第2話

糞、痛い。


 どれ位経った?マジで痛いんだけど。


 一時間?十分?一分?数秒?


 10秒が永遠くらい長ぇ…。


 あぁ…、こんな何も出来ないのかぁあぁあぁ…。


 …。


 …よし、よし。だんだん痛みが引いてきた。


 大丈夫、大丈夫。まだ大丈夫。


 落ち着け、落ち着け。まず落ち着け。


「ブシッwwwブシッwwwギュッシッシシシwwww」


 この眼の前で大爆笑している生物は何なんだ。


 月が2つあり、星空もあるとはいえ、どうやらここは夜の森。


 暗い。真っ暗闇じゃないが暗い。


 …だけど何故だ?


 こいつの姿がよく見える。


 大きさは500mlペットボトルの半分…位?…色は白毛が下地の黒い水玉模様。パンダみたい。全体的に丸っとしている。もし触ったら…なんだろうな…あんな感じ、家にあったクッションみたいな感じ。人をダメにするクッションだっけ?


 でもこいつに触りたくないな…。なんつーの?


 テレビに出てたり、人形だったりしたら、そりゃ、かわいいーってなったり、買ったりするかもしれんよ?


 でも、いきなりこんな生物が目の前に来てそんな感じにならんわ。


 …ぶっちゃけ言うとさ、正直不気味っつーか…キモいっていうか…。


 「ぅ~~~~~~~ぅぅぅううん。」


 あと、うざいんだよ、この音が。


 「ぷ~~~~~~~ぅぅぅぅ~~ぅうううぅ~~ぅぅ~~~~んん」


 どんなに愛らしい姿でも、羽が蝿みたいって、なぁ?正直生理的な嫌悪感?ってやつが…。


 正直気持ち悪ぷうぅんうんうんう”んう”んう”ん


 「あ”あ”あ”あ”あ”!!うるっせぇぇ!耳元でプンプンんよぉぉお!鳴き声も気持ち悪いしよぉぉォォ!!!」


 行け!こっち来んな!向こう行けオラァ!!


 死ね!死ね!畜生!何故当たんねぇ?!


 こんだけ手ぇ振り回してりゃ当たるはずだろ!


 こんな近くウロチョロしやがってぇ…!


 「…ゼェッ!ハァッ!ゼェッ!ハァッ!」


 …俺こんな運動神経悪かったっけ…?


 なんか体力も無くなってる気が…。


 …こいつは何時まで周りを飛び続けるんだよ…!


 「ぷぅんぷうんぷう”う”んうんうん。」


 …。


 「ぷぅwぅwううぅぅwwwう”wwう”wう”んwwww」


 …落ち着け…俺、落ち着け…。


 「ブッシwwうぅんギュッシwwwぅぅううう”う”んッシッシッシwwww」


 …。


 …よし!叩き潰そう!


 こいつが世の中から消えることは正義だ。こいつを叩き殺せば世界中で飢餓に苦しんでる人たちが救える。世の中の不幸も全て消える。あと、俺の気分も良くなる。


 よし!やる!


 殺す!


 オラッ!


 こいつッ!


 チョロチョロしやがって!


 遠くに行かないのだけは褒めてやる!


 コラッ!


 オイッ!


 フンッ!…何処だ!?


 ガッ!糞ッ!


 耳に息吹きかけんじゃねぇ!殺す!


 お?


 …息切れ…か?


 よし!ついに疲れたかぁ!手間ぁ取らせやがって!


 パン!!


 やった。殺ってやった。間違いなく叩き潰せた。


 よっしゃよっしゃ。


…よっしゃよっしゃ…。


 …ま、まぁね。


 ちょっとだけ、ちょっとだけね。


 ちょっと可愛そうだったかな。うん。


こいつは何も悪くなかったのに。虫唾が走るほど気持ち悪かっただけで叩き潰すっつーのもやりすぎたっつーか?


 …。


 …いや、同じ理由でみんなゴキブリ殺してるんだし別にいいか。


 …はぁ…でも俺の掌はきっとグロいことになってんだろーなー…。


 どうするか…。


 とりあえず地面に擦り付けて汚れを取ろう。


 あと、こいつの墓はそこにしてやろう。


 …うぇ~~…見たくねぇ…。


 …ん?


 あれ?


 掌に何か付いてる感触が…ない?


 あれ?


 一体?ん!?あれ?


 銀蝿野郎が…まだそこにいる?


 「ぅん!??あれ?ん?」


 おかしい。確かに叩き潰したはずだ。なんで平然としてるんだ?


 「ヒューッ ヒューッ ギュゥウオエッ ゴシェッゴシェッ」


 疲れはまだ取れていないのか…。


 …。


 …まぁ、ね?


 まぁ、さっきも少し可哀想だと思っちゃったし?


