結構難しいな、加工が難しいというよりも、そもそも彫刻の才能がないような気がする…。


いや、諦めるなゆっくりやっていこう。


 気づいたら、日も暮れ始めていた。


 俺は、アルゴのジュースを用意し、モニに飲ませる。


 「じゃあ、次はお風呂はいろっか。」


 「うん!あたしお風呂好き~~~~!」


 以前、モニは風呂に入ったことがないといっていた。それでも、風呂を覚えているということはそれだけ好きになったんだろう。俺を忘れてしまったのは悲しいが、子供の頃の記憶と同じくらい楽しい記憶が作れてよかった。辛いことばかりじゃなかったんだ。


 俺はいつもの様に風呂を作る。俺の姿がなくなると、怖がって泣くから、無駄に声を出して作業をしている。声が聞ければ安心してくれるから。


 「いよ~~~~、今日の水は調子がいいな!!」


 「こ、こりゃ、すげぇ!!オラとんでもない風呂作っちまった!」


 「エキセントリックスーパーファイヤーボール!!」


 「オシッコしたくなっちゃった!ちょっとくらい混ぜてもバレないかな~~~!!」


 「ちょっと~~~、ショーちゃん汚~~~いwwwww」


 「うそうそ!うそだよ~~~~!」


 「ホント~~~~!?」


 「ホントホント!ショーちゃん嘘つかないよ!!」


 「ん~~~~~じゃあ、許したげる!!」


 「お、モニちゃん。お風呂の用意ができたよ。」


 「ん!早く入ろ!!」


 いつもと同じように、彼女をマッサージしながら体を洗い、髪の毛を洗ってやる。そしていつも通り、口をパクパクさせている。気持ちいいんだろうな。


 そして体を拭いた後、ベッドに寝かせた。


 「ねぇねぇ、なんかお話して~~~~!」


 「ん~~~~、そうだな~~~どんなお話がいい?」


 「ん~~~とね、え~~~と、お姫様!お姫様のお話がいい!!」


 「ん。わかった。昔々あるところに、白雪姫というお姫様がいました……」


 最近は、寝る前にお話をねだられることがある。モニはお姫様の話が大好きみたいで、白雪姫、シンデレラ、あとは亜流でもの◯け姫、ここらが鉄板だった。やっぱ、ディ◯ニーとジ◯リはすげーわ、助かりました。


 ん?あれ、もう寝てる。王子様のキスに行く前に寝てしまったか。…眠りから覚めるところで眠りに入るとは、魔がいいんだか悪いんだか…。


 「メリィ、モニのために川の上流にある砂金を集めたいんだ。手伝ってくれるか?」


 「ギュシッ!!」


 メリィを連れ立って、川を登っていく。結構暗いな…。


 メリィも魔法が使えるのか、夜道を明るく照らしてくれる。メリィ自身が光っていたが。明るくと言っても、蛍の光程度なので気をつける必要はあるが、真っ暗闇と比べたら大分マシだ。


 確かここら辺だったかな…。


 「ギュシッ!ギュシッ!」


 ん?川のある位置でメリィが旋回している?


 あそこか。お、結構浅いな、大丈夫か…。手のひらも…なんとか川底に触れる。浅くてよかった。

 

 土の魔力を川底にできるだけ流して…、なるべく深いところまで調べて…。


 ………あった!!明らかに石とは違う、すごく少ない物があった。


 ゆっくり、ゆっくりと集めて、手のひらに集まったものは…、直径2~3ミリの粒みたいな金だ!成功だ!良かった。取り敢えず間違ってなくて良かった!……もう少し欲しいな。


 「ありがとう。メリィ、この調子だ。他にもあるか?」


 「ギュシッ!!ギュシッ!!」


 これを何回か繰り返せば、もう少し集まるだろ。


 落ち着いて確実にやってこう。時間はないけど、大量に必要ってわけじゃない。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 「メリィ!もう大丈夫だ!帰ろう!!」


 「ギュシッ!!!」


 帰り道もメリィに道を照らしてもらう。いや、便利だ。


 モニはぐっすりと寝ていた。


穏やかな顔をしている。


まるで子供のようだ。


 もう俺のことを忘れてしまっても、メリィのことを忘れてしまっても、あんなに苦しむのだったら今の方がいい。


きっとモニだって幸せだ。


…幸せだ。


でも、でもさ。


 「ッグ……ウゥッ……ウ………グゥッ………」


 でも、どう仕様もなく涙が出てくる。


何でだ。


 モニがなんで…なんでこんな…、誰が…。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 「おはよう。モニ。」


