74 灯台
車は混み合った道を逃れて再び裏道を走り、間もなく海岸沿いの道に出た。
いつしか街の灯が遠ざかり、道も
「先生、ひと仕事って……こんなところで?」
まさか今からもう一件探査をこなすつもりでもあるまいが。
「ああ、まあ大した用じゃない」
新藤は灯台のすぐそばで車を停めた。
「もう閉まってる時間じゃ……」
「ちょっと待ってろ」
と降りていき、時間などお構いなしにドアを開いて中に声をかけている。しばしのやりとりの後、新藤は一希の方を向き、降りてこいと手で合図した。
行ってみると、灯台の中にいたのは年配の男性。背丈も幅も、新藤の半分ほどかという小柄さだ。丸首の白い肌着にスラックス。おそらく一日の仕事を終えて
「今ね、うちのがつまみ持ってくっから」
「つまみって……あの、どうぞお構いなく」
「ほら、上がった上がった」
上機嫌の
上り切って外に出ると、夕暮れの潮風が肌に心地よかった。祭りのお
「お知り合い、ですか?」
「まあな」
てっぺんのドーム型の部分を丸く囲む展望台を、新藤は伸びをしながら
眼下の岩場に打ち付ける黒い波を見つめていると、先ほどの灯台守が
「あっ、こんばんは。お邪魔してます」
「いらっしゃい。よかった間に合って」
と夫人も満面の笑み。
(間に合って?)
一希が首をかしげたその瞬間、
「おっきーい!」
と夫人の声。
「去年のよりでかいかね?」
「いや、近いんでねえか? ほれ、埋め立てだの何だので、打ち上げ場所も何かもめたじゃろ。まあ座んねえか」
と言うなり、率先して地べたに腰を下ろす。夫人ももんぺと割烹着のままそれに続き、コンクリートの上に直接、枝豆のタッパーやら袋入りのスルメやらを広げ始めた。茶筒を開けて一希に差し出しながら、顔は花火の続きを注視している。
「あ、すみません、どうも……」
茶筒の中身はおしぼり三本。一希は一つ抜いて残りを師匠に回す。新藤はすまし顔で受け取り、夫妻のそばに茶筒を置いて自分の分で手と顔を拭い始めた。
「先生、仕事って……」
「ああ、忘れるとこだった。後でこれを渡してやってくれ」
新藤の懐から出てきたのは折り畳まれた一枚の紙。「不発弾撤去作業に伴う避難・交通規制のお知らせ」とある。なるほど、来月予定されている安全化処理でこの辺りが避難区域になるのだ。しかし、もう二、三日もすれば同じチラシが自治体から各戸に配られるはず。わざわざ処理士が持参するなんて話は聞いたことがない。
(こんな口実作ってまで……私、そんなに物欲しそうな顔してたかな?)
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