 こう眼の前で死にそうなほど疲れられてるとさ?そりゃ可哀想だって思うさ。


 はぁ…、ほら、しょうがねぇな…。 


 ほら、よかったら俺の手で休めよ。俺が手で包んで休ませてやるから、ほらこう言う風に体を包んで。


 パン!


 もちろん確実に叩き潰すためな。


 今度こそ間違いなく叩き潰せた。逃げ道は塞いでいたし、最後まで目は逸らしてない。


 絶対に目ぇ離すな…。


 ゆっくり開けて…。


「ヒューッ ヒューッw ゴショッww wwwゴッッスwwオショwオショw」


 …?


 …どういうことだ?


 触れないのか…?


 …よく考えたら叩き潰す時の手応えは全く無かった。


 …叩き潰すんじゃなくて、そもそもこのハエの出来損ないは触れるのか…?


 スカッ「ゴッショォォ…」 スカッ「ゴアッ…」 スカッ「…ンハーッハーッッシュッ」

 

 全く触れることが出来ない…。…っつーか変な声出すんじゃねぇよ。本当こいつ気持ち悪いな…。


 …なんていうの?


 …ホログラフに触ったときの映像?を見てる感じ?


 でも触りさえしなければ、まるで本当にそこにいるのと変わんない。


 匂いも、熱も、羽音も。


五感で感じる全てが伝わってくる。


 いや、正確には伝わってくる気がする。


 鼻に匂いは感じない。掌から熱は感じない。鼓膜に振動は伝わっていない。でも、確かにそれを感じている。不思議な感覚だ。


 …やっぱりこんな暗闇なのに色がわかる程姿形が見えているっつーのはおかしいよな?


 「パチッ」


 なんだこいつ?いきなり手ぇ叩いて…?


 「ゥンシュ!??ガゲ?ン?………ブゥッッwシュwブシュッwブシュッwwwwwヒーッヒーッwwwww」


 …こいつさっきの俺の真似して笑ってやがる。って言うか疲れてたんじゃねぇのかよ。息切れはどうした。


 こいつを叩き潰せないか…。


 方法を百通りぐらい瞬時に考え付く…気がするんだけど…。


 …ん?


 …待てよ?


 …こっちから触れないということは…向こうからも触れないのでは?


 …こっちに危険がないのであれば、全く問題なくないか?


 …。


 …なんだ、別にいいじゃん。


 はぁ~、なんかちょっとナーバスになってたわ。


 別に大したことないじゃん。


 …そうと決まれば無視だ無視!


 そうだそうだ!


 気にするだけ無駄じゃん!


 っていうか、そもそも幻覚という線を考えてなかったわ!


 幻覚じゃん!こんなの!こんな生物いるわけ無いもん!触れないし。


 ちょっと異常な環境になって、空気中の変なアレとか…ソレとかが作用しちゃったんだろ。


 そうと分かったら一旦寝る!


 ここは暖かいし、汚いのと煩いのを我慢すれば寝れないことはないだろ。


 このあたりを散策して人か街かを探すって手もあるけど…、ダメだ。


 …正直めちゃくちゃ暗い。月明かりはあるが、森の中のせいかほとんど真っ暗だ。


 こんな中歩き回るのは危険しか感じない。


 …というよりも、もっと根本的な問題だ。


 怖い。


3m先が全く見えない状況は初めてだけどこんなに怖いとは思わなかった。


 こんなところを動き回るくらいだったらこの場に留まっていたほうがいい。


 とりあえず寝床を用意するか…。


 この木の根元の小石を除ければ寝っ転がれるか?


 …結構土に埋まってるな…。


 はぁ…俺何やってんだろ…。


 …。


 …ん?なんだ?パンダちゃん何か用かな?


 ふふっ、幻覚とわかるとこんな生き物にも優しくできる気がするな…。


 …よく見たら結構かわいいじゃないか。


 きっとこれは俺の寂しさが産んだ幻覚なんだろう。


 そう考えれば、俺の脳みそも粋なことをしてくれるじゃないか。…センスは疑うけど。


 もう寝たいんだけど、何?


 なんかクルクルと回って…?


 なんだなんだ?


 …ひょっとして俺を慰めてくれるのか?


 …よく考えてみたらさっきまでの態度だって俺をリラックスさせようとしてくれてたのかもしれない。そう考えると、なんとも愛しい奴に見えてくるから不思議だ。


 ん?どうした?回転止めて。


 何処見て…向こう、藪の…向こう側を見てるのか?


 「…ギシ…ッヒ……ンゴク…」


 …何かいるのか…?こいつがこんなに怯えているってのは…、結構やばいのか?


