第3話
目をつぶっているから、寝ている…のか?
微かに胸が上下しているし、死んでない…よな?
全身泥まみれじゃん。それに、泥と、これは、血の跡…か?
この人に血の跡が続いてる…のか?
力尽きたのか、安心したのか解らないがここまで這ってきて眠ったってことか。
顔も髪も泥と血で塗れてるから性別すらわからない。
男?女…か?胸の膨らみがあるから女か。
俺と同年代ぐらいだろうか。近所に女子大生のお姉さんがいたが、あんなふうに体が発達してる感じじゃない。でも、同級生でも結構発達してる子いたな…、じゃあ、年下か?わからん…。
かなりほっそりとしている。いや、これは栄養がないのか?やつれてるって感じか?
どうしよう…。
正直ここがどこかとか、あんたは誰なのかとか聞きたい。
でもかなり疲れてるように見えるし、そんな人を起こすのは申し訳ない。
子パンダはその人の腹の↑に陣取って眠り始めている。
「グシュッピーーーー、シーーーーーー、グシュッピーーーー、シーーーーー」
うるせぇイビキだな…。っていうかどういうイビキなんだよそれ。そんなんしたら起きちゃうだろうが。休ませてやれよ。
「ん・・・・・うん・・・・?」
あ…。ほら。起きちゃったじゃんよ。
「…ンカッ!アッ!ハァッハァッ!」
…あれ?
何か様子がおかしい?
起きたんじゃないのか?
「アガッ!ア”ーーーーーー!ア”ア” ーーーーーーーーーー!!!!」
うお!え?どうしたのどうしたの?!
苦しんでる!のか?!
やばい、どうしよう?!
いや、とにかく起こそう!
「ちょっと!大丈夫!?しっかりしろ!落ち着けって!」
馬乗りになり、肩を押さえつけながら、俺も大声で叫んだ。
「ア”…ッアッハ?ハァッハァッ…?ハッ……ハッ?…?……」
どうやらこちらに気付いたようだ。呆然とした顔をしている。…ように見える。
泥まみれで表情の変化がよくわからない。
「あんた大丈夫か?どうしてこんな怪我してるんだ?ここから脱出する方法」
「アガーーーーーー!!!ウガア!!!◯✕▲※!✕▲※▲※◯◯!▲※◯!※◯!」
いきなり全力で暴れてきた。
まぁ、そりゃそうか。
目が冷めたら見知らぬ男に馬乗りにされてたんだ。
ビビるなっていうほうがおかしい。わかるわかるぅ。
…でもさ、そんな手足が凶器な状態で暴れられたら危ないじゃん。ほら俺馬乗りになってたじゃん?暴れられたら石が当たるじゃん。痛いじゃん。股間が。
痛いじゃん股間がぁ…。
股間ぶっ叩かれたときは、うずくまるといいよ。多少痛みが和らぐ気がする。これはとんでもない発見ではないだろうか。人類に貢献できる気がする。人類の平和に…。
だから神様助けてくださいぃぃ…。
相手は何か叫んでる気がする。
…もちろん謝ってんだろうな?あ?キレちまうよ?流石に俺でもよぉぉぉぁぁぁあああ神様ぁ…助けてくださいぃ…。
「×*※◯■◇、+⊕∥\\@、◇■◯⚫~~~▲△!……!?‥!?×*※◯■◇!+⊕∥\\@!◇■◯⚫~~~▲△!!!!」
俺はもうお前を憎しみを込めて睨むことしか出来ないんだよ。
例え涙を流していても鼻水垂らしていても顎がカスタネットみたいに震えてても俺は諦めないよ。
「…ッヒーーーーwwwwッヒーーーーーwwww…」
この世のムカつく人間全ての脳みそを抽出してできた糞ゴミパンダが声を殺して笑っていやがる。
あの女の後ろで俺を指差しながら。
「※︙**➕⚫⚫◯!……!?※︙**➕⚫⚫◯!※︙**➕⚫⚫◯!※︙**➕⚫⚫◯!…ングアッ!!」
なんか俺の方に手のひらを向けながら何かを叫んでる。
あ、上手くいってねぇな。ありゃ。
そんなイライラしてんじゃねぇよ、バカバーカ。お、木に手を叩きつけてる。ざまぁw。
何か、色々言葉を変えて叫んでる。でも全然上手くいってないんだな。あれは。天罰じゃなかろうか。
常に俺に手のひらを向けているのは気になるが。
よし、よし。だんだん痛みが取れてきた。落ち着いてきた。
神様ぁありがとうございますぅ信じておりましたぁ。
痛みに耐えている間、あいつがずっと慌てたからかな、俺は冷静になった気がする。
向こうは大分パニックになってるな…。
途中までは何かしら意味のある言葉を叫んでいたように聞こえたけど、途中からはもう全く意味がわからない。不規則な言葉の羅列って感じ?