 「……おにいちゃん、………だれ?」


 …。


 「お兄ちゃんはね。端溜翔太っていうんだ。ショーって呼んでね。」


 「ショー………、じゃあ、ショーちゃん…………」


 「……うん。ショーちゃんだよ………」


 …。


 「………お母様は…………?」


 「……お母さんはね、モニの病気を治すため、薬を探しに行ってるんだ」


 「お母様に会いたい………」


 「……大丈夫だよ。お母様は強いんだ。だから……モニちゃんがいい子に待ってれば…明日になったら帰ってくるんだよ。」


 「ホント……?じゃあ、モニ…待ってる……」


 「…うん。だから、モニちゃんのことはショーちゃんがするからね。モニちゃんのためなら、お兄ちゃんなんでもしちゃうよ。」


 「ほんと……?モニ……お姫様みたい…」


 「モニちゃんはお姫様より綺麗だよ。」


 「ほんと……?……モニ綺麗なの……?」


 「本当さ。モニちゃんより可愛い女の子なんて見たことないよ。」


 「お母様も…すごくきれいなんだよ……」


 「……モニちゃんの方がずっと綺麗だよ…。そうだ!お友達を紹介するよ!ほら、メリィっていうんだよ!」


 「ギュシッwwww!ギュシッwwwww!ギュシシッ!」


 「………メリィちゃん…あたしモニ……よろしくね……」


 「ギュシッ!!」


 今日のモニは少し元気が無いようだ。なんとなく、眠そうな感じがする。でも、体調が悪いわけじゃない。ただ眠そうなだけだ。大丈夫。まだ、大丈夫だ。


 でも、急がなければ。


 彼女にアルゴジュースを飲ませた後、早速ナイフ制作に取り掛かった。


 翼をモチーフにした持ち手、そして、刃の部分に金を埋め込む予定だ。


金の形はやっぱり羽がいい。モニにぴったりだと思ったから。


石で大分慣れたからだろうか。金の加工は結構すんなりいくな。


小さいから加工は難しいと思ったが、金の内側に魔力を通し、更に外側を魔力で覆うと手で触らなくても頭でイメージするだけで加工できた。外側で覆う魔力を羽のイメージに型どる感じだ。十分な精度で金を加工できたと思う。


今度は、ナイフの刃の部分に羽の形をした窪みを作る。そこに金を埋め込む。埋め込んだ後に、ナイフ全体に魔力を流し、金と石をくっつける。接触部分を少しだけ混ぜるイメージだ。思った通り、しっかりと固定された。後はナイフの表面をきれいに仕上げていく。もちろん全体はダマスカス鋼風だ。……結構綺麗にできたんじゃないだろうか。


 「ほらッ!モニちゃん見て見て~~~~!」


 「!…………きれい………」


 「こうして、糸を通せば、モニちゃんにぴったりだよ。」


 「……あたしに…くれるの………?」

 

 「もちろんだよ~~~~~!!」


 「モニちゃんのためだけに作った、モニちゃんだけのナイフだよ!!」


 「………きれい………これ…あたしの………?」


 「そうだよ~~~~。ほら、モニちゃんの名前入りだよ。」


 「じゃあ……ショーちゃんの名前も…いれて…?」


 「ショーちゃんの名前入れるの?」


 「うん……すごいものを作ったときは……自分の名前を入れるって…お母様言ってた…」


 「そう…、わかった!じゃあ、隅っこの方に入れておくね!」


 「ううん………あたしの名前の…隣に入れて…」


 「……うん……わかったよ。モニちゃんがそれでいいなら……」


 「うん……」


 俺は少し悩んだ後、「シャモーニ・ル・アマースト」の隣に「翔」と入れた。


 俺の字、羽って文字が入ってんだな。そうか…羽が入ってたのか…。


 俺のナイフを首に下げてから、少しだけ気分が良さそうに見える。


 彼女の頭をなで続けながら話し続ける。


 「よかったね~~~~。どう?モニちゃん。他にやりたいことない?」


 「んーー……なんでもいいの……?」


 「ああ!なんだっていいさ!ショーちゃんなんでもしちゃうよ!」


 「じゃあ……モニ……お嫁さんになりたい……」


 「お嫁さん?」


 「うん……お嫁さん……お姫様みたいだから……」


 「………そっか。モニちゃんはお姫様大好きだもんね。」


 「……うん」


 「よし!じゃあ、ショーちゃんと結婚しよう!そうすれば今日からモニちゃんはお嫁さんだ!」


 「ほんと……?モニ………お嫁さん…………?」


 「そうさ。今日からモニちゃんはお嫁さんだ。」


 「ショーちゃん…モニの旦那様………?」


 「そうだよ。モニちゃんは……嫌かな…?」


 「ううん……ショーちゃんと……結婚できて嬉しい…」


 「……俺も、うれしいよ……」


 「じゃあ………これ………あげる……」


 「………これ、ペンダント?」


 「……うん………お母様が………結婚する人に……渡しなさいって……」


 「………いいの?……大事な物…なんだよね。」


 「……うん…ショーちゃんあたしの……旦那様だから……」


 「……ありがとう……」


 今日は疲れたのか、モニはねてしまった。


 だんだん起きてる時間が少なくなってくる。


 このペンダントどうしよう。……騙して貰ったようなもんだ。

 