 …いや、よく考えてみろよ。


 こんな森に真夜中だ。危険な生物に襲われても不思議じゃない。


 ライオンじゃないにしても、ヒョウとかはジャングルの生物だって聞いたことあるし…、ゴリラなんかに襲われたらどう考えても死ぬ。


 落ち着け…、静かに…。


 ゆっくり…腰を浮かして、何時でも動ける姿勢に…。


 いつでも逃げられるように…踏ん張れ…。


 静かに…手を地面に付いて…前傾姿勢が良い…多分、すぐ動ける…。


 そして、向こう側をよく見ようとパンダちゃんの後ろからゆっくりと近づいた。


 まだ見えない。


 …スマホのライトとか使って驚かせてみるか?


 いや、やめておこう。まだ向こうがこっちに気づいていない可能性だってある。


 それなのにライトなんか使ったらこっちの居場所を教えるようなものだ。


 「…シーー…シーー…」


 パンダちゃんは緊張のせいかほとんど鳴き声が聞こえなくなっている。


 向こう側をもっとよく見ねば…。


 パンダちゃんギリギリ真後ろから覗く感じで。

 

 「ブゥゥゥーーーーブボッブボッッオッオ ブリュウッッ   ぷぅぅ~~~~~~ ぅ ぅ ぅ スゥーーーーーーーーーーーブっ ブッ ブっゥゥゥーーー!」









 この世で一番下等な生物の糞から生まれた屁がドブよりも臭いゴミクズバエに関わっている時間はない。


 寝よう。明日は体力が必要になるはずだ。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 チチチチ…


 …聞いたことのある鳥の声だ…。


 少し、いやかなり期待して目を開けたけど…やっぱり森か…。


 通い慣れた学校でも、自分の部屋でもないってか。


 今更になって、日本ではない所だって分かるなんてな…。


 …いや、まだわからない。


 昨日の月だって見間違いかもしれないし、謎生物も俺の脳が作り出した幻覚の可能性のほうが高い。


 普通に考えて月が2つもあるわけないし。人間生きてりゃ幻覚の一つや二つは見るだろ。


 アフリカの奥地に攫われた可能性だってあるし、ライアーゲームが始まる可能性も捨てきれない。


 …一応ここがどこなのかを確認した方がいい…よな?


 それに、水や食料の確保も必要になってくるかもしれない。


 あ!そうだ!俺カバン持ってたんだ!確か…、飲み物が…。


 えぇっと…カバンとポケットの中身は…。


・焼きそばパン

・サンドイッチ(3個1セット)

・濃―い!お茶(500mlペットボトル)

・ノート5冊(新品)

・国語・社会・数学の教科書

・筆記用具

・ライター(父親の)

・タバコ(父親の)

・パンにバター塗るやつ(パンにバター塗るやつ)

・スマホ

・財布(3237円)

・ティッシュ

・ハンカチ

・学校指定のジャージ上下(洗濯してない)

・腕時計(誕生日にねだったやつ)


 ふん…、食料と飲み物は少ないが、ある。


 特にペットボトルが助かる。これさえあれば水を貯めることができる。っていうかまだお茶も残ってるし。ラッキー。


 しかも、ライターだ。こいつはいい。これはファインプレーじゃないか?


 多分…、朝遅刻しそうな時に、一気にカバンに物を詰めたから机に置いてた物も放り込んだのか?


 親父のタバコとライターが入ってる。


 …これ学校で見つかったらやばいことになってたんでは…。


 い、いや!いい! 今はそんな事は重要じゃないし!


 あとは…、食べ物とお茶は腐らない程度になるべく少しづつ食べるか…。


 そして、水を探すことが第一。


 水さえあれば一週間は生き延びることができる…と聞いたことがある。


 その間に何か食べられるものが見つかればいい。


 誰か人が見つかればなおいい。


 言葉が通じない可能性はあるけど…、流石に、腹をすかせた学生がいるんだ。


 よほどの人じゃなければ助けてくれるだろう。

 

 なんとかなる。大丈夫だ。

 

 さて、どの方向に向かえばいいか…。


 …全く分かんない…。

 

 周りにでかい木があって遠くを見ることも出来ないし…。


 上を見ても青空しか見えない。


 …そうだ!棒を立てて影を調べれば方角がわかるはずだ!


 そしたら南に行こう。暖かい方向に行けばいつかは人に会えるだろ。


 早速棒を立てて影を…。


 …。


 …。


 …。


 ここからどうするんだっけ?


 影がさしてる方向が南なのか?


 でも太陽は動くし?東から上って西に落ちるから、今は西の方向を指してるのか?


 …漫画とかだと影で方向が分かってたような気が…。


 …。


 …わからないな。


 学校の勉強じゃなくてこういう知識をもっと集めてればよかった。


 俺が読んでいた本が全く役に立たない。


 可愛い女の子がいるわけじゃないし。親切になんでも教えてくれる人が都合よく現れてくれるわけでもない。


 …いや、考えてみたら当たり前か。


 そもそもこんなことが起こるなんて誰も思わない。


 日常生活でサバイバル本を必死に読んでたらそれこそ変人だ。


 自分でどうにかするしか無いのか。


 …いやどうにかって…、どうすんだよ…。


 …いや、もう考えてもしょうがないか…。


 よし!決めた!適当に行こう!