いや、すごく短い単語を繰り返してるのか…?もう掌をこちらに向けてすらいない。
ただ俺に向かって叫んでいるだけだ。
おぉん?
来いよぉオラァ。
ほらほらどうしましたぁ?俺が憎いだろうムカつくだろう?…残念!届きませぇん!あなた動けませんからぁ!!バァ~ッカ!…よし。こういう感じで煽っていこう。まだ動けないけど動けた時にすることは決めておこう。…それしか出来ないんだけども。
あの表情と合わせて考えるに、俺のことを罵倒してるんだろう。
けど、言葉が全くわかりませんからぁ!意味ないでーす!!
…しっかしいてぇな…。
いや、大分治まってきたけど、だんだんムカついてきたんですけど。
こっちが親切で、起こしてやったのにさぁ、いくらなんでもひどくない?
いくら初対面だってさぁ、もうちょっとやりようってもんが有るじゃん
ん?声が聞こえなくなった?
いや、疲れたのか?飽きたのか?
まぁ、いい。一旦落ち着いたと見ていいだろう。
ただ、こちらをずっと睨んでいるのは気になるが。いや、気に触るが。
…つまり、逆転のチャンスということだよな。
ほら見ろ!お前と違って俺はこんな風に立って歩けるんだぞぉん?
圧倒的上位者に対して無礼じゃないのん?ほらぁ、顔に落書きしちゃうよぉ?
ドッ…
泥まみれの女は後ろに下がろうとして木の幹にぶつかっている。
逃げられないと思ったのだろうか。手を後ろに振りかぶったまま構えてる。
手先の石になっている部分を武器として使おうってことか…?
心配ない、俺は味方だよ…というのが由緒正しき主人公だがそんなの関係ぇねぇ。
こっちは親切でやってやったってのにこの仕打ち。一言二言文句を言っても文句はあるまい。そして下手しても殺されることはなさそうな感じだ…たぶん。とりあえず最低限の身の安全は確保されてるし…、ちょっと一発ガツンと…ね!
「おい!」
ビクッ
「いきなり何すんだよ!いくらなんでも失礼じゃないか?」
「ウ…ウグッ…」
「言葉が通じんからどーせわかんないだろうがよ!こっちはお前を助けてやろうとしたんだぞ!?」
「グ…グゥ……ゥゥ…」
「ほら!なんか言えよ!原始人じゃないんだからさぁ!」
「ウ…ウフッ フゥッフゥッゥゥゥワアアアン!ア"ア"ア"ア"ア"ン!!"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ズビッ!ズビッ!ハーー!ハーー!…ヒュー…ア"ア"ア"ア"ン!!ワア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ン!」
「え?お…ちょ…ちょっと…いきなりガチ泣きとか…おい…そりゃ…え?」
え?ちょっとちょっと!いきなり泣くのはひどいでしょ!
ちょっと助けてよ!パンダちゃん!!
「ウワーーーー……………」
…ドン引きしてるね。うん。
…両手で口を隠すリアクションがたまらなくムカつく。
お、おめぇだってさっきまで大爆笑してたろぉ?!
思わずゴミクズを殴ろうと拳を握りしめたら、自分が殴られると思ったのか泣き声が一層大きくなりました。はい。
「ウ"エ"エ"エ"エ"ーーーーf"a"s"k"d"f"a"p"o"i"ーーーーーf"a"s"k"d"f"a"p"o"i"ーーーーーーッヒッヒf"a"s"k"d"ッウッウグッ!ズーーーー!d"f"a"p"o"i"ーーーーー!ッヒューッ…ア"ア"ア"ア"ア"ン!」
と、とにかく泣き止ませなければ。ど、どうすれば?
