79 暇乞い
「どうぞ上がってくださいな、騒々しいですけど」
促されるまま靴を脱いで上がり、廊下を進む。入ってすぐ右手に二階に上がる階段。次に居間があって人がひしめき合っている。それを通り過ぎた一番奥の部屋は、
「あのね、何ていうか、
「あ、いえ、様式については大体存じ上げてますから」
「そう。ちょっと顔がむくんじゃってるけど、許してやってね」
無言の
縦長の八畳間の中央に、菊乃は足をこちら側にして横たえられていた。
一希が入ってきたのを見ると、いささかきまり悪そうに目を
スム族には、死に化粧という習慣はない。亡くなった瞬間からの自然な変化を経た、そのままの顔だ。故人の顔を弔問客に見せるかどうかは、遺族の判断に
一希は畳に膝をついた。確かにだいぶむくんではいるが、父の時のように色が変わってはいない。眠っているよう、と言うにはやや無理があるが、そこにいるのは間違いなく菊乃だった。
菊乃さん、と呼びかけようとしたが、叶わなかった。あの抑揚にあふれた威勢のいい声が聞こえてくるような気がした。数えるほどしか会っていないのに、遺族の前で泣き崩れるのをどうすることもできなかった。
ようやく顔を上げた時、部屋中を巻き込んでしまったことを知った。誰もがうつむき、懸命に
ごく
居間を
菊乃の次男だそうで、
落ち着かない空気の中、一希は他の面々と挨拶を
やがて各部屋を回りながら、誰がどの車に乗るかという算段を始めたらしい。墓地に向かう時刻が迫っているのだ。一希は遠慮しようかとも思ったが、どうやら昭雄の妻が二人の幼い子供とともに残る以外は皆行くらしい。
物干し
「あ、はい」
なるほど。新藤は荷台の菊乃に付き添うつもりなのだ。固定してあるとはいえ、荷物のように放置するのは忍びないというのは一希も同感だった。
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