 その代わり途中でグネグネ曲がったりしたら迷って元に戻って来ちゃうかもしれないから、真っ直ぐ行こう。出来るだけ真っ直ぐに。


 うまく行けば何かしらにぶち当たるかも知れんし。この森を抜けられるかも知れんし。


 そうと決まれば早速行こう。明るい内に動いたほうが安全だろ、多分。


 聞いたことのある鳥の鳴き声を真似してるこのゴミクズバエは…、いいや、無視で。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 しかし、でかい木がめちゃくちゃあるな。


 歩いても歩いても途切れることなく巨木が乱立している。


 あまり、動物がいる気配はない。まぁ、動物の気配が分かるのかって言われたら分からないが。


 でも、獣道みたいなものは全く無いしな…。


 くそ…、雑草がそこら中に生えてるし、腰の高さくらいまであるし…、歩くときに本当に邪魔だコレ。


 しかし、進まないわけにも行かないし…。はぁ…草をかき分けながら無理やり進んでいくしかないのか…。


 …草薙の剣とか落ちてないかな…。


 制服が長袖長ズボンでよかった。進むだけで擦り傷だらけになっちゃう。


 破傷風とか怖いしね。汚いところで怪我したらなっちゃうんでしょ?


 舗装されてない道っていうのがこんなに怖いとは思わなかったな。


 草がめちゃくちゃあるからか地面の状態がわからない。


 少し窪んでるだけで足を取られて転びそうになる。


 途中から、肩ぐらいまである木の棒を杖として使いながら進んでる。


 途中で見つけたものだが、なかなか面白い形をしている棒だった。


 棒の先端に、きれいな丸い石がいくつもくっついている。


 この木の棒自体に埋め込まれてるのはソフトボールくらいの大きさの綺麗な石一つだけだ。


 そして、同じような綺麗な石がいくつも、その埋め込まれた魔石に張り付いている。


 これ、剥がそうと思うと、簡単に剥がれる。でも、近づけると再びくっつく。磁石みたい。


 …ただどう見ても磁石っぽくはないんだよな…。


 この丸い石が何個も連なっている。イメージとしては杖の先端が葡萄みたいな…感じ?…不思議な棒だ…。


 まぁちょうど杖にピッタリのサイズだったし、遠慮なしに使わせてもらいますわ。なんかかっこいいし。


 ボロボロの小屋みたいなところで見つけたけど、まぁ、まずはこの森を抜けよう。


 屋根も床も無くなってたからほぼ使えないだろうし。


 真っ直ぐ歩いてきたから戻ろうと思えば…多分戻れる。多分。


 いざとなればあの小屋で暮らしてかなきゃならんのかな…。いやまさか。そんなん無理でしょ。


 杖で地面を突きながら歩く先を確認して…気をつけて進まねば。


 これだけで進むスピードが段違いだ。


 まさに転ばぬ先の杖というやつか。


 やっぱり諺ってのは含蓄があるんだな。さすが長い時代を生き残った言葉だけある。


 まだまだいける…。そんな気がする…。

 

 もう、2時間ほど歩いているだろうか。


 正確な時間はもうわからない。スマホの電源は念のため切ってあるから。


 圏外だからすぐに使うことはできないが、いつか何かに使えるかもしれない。


 これほど進んでも地面を歩く動物にあっていない。


 しかし、鳥の声はよく聞こえる。


 カラスみたいな真っ黒な鳥が木に止まっているのは見つけた。ただし尾が1m位あったが。

 耳をすませば多種多様な鳥の鳴き声が聞こえる。


 「ア”ーーウ”ッ、ア”ーーウ”ッ」


 「ゥンイッチョゥオーーー、ゥンイッチョゥオーーー、ゥンイッチョ!」


 「ァーウットット、ァーウットット」


 「ギュシッw、ギュシッww、ギュシシシシシッw」


 「トーーーートトトトートートーートーー」

 

 途中多少不快な音も混ざっていたが、これだけでも沢山の鳥がいることがわかる。


 正直聞いたことのない鳴き声ばかりって気もするけど、じゃあ世界中の鳥の声を聞いたことがあるかって言ったらそんなことないし…。


 偶々知らない鳥ばかりがここに沢山いるんだろう。そうに決まってる。


 いや、もしかしたら知ってる鳥の鳴き声が聞こえるかもしれないじゃないか。

 

 「チチチチ…、チチチチ…」


 !ほら!これは雀?もしかしたら違うか?でも確かに日本で聞いたことのある鳴き声だ!


 どこだ?どこにいる?


 上!?…ではない。っていうかそんな遠いところから聞こえていない。


 もっと近くからだ、1~2mくらいのところに…、後ろか!