 明日になったらモニは忘れている。だから、今のうちにこっそり返そう。返さなきゃいけない物だ。


 ……でも、明日の朝まで付けていよう。明日の朝、モニが目覚める前に返せばいい。


 それまでは、付けていよう。それまでだから。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 ん?あれ、眠ってた?どれくらい…太陽が中頃まで…。


 しまった!寝過ごしてしまった。いつもモニが起きる前には起きてるのに。なんで今日に限って……。


 横を向くと、モニと目があった。バッチリ起きていた。


 どうしよう……。ペンダント落ちてたんだよ~~~。拾っといたんだけど、ころんだ拍子に首に掛かっちゃってさ~~~。よし、これで行こう。大丈夫、今のモニは子供だ。騙し通。


 「おはよう。ショーちゃん」


 「……………俺のことがわかるの?」


 「うん………あたしの旦那様……」


 「…………………おはよう。モニちゃん。俺のお嫁さん。」


 「うん……………、あたしたち…………結婚したんだもんね……………」


 「ああ………………結婚したんだ」



 「あたしね…………頑張ったの…ずっと頑張ったの…」


 「うん。頑張ってたねモニは。」


 「でもね……お母様は、もっと頑張りなさいって……ナガルス族のために……」


 「強くなりなさいって………あなたがみんなを守ってあげるのよって……」


 「…………」


 「お母様はね………あたしにあんまり会ってくれないの……忙しいから………」


 「お母様に会えないのは……寂しいけど……、ナガルスのみんなのために尽くしてるから…しょうが無いの……」


 「お母様はなんて名前の人なの?」


 「お母様の名前は……、ナガルス・ル・アマースト……あたしの…お母様…」


 種族の名前が本人の名前になってる……。王様ってことか。いや、女王様か。


 「あたしは…いつもお母様が心配……、いつも辛そう…」


 「辛そう?」


 「うん……お母様……あたしに会うとき…辛そうな顔してる……あたしのこと…キライなのかな……」


 「そんなことない!そんなことないよモニ!きっと忙しいからいつも疲れていたんだよ。それでもモニに逢いたくて、疲れてたけど、会いに来てたんだよ」


 「そっか………お母様………疲れてたんだ……」


 「じゃあ………次からは………お母様の仕事……手伝ってあげなきゃ……」


 「そうすれば……もっと……お母様と一緒に……いれるよね……」


 「ああ……そのためには………元気に、ならなきゃな……」


 「うん………」


 「アルゴジュースのむか?いっぱい食べていっぱい飲まないとな!!」


 「うん………」


 俺はアルゴジュースを準備する。今日も絶好調な手際だ。寸分の狂いもなくアルゴジュースを作り上げた。


 「コク………コク………コク………」


 「美味しい…………」


 「そうだ!御飯食べるか?美味し~~鶏肉があるぞ~~~~」


 「ううん……モニ……お腹いっぱい……」


 「……そうか、じゃあ、お風呂はどうだ?さっぱりするぞ~~~」


 「うん…モニ…お風呂はいる」


 素早くモニの風呂の準備をしないと。今となっては、10分も掛からずに準備ができるし、大丈夫、問題ない。まぁ、ほとんど水汲むだけだからな。大して時間はかからないか。


 ファイヤボールを幾つか投げ入れて、程よい温度になって、…よし、モニを連れていこう。モニはもう…俺の姿が見えなくなっても、泣かない。もう、その元気すら…。


 ゆっくりと、丁寧に、モニを運ぶ。モニの体に決して傷がつかないようゆっくりと。


 お風呂にゆっくりと浸す。頭には枕代わりの布を置く。後頭部の半分以上が石化してしまっている。ここは絶対に傷つけてはならない。


 「どうだ?熱くないか?」


 「うん………気持ちいい……あたしお風呂好き……」


 「そうか!良かった!今日はモニのために特別性の風呂にしたからな」


 「そうなの……?」


 「そうさ。ほら、アルゴの実が沢山浮いているんだ。わかるか。」


 「うん……、沢山浮いてる……」


 「こうするとだ。アルゴの実の匂いが一杯するだろ?」


 「うん……アルゴの実に入ってるみたい……」


 「ふふッ、そうだろそうだろ。モニが風呂から上がるときには、モニからアルゴの良~~~い香りがするんだよ」


 「ほんと…モニ、アルゴ好き……」


 「そうだろ?モニがアルゴ好きだと思ってさ……」


 「すごい……なんで……モニの好きなもの……わかるの…」