確か鞄の中にハンカチがあったはず。涙を拭いてもらおう。こっちに悪意がないことは話せばわかるはず。
「ほ~らハンカチですよ~これ、涙を拭くもんだから、ね?分かるよね~、お兄さんもこんなにニッコニコだからねぇ~何も怖くないよぉ。欲しぃよねぇ。」
「f"a"s"k"d"f"a"p"o"i"ーーー!ッヒューーーーッ ッヒューーーーッf"a"s"k"d"ッf"a"s"ッf"a"s"ッf"a"ッゥ"ッゥ"ッウ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"ーーーーーーン"ッヒューーーーー」
…言葉通じませんでしたわ。
なんだかもう引きつけ?起こしてるような気がする。
もう相手のリアクションは気にしちゃだめだ。ガッと行って、バッと渡せば大丈夫だろ。
めっちゃ木の幹に背中押し付けてるけど木にしない。いや、気にしない。そんなに押し付けたら鬼の貌映っちゃいますよ…。
無理やりハンカチを手渡そうとして私気付きました。
この人手が石になってるんだった…。
…顔拭くことも出来ないんだ。
しょうがない、俺が拭いてやるしかないか。あー、すっげぇ興奮してる。もういいや、キリないし。ほら、もう、泣くなって。もー、鼻水ビチャビチャじゃないの。
「f"a"s"ッf"a"s"ッッッッグッフウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ーーーースゥーーーーーフウ"ウ"ウ"ウウウウウーーーーッヒグッヒッヒッフウウウウウウーーーーー」
だんだん落ち着いてきたっぽいな。ハンカチが効いたのだろうか。頭を撫でたのが効いたのだろうか。背中は撫でれなかった。木にめっちゃ寄りかかってるから…。いや、この状態でも俺から離れようとしてるからか…、傷つく…。
「お~~し。もう大丈夫だぞ~~~。な~~~んも怖いことなんて無いんだからな~~~」
「フウウウウウウーーーーーズアッフウウウウーーーーーーヒュアッフウウウウウウーーーー」
「よ~~しよしよし。大丈夫だよ~~~。怖かったね~~~。」
「フゥッフウッスーーーーーーフッフゥッフゥッスーーーーービーーーーッスゥービーーーーー」
よしよし。鼻をかめるようになってきたら大分落ち着いてきた証拠だ。
少なくともさっきのパニック状態からは脱したな。
昔こうやって妹を宥めてやったなぁ。…妹が10歳位のときだったけど…。
「スゥーーーーハーーーーースゥーーーーーハァーーースーーゥズッゥズッ」
!
このタイミングだ!
ハンカチをもう一度鼻に当てて!
「ビーーーーーーーー!」
もう片方!
「ビーーーーーーーー!」
大分こちらの意図が伝わってきてる気がする。あと俺が敵じゃないということも解り始めた感じ…かな?
あ、そうだ!鞄の中にサンドイッチが入ってたんだ!
これを使えば…よし。
ほーら、このサンドイッチはこうやって開くんですよ~、不思議でしょ~、袋も透明でしょー。
「フゥーフゥー?フゥーフゥー」
ほら!これをねぇ~?少ーしちぎって口に入れると…、なんと!食べられるんですよ!お姉ぇさん!
んまぁ~!こりゃなんて美味しい!
ん?いや、これって昨日買った奴だよな。…腐って…。
…。
だ、大丈夫だろ!食ってみた感じ変な匂いも味もしないし。うん。うん…、うん。いけるいける。美味しいわこれ。うん。
ほ~ら、こぉ~んな美味しい珍しいものが、もう!あなたの口元にぃ~?
「!」
よし!よし、興味を持ってる。俺から目を逸らしちゃいけないとわかっていてもチラチラとクラブハウスサンドにぃ。
そう。ここで無理やり食べさせちゃだめだ。口元ギリギリに持っていって、ストップ!これが大事よぉ!
あくまで食べるのは彼女。俺に敵意がないこともこれでわかってくれたんじゃないか?
お!?