 「チチチチ!チチチチ!」


 …ゴミクズバエがニヤニヤ笑いながら鳥の鳴きマネをしてやがる。


 「…。」


 「チチチチ!チチチチ!」


 「…。」


 「チッチチーw、チッチチーw、チチww、チチwwwwwッギュシッwww」


 「…。」


 「…w」


 そもそもこいつはなんで俺に付いて来てるんだ。


 なんで俺を虚仮にする事にかけては天才的なんだ。

 

 「コーコケッ!コケッ!コケッ!コーコッコッコ!」

 

 ほら、これが聞きたかったんだろう?みたいな顔して鶏のモノマネをし始めやがった。

 

 「カァーーーーーww、カァーーーーーーwww」


 カラスのモノマネをしながら笑われると更にムカつく。

 

 「ホーーーwホケキョッwwww、ホケギョッォホッ ゴショッ ゴショッ ゥオッホッ」


 「…ップ」


 こいつむせやがった。ダッセェぇwwww。


 ダサ!ダッサァ!!ダッサ過ぎる!!wwwwばぁ~ッッか!!


 ゴミムシがプルプル震えながらうつむいてるw。

 

 「ホケギョッwwwwww ゴショッwwww ゴショッwwww ゥオッホッwwっwでしたっけwwww?」


 ここだ!ここで畳み掛けるんだよぉ!俺様の煽りテクニックは半端ねぇよ?

 

 うんこバエは頭を抱えてプルプル震えてやがる。


 俺はさらに攻め続ける。


 「カーーーーーwwww、カーーーーーwwwww」


 「コーコケッ!wwwコケッ!wwwコーコッコッコ!wwwww」


 鶏のモノマネなんて体全体を使ったパントマイムでの大攻勢よ。


 どうよ?お前のダッセぇ面を…。


 「ングーーーーー、ングーーーー、ングッ! ファーーーーア~~アア~~ッショ?」


 …鼾かいて寝てやがる。


 わざとらしく起きたあと、ん?終わったの?と言わんばかりのリアクションをかまされた。

 

 …いつかこいつを蠱毒にぶち込んでやる。キャン言わせたる。


 …いや、落ち着こう。少し腹が減ってるんだ。喉も乾いた。


 焼きそばパンは…半分位食べるか。ペットボトルのお茶も半分だけにしよう。


 …本当はもっと飲みたい。


 歩いてる時はそんな気になんなかったけど…。

 

 でも一口水を飲むと気づいた。思いの他喉が渇いてたわ。


 空腹の方はなんとかなる。しかし、喉の渇きはどうしようもない。


 こりゃ結構すぐに水が無くなるかもな…。


 でもここで全部飲むのは流石にまずいってことは分かる。ここはぐっと我慢せねば。


 …こういう生きるか死ぬかもしれないところで、自制心が働くと自分が成長した気になる。


 精神的にも成長してる気がする。鋼の精神は何事にも動じず、すべての物事に寛容になれる気がする。


 …よし。自己陶酔完了。


 ハエとり草にゆっくり溶かされながら息絶えるウンコゴミムシのイメージトレーニング終了。


 行くか。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 お?


 あれは?


 光か? 


 森が…途切れてる?のか?


 その先には木がないのが遠目にもわかる。


 少し高台になっているのか、丘の上に森があるのかは分からないが、きれいな空色が木々の隙間から差し込んでくる。


 良かった!これで森を脱出できる!


 正直うんざりしてたんだ。


最初の頃は正直ワクワクしてた。


未知のどこかを旅している、そんな気分になってたことは否定しない。


 でも、足元が見えない程に茂った雑草や倒れ込んできそうな位に大きい木、聞いた事もない鳥の鳴き声、うるさく飛び回るハエの羽音、俺の耳元で俺をガン見し続けるゴミクズ蝿、俺がそいつを見るとわざとらしくそっぽを向いてバカにしたように笑ううん◯蝿、無視するように努めた途端俺の耳元で「ッハー、ッハー」と過剰に息遣いをするゴミ饅頭の出来損ない蝿にはもううんざりだ。うんざりなんだよ!!


 しかし、それもこの森を出るまでの我慢だ!この森さえ出ればそんな問題ともおさらばできる。そうに決まってる。すべての問題はそれで解決する!