 「………それは………ショーちゃんはモニの旦那様だからね。なんでも知ってるさ」


 「すごい……ショーちゃん……大好き…」


 「…………俺も、大好きだよ。」


 体と髪を洗いながら、他愛もない会話をするのが好きだ。これがすごい好きだ。


 モニはゆっくりと口をパクパクし始めた。きっと気持ちいいんだろうな……。


 ゆっくりとした会話を続けつつ、その日は体がふやけるんじゃないかってくらい長湯した。


 そして、いつも通り、モニに服を着せて、ベッドに寝かせた。


 さっぱりとした顔をしている。やっぱり女の子はお風呂が好きなんだな。


 「ねぇ…お話して…」


 「いいよ~~、今日はなんのお話がいい?」


 「……お姫様のお話がいい」


 「よし!お姫様の話だな!シンデレラ、ん~~~、人魚姫なんてどうかな?」


 「……今日は、ショーちゃんが作ったお話が聞きたい。」


 「俺?俺が作った話?…た、多分つまんないよ?人魚姫は面白いよー。世界中の人が感動したお話だよ?」


 「ううん……ショーちゃんのお話がいい……」


 「頭……イイコイイコして……お話して……」


 「……じゃあ、俺の作った、お姫様のお話…」


 「昔々あるところに……


 昔々あるところにお姫様がいました。


 そのお姫様はとてもお転婆でした。王様も王女様も、騎士も、国民のみんなもお姫様は元気すぎて困る!と言っていました。


 でも、そのお姫様はみんなに好かれていました。


 お姫様もみんなのことが大好きでした。とっても、大好きでした。


 ある時、悪い奴らがその国に攻めてきました。


 王様は立ち上がりました。皆の敵を打ち倒すために。


 王女様は祈りました。皆が傷つかないように。


 騎士は戦いました。皆の命を守るために。


 皆は戦いました。皆を守るために。


 でも、敵は強大でした。とっても強かったのです。


 だから、王様も、王女様も、騎士も、皆も、お姫様を逃しました。敵のいない遠いところへ。


 なぜなら皆、お姫様のことが大好きだったからです。


 傷だらけで逃げたお姫様は、逃げた先で一人の男と出会いました。


 その男は、未熟で、頼りなく、そして死にかけているただの少年でした。


 姫様は哀れに思い、沢山あるお金を使って一つのパンと、一杯の水を施しました。


 そして、その少年は言いました。


 「僕が、君を守ってあげる。」


 お姫様は喜びました。逃げる途中で、お姫様を助けてくれる人は誰もいなかったからです。


 お姫様と少年は共に国に帰りました。


 強大な敵は更に強大になっていました。


 少年とお姫様はともに強大な敵と戦いました。


 お姫様は敵を攻撃しました。


 少年はお姫様を守りました。


 敵の右腕を討ち滅ぼしました。少年の右腕は失われてしまいました。


 敵の左腕を討ち滅ぼしました。少年の左腕は失われてしまいました。


 敵の右足を討ち滅ぼしました。少年の右足は失われてしまいました。


 敵の左足を討ち滅ぼしました。少年の左足は失われてしまいました。


 少年は言いました。


 「さぁ、敵にとどめを刺してください。今がチャンスです。」


 お姫様は言いました。


 「でも、そうしたら貴方が、死んでしまう」


 「いいのです。私は貴女に救われました。貴女を救うために、私の命が必要なら、こんな幸せなことはありません。」


 「なぜ。なぜ、そこまでしてくださるのです。」


 「あなたは、一個のパンと、一杯の水をくださいました。」


 たしかに、あげました。初めてあったとき。あまりにもひもじそうにしていたからです。


 でも、お姫様はお金持ちでした。お金もいっぱい持っていたし、ご飯も沢山買うことが出来ました。


 お姫様からすれば、それは大したことのない施しでした。


 「そんな、そんなことで、あなたが命をかける必要はありません。」


 「いえ、違います。お姫様。最初にあなたが施して下さったのです。あなたが、初めに与えてくださいました。お金も、力も、何も持っていない私に、与えて下さったのです。それが、貴女にとってどんなに些細な物でも。何の見返りもなく与えて下さったのです。」


 「だから、どうぞ、敵の心臓を討ち取って下さい。」


 そして、そして、お姫様は敵の心臓を取り、見事討滅したのです。


 そして、少年は、少年は………「スーーーーーーー、スーーーーー」」


「もう寝ちゃったか……」


 少年はどうなったのだろう。いや、少年はどうしたいのだろう…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る