カタリィ・ノヴェルちゃんとsexしないと出られない部屋

ぽん

僕達はsexがしたい訳ではない。

「自己紹介もしたくないわ」


 目の前にいる女の子は、確かにそう拒絶した。


 つい先ほど、目が覚めたらベッドだけが置いてある白い部屋に閉じ込められていた。

 おそらく日曜日の朝という事もあり、僕は出社しなくて済むから安心……いや、閉じ込められた事を他者に知らせる手段が無い今、無断欠勤で捜索されてた方が安全だったのかもしれない。


『ここはSEXしなければ出る事ができません。必要最低限の飲食物のみ用意しています』


 こんな紙ッペラにこれだけ書いて、高い天井の四隅にはカメラが設置されている。

 白、白、白、白だらけのこの部屋に、眼が痛くなるくらいカラフルな服装をした女性がいた。

 先に目が覚めていた彼女は僕を警戒し、ベッドを介して壁際に陣取っている。


「絶対にしませんからね!」


 彼女はそういうが、僕もそう思う。

 先程から「絶対にしないから!」と説明しているが、信じて貰えそうにない。


 部屋の隅々まで一応探索したが、自動扉らしき隙間が僅かにあるだけで、ベッドくらいしかない。

 ベッドの下には非常食。簡易トイレもあり、この場所をセッティングした野郎の性癖が嫌でも理解できそうになった。


 ……さて、ここまでが今の状況。

 彼女は怯え切っているが、ハッキリ言えば僕の方が怯えている。

 見知らぬ密室の空間に、今時のファッションなのかよく分からない、奇抜な服装をした女子高生らしき女性。


 もし警察がこの場に踏み込んだら、間違いなく僕は逮捕されるだろう。

 証拠や実刑が無くとも社会的に抹殺は避けられない。

 つまり、今この状況は僕にとって、彼女より最悪な状況であると断言できる。


「……名前だけは教えてくれるかい?」

「……自己紹介もしたくないわ」


 これが、今までで一番コミュニケーションがとれた会話だ。

 あんな服装で、あんな髪型で、この話の通じなさ。

 性格は陰キャに違いない。まぁ、僕も逆の立場だったら同じような態度を取っていただろう。

 まだ刃物を持ち出されていないだけマシだって話でもある。



 ……話を整理しよう。

 僕は普通のサラリーマン。

 この状況に、見覚えが無い。


 土曜日の夜、オンラインゲームをやって、25時には寝た記憶がある。

 そもそも、僕は普通だ。普通の独身男性だ。

 つまり、こんな意味の分からない摩訶不思議な状況に陥る道理がどこに無いという事。


 これを前提にして、彼女を見てみよう。

 芸能人のような服装、高そうなアクセサリー、特注としか思えない靴と帽子。

 明らかに金持ちの格好である。


 総合的に考えれば、僕は被害者であり、彼女は被害者であり、加害者である。

 これはもう間違いない。僕から見れば、間違いないだろう。


 ただ、問題が1つある。


『ここはSEXしなければ出る事ができません。必要最低限の飲食物のみ用意しています』


 この文章に、メリットが僕だけにしかない。

 宝くじに当たった記憶も無ければ購入した覚えも無いし、湖に斧を投げた事だってない。

 誰かは分からないが、僕に恩返しをしてこの状況をセッティングしているのであれば、余計なお世話と言ってやりたい所だし、怖いから本当に今すぐにでも出してほしい。


 どうしようもない。

 何もしようがない。

 何かする気も起きない。


 そんな状況が一時間くらい続いた頃に、スピーカーから声が響き渡る。


「カタリィ・ノヴェルさん、田中やすひろさん。いますぐにSEXしてください」



 ……ふざけた命令と共に、彼女の名前が明かされた。

 カタリィ・ノヴェル。

 成程、成程。これで全てが一致した。


 彼女は、外国人だ。

 日本語がペラペラすぎて見破れなかったが、今ようやく理解した。


 こんな部屋、日本人の感覚、センス、性癖に当てはまらない。

 どこかこう、なんというか、海外の住む大富豪が快楽を求めた先にあったモノみたいなのが、きっとコレなんだろう。


 だから、ようやく判明した。

 僕は被害者で、彼女は被害者でもあり、加害者でもあるのだ。


「……アンタ、やすひろって言うのね」

「……あぁ、君もカタリ……ノエルさん?」

「カタリィ・ノヴェルよ」

「……すまない、発音がよく分からないんだけど、ノエルさんでいいのかな?」

「そっちは苗字よ。普通はカタリって言うわ」

「……常識が無くて申し訳ありません。カタリさん」


 なんで僕が怒られているのかは、謎だ。

 謎すぎて頭が痛くなる。


「……で、カタリさん。この状況に見覚えは?」

「無いわよっ! ふざけないで! アンタが拉致監禁してるんでしょう!?」

「……親戚にお金持ちがいたりしませんか?」

「普通よ、無いわよ! お金なんて持ってないわよ! この変態男!」



 ……よし分かった。

 どうしようもない事が、よくわかった。



 ◇◇◇◇◇



 数時間が経過した。

 数時間が経過すると、何がしたくなるのか、誰もが知っているだろう。


 そう、トイレである。

 僕はもう開き直っておしっこをしたのだが、彼女はプレイドが許さないらしく、顔を真っ赤にしながら体をクネクネさせながら我慢していた。


「……そーゆープレイが好みな訳!?」


 ……みたいな、そんな視線を時頼コチラにぶん投げられながら、僕はもう片隅で三角座りをしている。


 ペラペラの紙を再度、眺める。


『ここはSEXしなければ出る事ができません』


 ……そもそも、SEXとはなんだろうか。

 何かの隠語じゃないのか?


 そう感じ取った僕は、コチラを見ている傍観者の感情を予想しながら、ある1つの作戦を思いついた。



 左端に彼女を、中央にベットを、右端に僕。

 このシチュエーションで、やるべきことはたった1つ。


 ベッドの上にある布団と帽子を組み合わせ、Eの形を作るッ!!!

 クネクネして我慢、いますぐ漏れそうな彼女の動作は自然とSを形どる!

 そして僕は、もう全てお手上げだ! という感じで、Xの字を作る!



「SEX! これがSEXだ! Japanese SEX! YES! 最高に気持ちがいい!」



 半ば狂気に身を委ねながら、飲み会のような一発芸を披露する。


「いやぁ!!! やっぱり変態じゃないのよ!!! もう帰らせてよぉ!!!」

「SEX! SEX! ヤハー! どうだ! 参ったか! 芸者! フジヤマ!」




 ……数秒後。




 ――「SEXを認識しました。出口をお通りください」




 僕達は無事に、脱出できた。




 ◇◇◇◇◇



 数日後、警察には連絡したものの、事件自体が無かった事にされたようで、何の進展も無かった。

 まぁ、驚きはしないし、今思い返せば日曜日のいい暇つぶしになった、と、前向きにポジティブに考えればなかなかいい思い出にはなったと思う。


「なぁ、次は何処に行こうか?」


 日曜日にお昼、遊園地で隣にいる彼女に話しかける」


「そうね、図書館なんかいいと思う」


 カタリさんは楽しそうに、笑顔で僕にそう伝えてくれた。

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カタリィ・ノヴェルちゃんとsexしないと出られない部屋 ぽん @pon_pane

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