 早く、早く行こう。


 歩いて…いやもう少し早く…もう走ってしまえ。


 杖も…もう突かなくて良いだろ。だって森を抜けられるんだから。


 あと、もう少し。


 着いた!そこには大都会が広がって。


 広がって…。


 …。


 …。


 …。


 …分かっていた。


 …分かっていたさ。本当は。


 ここが住み慣れた街じゃないことも、学校や自分の家が無いだろうことも。


 父親にも、母親にも妹にも、もう会えないことも。


 森を抜けた先に青空が広がってる。


 傾き始めた太陽のある空にも、赤く染まり始めた地平線にも、草原が広がっていると思っていた地面にも青空が広がっていた。


 そう、この島は空に浮いていた。


 俺は異世界に来たんだ。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 疲れもあったのかな。


 さっき座ったらもう動くことができない。


 どれ位こうしてたかな…。


 ボケーッとずっとさ。


 何も考えないでこの目の前に広がる青空をみてたけど、時間を気にしてなかった。


 いや、もう日が暮れ始めていたから赤空というべきか。


 …どうでもいいか。


 何もする気が起きないし。

 

 水と…焼きそばパン…一口だけ食べよう。


 …節約しなきゃ…。まぁ、食べる気も起きないけど。


 そもそもこれ以上何も口に入れる気が起きない。気分も悪い。


 後ろの子パンダがいつものように俺を小馬鹿にしようとしてるが、気にする元気もない。


 ただただ目の前に広がる空を眺めることしか出来ない。


 眠いな~と感じたときにはもう真っ暗闇だった。…何時の間に…。


 風を遮る木々がないからかな?ここは少し肌寒い…。


 このまま寝たら風邪引くかな…。…心配してくれる家族はもういないんだ。気にすることも無いか…。


 いや、いるか。ここでない何処かには。


 心配してるだろうか。妹は…すっきりしてるかもな。


 …どうでもいいか。もう。


 疲れた。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 瞼の裏側が…眩しい。


 いつの間にか寝てたのか。


 太陽は…もう真上を過ぎてるか。


 日光が直接顔面に当たって、眩しくなって目が覚めたようだ。


 起き上がって…何かしないと…。


 でも、何をする?


 「ギュエッ」


 子パンダが地面に落ちてる。


 俺の頭の上で眠ってたのか。


 前みたいに鳥の泣き真似で起こさなかったのか。


 大分情けない格好で落ちたな。

 

 昨日までの俺だったら大爆笑してやったけどよ…なんか面倒くさい。


 少しつまらなそうな顔をしているのは…まぁいいか。別に。


 …喉がすごく乾いた。


 ペットボトルに残ったお茶飲むか。


 …少しだけ残しておくか。


 …。


 …やめた。


 残したからなんだって言うんだ。


 何もすることがないじゃないか。


 このまま森に戻るか?


 何のために?


 最初の位置まで戻って反対側に進むか?


 また一日かけて?


 もしかしたらここが断崖絶壁の端の可能性だってある。もしかしたら端に沿って歩けば何かしらあるかもしれない。


 でも、もう動きたくないんだ。


 ただ、目の前に広がる大空を見ていたい。


 昨日辿り着いた時は衝撃的すぎて観察する余裕もなかったが、こうしてみるとなかなかすごい風景だ。


 太陽は地球と同じ一つ。でも色がチラリチラリと変わる。青色…だろうか。いや、水色と緑が混ざった色だろうか。よくテレビで見る沖縄の海の色だ。たまに太陽がそんな色になってる気がする。


 空も雲も地球と同じだ。ただ、そこら辺に島が浮いている。大きい島。小さい島。中には、ただの岩石に見える様な物まであった。浮いてる島はゆっくりと移動している。基本的に大きいものほど遅く、小さいものほど早い。


 そして、浮いている島々の下には、大海原…と呼べるかわからないが海らしきものがあった。ただし、自分が見たことのある海の色とはだいぶ違う。かなり透明だ。おそらくこの星は球体なんだろう。地平線は少し丸みを帯びている。そして、その球体の中心行けば行くほど、透明から青に変わっていく。そして中心には黒い玉の様な物がある…様に見える。


 ぶっちゃけ遠くて良く分からない。そしてその透明な海に巨大な島が浮いている。いや、あれはもう大陸だ。ただ、海がすごく透明だし、島の下が星の中心と繋がっていないのはわかる。地球のように、地面の上に海があるのではなく、海の上に地面があるんだ。


 何もやる気が起きないが、この景色は少し綺麗だ。


 あの大陸に降りてみるか?…いや、無理だ。だって俺空飛べないし。


 ただ、やっぱりそうなんだなって。


 俺がいるここは、空に浮いている島の一つなんだなって分かった。


 あれだけ空に浮いている島があるんだ。俺のいるここだけそうじゃないと考えるのはいくらなんでも都合が良すぎだろ。


 …ここで死ぬのか。


 そういえば、似たような話を読んだことがあるな。ちょっとした親との喧嘩で無人島に家出した国民的駄目男、の○太の話が。


 ウン十年無人島で暮らしたあと、ドラ○もんに助けられて、体も少年に戻り、時代も少年に戻って元の暮らしに元通り。読んだ当時は、このまま助けが来なかったらどうするんだろうなんて思ってた。でも今は少し違う感想だ。


 あの優しい少年は、最初はなんで助けにこないんだとか色々怒っていたような気がする。でも、無人島で一人で暮らし続けていく内に、家族や友達のことを思い出しているばかりだった。ただ夕日を見ながら。


 俺もそうなるんだろうか。いや、そもそもそんなに生きることが出来るのか。


 …。


 …一か八か飛び降りてみるか。島が浮いているんだ、人間が浮いたっておかしくないよな。…例え失敗して死んだとしても…、…死ぬ時期がほんの少し早まるだけだろ。


 …やってみるか?