警戒はしてるようだが、それでも顔を近づけて…。
「スンッスンッ」
まず匂いを嗅ぐのは良い選択ですよぉ。やばいのは匂いでわかりますからねぇ。
ゆっくり口を開けて…、ちょびっとだけ行った!
…よし、もうちょっと…もうちょっとだけ…食った!
しつこいくらいに噛んでるな。念には念を入れるのはいいことだ。
多分口の中でドロドロになってると思うけど。
お!?飲んだ…かな?
「……」
なんか難しそうな顔してるな。
まずかったかな?
でも一応サンドイッチは目の前に持ち続けといてやろう。だって目が釘付けだもの。
ホントは食べたいんでしょ?いつでも食べてどーぞってなもんだ。準備は万端よ。
お!?ゆっくりな動きだけど、もう一度食べようとしている…のか?
警戒している…んじゃないよな。あれは…そうか、体がうまく動かせないのか。じゃあもう少し近づけてっとぉ!
結構ガブリといったね。結構口大きいし。ろくに噛んでないけど大丈夫なん?…後その勢いだと俺の指があったら大惨事でしたよ!!
たった2,3口でサンドイッチが一枚なくなってるじゃん。どんだけガッツくの。まだ有るから落ち着けよ。
3セット入りの奴だから他にも有るから。卵入り、ツナ入り、ポテトサラダ入りのどれがいいですか。ポテトサラダは今食べたやつだけど。はいはい。そんな物欲しそうな目をしないで。ほら、どーぞ。
ホントは俺が食べたかったたまごサンドどーぞ。はい。なくなりました。
ツナ入りどーぞ。はい、お粗末様でした。…ていうかこれクラブハウスサンドじゃないじゃん。かっこよさに引きずられて適当言ってしまった。
…デヴィがテーブルから落ちたソーセージを食べたときもこれくらいの速さだったな…。
まるでデヴィみたいな…。
…。
い、いや、まぁ良かった。これだけガツガツ食べれるってことは、まだ元気ってことだろ。
その表情は分かるよ。もっと無いのか?ってことでしょ?これ見える?空になったビニール。ありません。ごめんね。
また難しそうな顔をしてる。おでこにシワが寄っちゃうぞ!
あとは…、ほら、これペットボトルって言うんだけどね。わかんないだろうけど。蓋を開けて口に入れると、ほらこんなに美味しい水が出てきます。さっきの川で組んだ水ね。
はい、どーぞ。飲むでしょ?
「!」
今度は躊躇せず水を飲み始めた。
思い切りがいい。
…というかなんかもうヤケクソになってるんじゃない?これ。
こぼさないようにゆるく傾けてあげよう。
「ゴキュッゴキュッ」
サンドイッチよりも激しく体に取り込んでる。
夏の日の散歩終わりのデヴィ…いや、もうやめとこう。
やっぱ、喉乾いていたんだろうな…。
もう空だわ。早いねやっぱり。
さて、これからどうしよ…あれ?寝てる?
え!?早くない?え?
…満足して死んじゃった…とか?
