72 多忙
檜垣は一希に対し、指示をするというよりは同じ立場で協力しながら仕事を進めるようなスタンスを取った。所要時間の見積もりから信管の腐食具合まで、あらゆる局面で意見を聞き、同意を求める。
新藤の弟子だからと気を
檜垣の仕事の助手を務めたことには、絶大な効果があった。新藤以外の第二の処理士が客観的に高評価を下し、作業の円滑な進行という成果を少尉が直接持ち帰ったことは、
以来、一希のもとにはデトンの信管抜きの補助業務や探査が続々と舞い込み、そのための打ち合わせや現場視察、準備などで「忙しい」と言えるまでに日常が様変わりしている。これもひとえに、新藤と檜垣の見事な連携プレーのお陰だ。少尉が立ち会うことになったのも、二人による
新藤はその後も、自分の仕事の
一希は、自分自身の力で仕事を取ってこられない現状に
初の女性補助士というただでさえ不利な立場。使えるものは使う、と割り切らなければとても生き残れない。先日菊乃に発破をかけられたこともあって、一希はようやくそう自覚しつつあった。
土間の壁にはついに一希のカレンダーを貼ることになった。新藤のカレンダーの隣。請求書や作業記録などは各々自分の分を管理するのが一番効率が良いという結論に至り、その形態が今や定着していた。
処理室での子爆弾解体もなかなかの繁盛ぶり。全国規模で見てもやりたがる処理士がほとんどいないため、たまたま重なりでもすれば、これでもかというほど集中的に送り込まれてくる。
家事は
「ロプタは?」
「はい、いつでも」
「じゃ始めるか」
「はい」
二人で処理室にこもる時間も増えた。一希が実物の解体に慣れるまでの間、しばらく新藤は監視に回っていたが、今では隣で同時に自分の解体作業を進めるようになった。一方が爆発を起こせば、他方も無事では済まない。一希にも、そのプレッシャーに耐えられるだけの自信が徐々につき始めていた。
一希も何とか防爆衣を一人で脱ぎ着できるようになり、新藤よりも幾分多めの休憩を挟みながら自分のペースで作業を進めている。一希が一人で処理室に残ることはできないため、新藤は一希の休憩の数回に一回をともにする方法を取っていた。
埜岩経由で遠方からまとまった数のオルダが届いた場合、新藤は可能な限り一度に多くを処理してしまう傾向があった。結果的に、作業は深夜に及ぶこともある。それを申し訳なく思って無理に付き合うなどということをしない程度には、一希もさすがに成長していた。
土間のソファーで仮眠を取る新藤を初めて見たのはいつだったろう。呼吸以外何もしていない丸まった体には、本人が普段まるで振りまかない愛嬌が
今日もソファーで少し寝てまた仕事に戻るパターンらしい。くるんと丸まってS字を描き、両膝の間に片腕を挟んだいつもながらの
一希が一時間後に見ると、ソファーは空だった。半開きになった台所の戸の向こうを
「先生、お食事は……」
「ん、後でいい」
そう言いながら、野苺だけは大量に消費する。最終的に皿の上に残った申し訳程度の二粒は、一応一希の分というつもりだろうか。気に入ってもらえたなら、一希としても本望だ。ちょっと奮発して甘そうなのを買っておいてよかった。
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