 ッあ痛っつぅ……!


 ?なんだ?髪が引っ張られてる?


 虫か?


 …なんだ子パンダか…。


 …鬱陶しいな。


 …向こう行けよ…、ほら、シッシ。


 …また引っ張って…。


 何だよ…。


 …ただ横に引いているのではなく少し上の方に向かって引っ張ってる?


 立たせたいのか?面倒臭せぇなぁ…。


 やめろよ!ほら!向こう行けって!


 …また…、今度は耳か。


 いい加減イライラしてきた…。


 ちょっとお前いい加減に。


 「ギュシ!ギュシーーーー!!!!」


 何だよ…いきなし…叫んで…。


 …怒ってるのか?


 …わかったよ…、立つよ…。


 何だよ次は…。こっちに来いってか?


 …はぁ…。


 崖の淵に沿って進めば良いのか?


 俺の先でギュシギュシ言ってるけど…。


 付いて来いってことか?


 …ダルいから嫌だなぁ…。


 …まぁ、いいか。ここにいても特にすることもないし。


 俺の歩くペースも格段に遅くなったな。…やる気がないからしょうがないんだが。


 奴に追いつくと、奴は少し前の方に進む。


 どうやらあいつは、俺をこの島の縁に沿って進ませたいのか。


 こいつはどこに俺を連れてきたいんだろう…。でも、後をついていけばいいってのは少し楽だな。


 何も考えなくていいから。

 

 もう俺を茶化すこともしないか。


 さっきからチラチラと見るなって。


 大丈夫だよ。ちゃんとついていくよ。


 しかし、よく疲れるなぁ。やっぱ帰宅部だったからかな。体力ないんだなぁ。


 だんだん頭も痛くなってきたような気がする。この島が高い所にあるから酸素が薄いのだろうか。

 

 はぁ…嫌な情報ばかり増える。 


 …。


 …?


 何か音が聞こえる?


 なんというか聞いたことあるような…。


 …!これは!ひょっとして…!


 落ち着け。でも、少しだけ早く…。


もう少しだけ早く進もう。

 

 子パンダを追い越したが、特に邪魔してくる様子もない。


 いや、そんな事はどうだっていい。


 あった!


 あれは…川だ!!


 これは…小川…か?


 俺の身長分くらいの川幅かな?


 川の水は…綺麗だ。すごく透明で、毒はない…よな、たぶん。こんなに綺麗なんだし。


 いや、もう我慢できない!!


 「……ブファッ!!」


 うまい!美味しい!水ってこんなに美味しかったのか!


 ちょっと髪が濡れちゃったけど、気にならないくらいうまい!


 髪っていうか、首から上全部が濡れてるんだけど、うまい!


 確か本当は煮沸したりしなきゃいけないん…だっけ?でも、そんな容器もないし。ライターはあるけど。


 とにかく飲もう、今は。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 は~死ぬほど水飲んだわ。


 少し元気になった気がする。余裕が出来たからかな。


 この川の水はこの浮島の端から流れ落ちている…のか?


 確認してみるか?


 めちゃくちゃ怖い…が、ギリギリまで端によって…下を…、崖の下を覗けるか…?


 …大丈夫だよ、もう落ちないからそんな引っ張るなって。


 お?やっぱり滝みたいにに水が落ちていってた。


 途中から霧のようになってて下に水が溜まっている様子はない。この島がかなり高いところにあるからかな?


 さて、次はどうするか…。


 ?なんだよ?また付いて来いってか?


 まぁ、いいけどさ。次は川の上流?また森の中かぁ…。


 でも、馬鹿にする感じもないし、なんか真面目に呼んでる感じだし、いいか。


 次はどこに連れて行かれるのか。


 …一応ペットボトルに水を汲んでおくか。

 

 川の周りにはあまり木が多くないな、進みやすくていい。


 …どれだけ歩けば良いのか。出来ればすぐ目的地に着いて欲しい。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 大分進んだな…。


 ん?子パンダよ、どこへ行く?そんな上の方に飛び上がっていっちゃって。


 さては俺に羽がないこと忘れてるな?


 勘弁しておくれよ…。


 いや?止まった?ホバリングって奴か?


 だいたい…2階くらいの高さ、か?


 なんだ?あれは?パンダの向こうに…何か実がなっている?