い、いや…、大丈夫だ。
ちゃんと息してる。吐いた息が手にあたってくすぐったい。
…びびったぁ…。出会って数分で絶命とか勘弁してくれよ…。
まぁ、なんとか無事にやり過ごせたって感じかな。はぁ~~、助かった…。いきなり泣くのは勘弁してくれよぉ。
…あとゴミクズバエにはいつか必ず絶望を与えてやる。
この子に聞きたいことはあるけど、とにかく敵じゃないことをわかってもらえたからまずは良しとしよう。っていうか言葉どうしよう…。
とりあえず、失くなった分の水をもう一度汲みに行こう。
それと、果物ももう少し取ってこよう。
もう持ってきた食べ物はないから、この2つでしばらく乗り切るしか無い。
それと並行してこの浮島の探索をしよう。
何か役立つものがあるかもしれないし、他に人がいるかもしれない。とにかく彼女を助けてもらわないと。…でも多分だけど人はいない気がする。
気にはなっていたんだ。
血と泥が彼女が這ったであろう場所に残ってるけど…、この跡って途中で切れてるんだよね。
…いや、逆か。
彼女はこの切れたところから這ってここまで来たんだ。
じゃあ、切れたところまではどうやって来たのかって?おそらく飛んできたんだ。
羽を使って。
つまり…、なんていうか…、この彼女の背中に生えてる鳥みたいな大きな羽はなんだ?って話だよ。まるで人一人くらい問題なく飛ばせそうな大きさじゃん。
けど、片方は…見るも無残な姿になっている。多分ここまでギリギリで耐えてきたんだろう。もう、見るからに飛べなさそうだ。
ひでぇな…。相当本気で攻撃しないとこんなんならないでしょ…。
多分だけど彼女は何かから逃げてたんじゃないか?きっと、自分の拠点とかどこかに逃げようとしたんだろう…。
でもそれが難しかった。辿り着けないほど重症を負ってしまった。だから、しょうがなく隠れたんだ。誰も来れない場所に。
彼女は、たぶん、たぶんだけど、空が飛べる。そして、ここらは浮島だらけだ。しかも、どうやら常に動き続けてる。探すほうだって一苦労だろう。
そして何かから逃げてるなら、自分が逃げた先から情報が伝わってしまうことが一番恐ろしい。だから人がいないところに逃げるだろう。
まぁ、つまり…。ここには他に人はいない。そういうことなんだろう。
…やめやめ!こういう暗いこと考えると嫌んなっちゃうから!水も汲んだし、果物も詰め込んだし、この子はちゃんと寝てるし大丈夫でしょ。
あ、そうだ。薪を集めに行こう。ライターがあったから火はつけられるっしょ。
なるべく温めたほうがいいだろう。と言うか俺も寒くなってきた。昨日はそんなことなかったんだけどな。
結構周りに薪がいっぱいあるな…。なるべく集めておいたほうがいいだろう。他にすることもないし…、取り敢えず、日が暮れるまでやろうか。
あ~~…、疲れた…。
日が傾いてから焚き火を作ったけど、案外簡単に火はついたな。ライターがあってよかった…。父ちゃんありがとう…。まぁ、薪も大分乾燥していたようだし、そのせいもあるか。薪集めは本当に疲れたけど…。っていうか森の中で焚き火ってなんかいけないことしてる気になるな…。
火を絶やさないようになるべく大量に燃やすようにして…と。
…夜の焚き火ってなんか幻想的だな…。
日本にいた頃はアウトドアなんて何が楽しいだって思ってたけど、これを見るとキャンプとかの良さがわかる気がする。
不安でしょうが無いけど、火を見てるだけで安心する気がする。
あと暖かい。頭もまだ痛いけどそれも和らいでいくように感じる。
あ~…疲れた……。火ってチラチラして……いい………。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ア”ーーーーーー!ア”ア” ーーーーーーーーーー!ウ"ア"ーーーーー!!!」
…すごい叫び声。
昨日と同じ感じだな。
目が覚める前に叫んでいるんだろうか。
いや、なんとかしないと…。
「おい!大丈夫か!起きろ!どこか痛いのか!?」
起きない。っていうかなんか俺も変な感じ。
頭がズキズキする。気持ち悪い。
だけどどう考えたって彼女のほうが重症だし。
でもここまで何度も叫んで全く起きる様子がないってのもすごいな。…どれだけ苦しいんだろうか…。
彼女の手は…やっぱり石のように硬い。
頭を撫で続けるぐらいしか出来ることはないのか。
「大丈夫か…しっかりしろ…きっと大丈夫だから…」
「ア”ーーーーーーー!ア”ァ”ーーーー!ァ”ーーー ァー…」
「ァー………ァー………」
「スーーーースーーーーースーーーーー」
大分落ち着いてきたようだな。まだ夜が明ける前だからかな、規則正しい寝息に…戻ってる。うん。大丈夫そうだ。
…ふぅ。
…俺も体調悪いし、もう寝よう。
一応薪を追加して火を絶やさないようにしとこうかな。危険な動物がいるかも知れないし、暖かいほうがいいだろう。多分。
……なんだかな。…くそっ。火を見てると目がチカチカしてくる。あぁ、全然寝れないじゃないか。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ア”ーーーーーー!ア”ア” ーーーーーーーーーー!ウ"ア"ーーーーー!!!」
まただ。
また、これで起こされるのか。太陽の位置は…真上か。昼前か。いや、地球と同じ公転とは限らないのか?
…どうでもいいか。…うるせぇな。
頭がズキズキする。気分も最高だわ。こりゃ。
大体なんで俺がこんなことしなけりゃならないんだよ。
一体俺が何したっていうんだよ。
「ア”ーーーーーー!ア”ア” ーーーーーーーーーー!」
そもそもこの女の面倒を見る必要なんて無いんじゃないか?
俺はこの世界の右も左もわからない。赤ん坊みたいなもんだ。
そんな俺がなんで。
この女はこの世界のことは俺より知っているだろう。少なくとも彼女の年齢分は。
あんたが俺を助けてくれるべきなんじゃないのかよ。
「ア”ッ!ア”ッガッ!!ア”ア”! ア”ア”!」
…そもそもなんであんな血だらけでここに逃げてきたんだ?
血だらけ傷だらけで逃げてきたってことは、それ相応の何かをしたんじゃないのか?
正しいことをしてればこんなことにはなってないはずだ。
何か悪いことをしたからこんな風になってるんじゃないか?
「ア”ーー!ア”ーー!ア”ーーーーーーーー!」
…因果応報ってやつなんじゃないか?
何かの報いを今受けている所なんじゃないか?
だったら、俺が助けるのはお門違いってもんだ。そうだろう?
それ相応の報いってやつを受けるべきだろう?
悪いことをしたら、そうだ。罰を受けなきゃ。
「ア”ッ!ア”ッ!ア”ッ!ア”ッ!ア”ッ!ガッ!!」
そうだ、そうに決まってる。
今すぐ荷物をまとめてこいつの叫び声が聞こえないところに行こう。
食べ物も水も確保できる。オレ一人で生きてくだけならなんとかなるはずだ。
…そんな目で見るんじゃねぇよ子パンダ。
…だって俺が助ける理由なんて無いじゃないか。
「ア”ィ”ッア"ッィ"ッア"ッガッ」
…苦しそうだ。さっきは叫ぶ余裕があったみたいだが。今はそれすら難しそうだ。
「ア"ッ…ア"ッ…ック"ッ……mo…moni…che…moniche」
苦しそうに何かをうめいている。
人の名前…?恋人…か…?
モニーチェ?…と言ってるのか?いや、呻いているのか。
「moniche…」
彼女は…、あれは…涙、か。
「moniche……moniche……moni」
そんな子供みたいに泣いて、そんな苦しそうにそれだけを大切に繰り返して。
「…。…ほら、大丈夫…。きっと助かるから…。きっとすぐ良くなるから…。俺がなんとかするよ…。」
今回だけだ。今回だけ。もうちょっと、ほんの少しだけなら我慢できる。
別にやることだってないんだ。
大丈夫だ。きっとなんとかなる。
きっと。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
寝てた…のか?寝落ちってやつか…。
あ…、なんかムスッ!っとした表情した彼女と目があったんですが。
何よ?なんか文句あんのぉ!?
なんだよ、え?さっきは声を掛け続けたんだぞ?俺のお陰でなぁ…。
…あ、いや。そいえば、彼女を見捨てようとしたんだっけ…。
うん。やめやめ。こういうの良くないよ。
自分じゃどう仕様もなくなっちゃうときってあるよな。病気だし。しょうがないさ。
昨日拾ってきた果物を切り分けよう。切れそうなものが…バター用ヘラしかないわ。
これ…全然切れねぇ…。当たり前か…、そもそも…切るもんじゃ…、ねぇ!し。
きったないけど、まぁ…いいでしょ。
そんな不機嫌だか不思議だかわからん顔をしないでくれよ。そんな顔見たことないわ。器用だね。
ムスッとしてる割にはよく食べるんだよなぁ。口元に持っていったらパクパク食べるし。もちろん俺も食べるが。
二人で果物二つか。結構サイズが大きいから食いでが有るな。ほら、水も飲めよ。
俺は川まで行って飲めばいいし、全部飲んでいいよ。
「kariche…」
これは、わかる。多分ありがとうと言っているんだろう。根は真面目なんだな。怪しい男だが、やってもらったことにはお礼を言う。…まぁ、立派じゃん?
…そっぽ向いて不機嫌そうに言わなかったら完璧だよ。
…ありがとうって言ったんだよな?