 あの木だけじゃない?他の木にも生ってる。いや、ここらへんの木全てにあの実が付いてる!かなり多い。いや、沢山だ。


 木登りなんかしたこと無いが、この木なら登れそうだ。


 ここらにある木はでかいし、足場にする部分が多い…。


 なんというか…かなり急な階段を登っているような感じだな。


 全然問題なく登れる。


 この実は…、リンゴみたいだ。赤い実だ。ただ、でかい。小さめのスイカ位ある。


 この島はなんでもでかくなけりゃ気がすまないのか。


 いよ!…っと。


 よし。採れた。


 …実を揉いだはいいけど、中身はどんな感じだ?


 いきなり齧りつくのは…、う~ん、ちょっと。


 食べた瞬間虫が一杯とか嫌だし…。一旦これを割ってみて中身の確認くらいしたいな。


 うぅん…、どうするか…、手では流石に割れないし、包丁もないから切れないし…。


 …そういえばパンにバター塗るやつがあったな。あれ使ってみよう。刃物じゃないけど。なんか刃物っぽいし。


 バター用ヘラをデカリンゴに突き刺して…と、グネグネ…捻って…こうやって…傷口を広げるように…抉るように…レバーを…。


 お!開いた!


 中は…白い実だ。触感としては梨…のような感じか?


 虫は…いない。よな?


 取り敢えず手についた液体を舐めてみるか…なんもないな。


 味は少し薄い気がする。でも甘みが感じられる。


 だけどそれを凌駕するすっぱみがあるというか酸っぱい。いや酸っぱいぞこれ。全然甘くないぞこれ。


 レモンほどじゃないがグレープフルーツぐらいの酸っぱさか?


 …でも腹には貯まるな。うん。全然いけるいける。


 いや、というかうまいんじゃないか?


 何より食料の残りを心配しなくていいのがいい。そこら辺に実がなってるんだから。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 …ッフーーー!お腹いっぱいになった!


 小パンダめ、やるじゃないか。今までのことはこれでチャラにしてやろうじゃないか。これからも俺の忠臣ンゴォ!


 ッ痛ッターーーー!頭になんか当たった!


 何々?何が当たったの?


 これは…、俺が食ってたのと同じ種類の実か?


 誰か落とした?


 …いや、俺に実を当てる奴って言ったら…。


 「ギュッシッシッシッシwwww」


 …最初っから取ってくれたらいいじゃん…。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 あいつなんかちょっとしつこくない?


 腹一杯になったから休もうとしたのにまたチョロチョロ飛び回るしさぁ。


 付いて来いってことなんでしょ?まぁ、世話になったから付いて来てる訳だけど。


 また森に戻るのか…。


 いや、子パンダについて行って困ったことは起きていないし…。


 まぁ、いいか。頭の痛みが取れていないが、さっきのことは許していないが、まぁ、いいだろう。


 言っとくけど、チャラにしたのは今までの分だけだから。


 俺にデカリンゴをぶつけた分と笑った分は許してないから。


 こいつの飛び方もウキウキしてるようにみえるのが非常にムカつく。


 もう着いて行かなくてもいいかな…、よく考えたら水も食料も目処が付いたし。

 

 付いて行かない理由もないが、付いて行く理由もない。


 いきなりここから全力で逆走したらどうなるだろうか…。


 バーカ!バーカ!と叫びながら逃げてみようか…。


 トランプタワーをいつ倒そうか迷っているときってこんな感じ。


 自分が作ったトランプタワーを倒されたらブチギレるが、他人のタワーは壊したくなるときってあるよね。いや、実際には壊さないんだけど、壊したらどういう反応なんだろうって…思わない?まぁ、着いて行くけどさ。


 ん?何かそこにあるのか?


 こっち向いてギュシギュシ言って…、下を指してる?


 ?


 ここじゃよく見えん。もうちょっと進。


 「どぅわっぷ!」


 …転んだ…。


 奴を見ると…当然大爆笑している。


 よし!付いていくのやーめた!あいつ無視するって決ーめた!


 っつーか何に躓いたの?危ねぇなぁ…。


 くそっ!ムカつく…。いや、落ち着け。こういう態度があいつを調子づかせるんだ。落ち着け…。


「ブッシwwwww、ギュッシwwwwww」


 集中しろ。絶対にやつの目を見るな。無駄なことに体力を使うハメになるぞ。集中して躓いた箇所を探すんだ。


 別に意味なんてないけど、こいつの思い通りにならないだけでそれだけで幸せ。


 ん?これは?


 細長い石…か?


 勘弁してくれよ、なんでこんな変な形の石がこんなとこにあんだよ、少し動いてんじゃん。


 ん?これは…布?模様が付いてる。


 いや、ていうか動く?


 …いや、まて、これ布じゃない。


 服だ。厚手の…ジーンズのようなズボンだ。麻…というんだっけ…?


 ズボンの上には上着があって、更にその上には顔があって…、目は閉じている。


 全身泥まみれで、傷だらけ、手足の先が石に…。


 「人…?」

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