んじゃ、全部無くなったし、新しく水を汲んで来ますか。
ん?…いやいやそんな不安そうな顔すんじゃないよ。
見捨てられるとでも思ってるのか?そんなこと無い…と胸を張って言えないのが恥ずかしい。
「ほら!これペットボトル。空だから!ほら、向こ~の、川の、水!これに入れて!またゴクゴク。ね?」
お?通じたか?少し安心してる感じがする。え?またムスッとした表情に戻ってんだが?
せめて笑顔の一つでもよぉ…。
そしたらオイラ頑張っちゃうのによぉ…。
川に見ず組むだけの作業でもさぁ、こうやって適当な感じじゃなくてもっと熱入れて汲んでくんのによぉ。もぅフット~しちゃうょ…?
…しっかしこの川の水美味ぇな。すっげー飲める。っていうか生水ゴクゴクいっちゃってるけど、これって大丈夫なのか…。いや、もういいか。今更だし。熱湯で消毒とかどうやるんだっつー話。
あーあ、せっかく水汲んで戻ってもまたなんか睨まれるんだろうな…。
「ギュシwwギュシwwギュシシシwww」
あ、子パンダが彼女の膝の上で転がってるな。随分楽しそうじゃん。
彼女の方もなんか、口元が緩んでるしさ。
ちょっと雰囲気柔らかくなった感じ?
…かわいいじゃん。
お?こっち見た?瞬間にまぁーたムスッとした表情してさぁ…。…ちょっと焦ってたのは笑えたが。
はぁ…。なぁんでぇぇ…。
俺にも同じ表情してくれよぉぉぉぉぉ。
地味に結構傷つくな…。思春期の男子にそんな態度は取っちゃダメだろ。
ふとした時に思い出して傷ついちゃうんだゾ…。
…子パンダさんいいですねぇ、何か仲良さそうで。俺ら多分三人だけなんだから、三人が仲良くする必要があると思うんですけどぉ?ほら、こういうときは共通の知り合いである君がなんとかしなきゃいけないもんでしょ。お、子パンダこっち見た。よしよし、そうだよそれが君の役目だよ。
「ハーーーー……ッチ……」
おいう◯こぉ、おめぇー今舌打ちしたべぇ!?
…もういいや、なんかダルいし、奴にちょっかい出す元気もない。
今日は早いがもう休もう。
一応薪を足しておくか。寝てるときに火が消えたら寒いし、向こうは動け。
!!!!!ッ!!!!!
痛い!
頭がすごく痛い!
なんだ?これ?痛い!
頭がぐるぐるする!
気持ち悪い!
体の中がぐるぐるする!
立ってられない!座…ああ、だめだぁ!!!痛い痛い、とにかく体小さく!
食ったものが悪かったのか?!
子パンダてめぇ何かしたのか…?!いや、あいつもテンパってる…!
「ゲェェェェッ!ゲェェェェッ!」
気持ち悪い…!!!吐か…なきゃ…、出さなきゃ…。
あぁ、でもなるべく彼女に見せないようにしないと、気持ち悪いって思われる…。
でももうダメだ。動けない。痛い。
「ッッッィッッッツーーーー!!!!!」
「akapolisita!? Eroutsitacryaxhixihinne?」
彼女が何か叫んでいるような気がする…!
何?何言ってんのぉぉ痛てぇぇぇ!!!
「ウーーーーーーー!ウーーーーーーー!」
でも痛いもんは痛いぃぃぃぃぃぃイイィィいい!
彼女がて招きしているようなきがする…!
なんとかして…たすけて…!
いたい…!
なにかしてくれるの…!その手でなんとかしてくれるの…!なら行くから…!だからたすけて…!
ほら来たから…。たすけていたい。あぁぁぁ、痛い。い”た”い”!!!。
「golhagakuru! Hag! Komiu!」
なにかパンダになにか叫んでる…?
子パンダどうした…?おれのみぎ手引っ張って…。
わるいけど、今すごく痛いんだ。ちから入れてないと耐えられないから。
なに、おれの手がほしいの…?
じゃあ、しょうがないな。ほら、力を抜いてやるから、持ってけよ。あ、なに?かのじょのくびにもってくの?いいけどべつに。
ィィィィイィィイイイイ!!
どこかしら力を緩めるとその部分がすごく痛い。
また、力を込めなおしてしまった。動けない。
「Hag! Komiu!」
何をそんなにさけんでるの…。いたい。
手がほしいの?そんなに?
わかったよ。がんばるから、ゆっくりやらせて…、肩ね、肩にもってけばいいのね。
ごめんね。すこしでも痛みが和らぐからちからはいっちゃうんだ。思い切り肩掴んじゃってごめんね。
なんか、手の甲に生暖かい感じがする。
何をシたんだ…?
…。
……。
………。
…右手がブワワワーーーーっと…?し始めた?
なんだ?!うわ!気持ち悪!
…あれ?
…痛くない。
あれ?右手の感覚がゆっくりと全身に回っていく感じがする。
全身の痛みが引いていく…?
あ、でもなんか体の中から何か湧き上がってくるような感じもしてる。少なくとも、これは痛くない。
…痛みが引いたのは嬉しいけど、これってやばいんじゃない?
このまま進んでいけばなんとなくやばいようなきがする。
焦って彼女を見ると、必死な顔をして右手を振っている。
円を描くように何度も何度も。
俺も右手を円を描いてみるか…?
首を振ってる?違うのか?
どうやら違うようだ。
感覚はどんどん膨れ上がっていく。
右手はまだ回し続けている。
なんだ?何を伝えようとしている。
左手?俺のことを指さしてるけど…なんだ?
俺の方というか俺の体…を指してるのか?
右手はまだ回し続けたまま。
なんだ…?なんだ…?
回す?回るってこと?
よし。ほら!一回転!バレエダンサーみたいでしょ!何回もイケるから!
「dagud!! Achederassu!?」
叱られた。これも違うのか。
もう一回、もう一回集中してよく右手見て…、まん丸に回していない…!?
歪な型取りで手を回している…のか。
あの形は…俺の体の枠に沿って回してるのか?
じゃあ、もし近づいてみたら?
あ、やっぱりそうだ。石の手が俺の体をなぞるようにさすり始めたもん。
右肩から始まり右手右脇右足アンッ左足左脇左手左肩頭を通ってまた右肩へ。
これを繰り返している。
もうちょっとお願いしたいから、もうちょっとだけ考えて…はい、ごめん。
バレてたか。
でもそれでも懲りずに同じように俺の体を擦っている…よな。
なんだ?
ん?あれ?
この中から広がる感覚って、彼女の手に沿って少しだけ動いている?
これって動かせるのか?
自分で動かせるのか?
試しに…彼女の手に合わせるように回してみるか?この中の感覚を。体全体で。
お、お?
な、なんか、中から広がる感覚が、全て体の中で回っていく感覚に取り込まれていくような感じ。
「お…?お?おお!」
全身の流れが決まってきたのかわからないが、中から広がって爆発しそうな感覚はなくなってきた。
はぁ~~~~、こ、腰が抜けちゃった。も、もう立てない…。
彼女は…、もう緊張してる感じはしない…な。もう大丈夫ってことか。
でも、何でそんな何度も頷いてるのさ。
…ヘッタクソな笑顔まで浮かべてさ。
少し…、ほんの少しだけ、目元が濡れてる…?
…泣いてくれたのだろうか。俺のために…?
俺は彼女を見捨てようとしたのに…?
なんで…?俺のことキライだったんだろ…?
見捨てて、ほっとけばよかったじゃないか…。なんで…。
…。
…どうしても。
…よくわからないけどどうしてもそうすべきだ。
恥ずかしいけど、でも、何をおいてもしなきゃならない。
彼女の手を取って、その手に擦り付けるほどまで頭を下げなきゃならない。
「ありがとう…!ありがとう…! Kariche…!Kariche…!」
「!!」
今まで俺はこんなに真剣に人に感謝したことがあるだろうか。
地べたにつくほど頭を下げ、自然に出てくる涙も鼻水も拭き取ることすらせずに。
彼女がどんな表情をしているのかわからない。
でも残った方の手で俺の頭を撫で続けてくれた。
硬いし痛いしぎこちない。
でもずっと撫で続けてくれた。
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