6  受注事情

 一希が口を開きかけたところへ再び電話が鳴った。新藤が車庫を閉め、電話を取りに向かう。


「はい新藤」


 先ほどの仕事が正式に決まったのだろうかと、一希は聞き耳を立てた。


「三十日木曜日の十四時……」


 新藤が壁に貼られたカレンダーに目をやる。黒と赤のマジックであれこれ書き込まれているが、丸だの四角だの、記号ばかりで一希には何のことやらさっぱりわからない。新藤は背後の机から鉛筆を取り、三十日木曜日のところに「14」と書き入れ、二重丸で囲んだ。


浜岡はまおか? ああ、二月の五百ん時の。まあいいんじゃないか? ……ああ。了解。じゃ」


 新藤が電話を切る。一希が戸口から尋ねる前に、答えが与えられた。


「仕事だ」


「今度は何ですか?」


「建設用地の探査だ」


と言ってかたわらの椅子を引き寄せた新藤は、ふと気付いたように一希を見やった。


「なぜわかった? さっきのデトンとは別件だと」


「だって、あれは街中まちなかですよね? 放置しとくわけにはいかないし、距離短きょりたんのことでお財布と相談しなきゃならない人たちが、処理士の選定から三週間も人員を割いて警備を続けるとは思えないし……わざわざ新藤さんを呼ぼうかっていうぐらいだから、処理前にどこかへ移すのも無理ってことですよね?」


 新藤は一希の眉間辺りをじっと見つめたまま、何やら考え込んでいる風だ。


「カレンダーの丸は探査ってことですか?」


 それに答える代わりに、新藤は向かいの椅子を指して言った。


「まあ座れ」


「えっ? いいんですか? すみません、お邪魔します」


 一希はドキドキしながら新藤宅に足を踏み入れ、おおせの通り椅子に座った。


「お前の読み通り、丸は探査だ。ちなみに、ただの丸は俺が勝手にやってる分。二重丸が軍からの公式要請。まあ、ここ数週間は見ての通り、決して盛況とは言えないが」


 確かに、今月のカレンダーには他の記号や二重丸と比べてただの丸が目立った。


「軍から仕事が来なければ自分で探しに行く。そうやって俺が見付けた分は俺の仕事になる。管轄基地の許可を得て処理すれば、軍予算から報酬も出る」


「探査にも補助士の方が付くんですか?」


 新藤が電話で復唱した浜岡というのが、おそらく補助士の名だ。


「俺んとこに軍から入ってくる探査の仕事は、大抵指導を兼ねての話だ。俺が勝手にやる探査の時も、誰か希望者がいないか一応埜岩のいわに確認を入れるようにしてる」


 一希は深くうなずいた。養成学校の卒業生たちも、補助士の資格を取ってからの実務経験には飢えていると聞く。処理士として一人立ちするまでは、現職処理士の仕事を追いかけ回すしかない。


「探査の結果、もし何も出なかった時は……」


「その土地に利用価値があれば、何もないとわかっただけでも意味があるってことで軍から報奨金が出る。しかし、報奨金対象じゃない場所からも結構な量が出てくるからあなどれなくてな。完全な無駄足に終わることは実際ほとんどない」


 といっても、闇雲やみくもに探してすぐに爆弾に当たるというほどではないだろうから、そこは新藤の経験から来る勘の賜物だろうと一希は推察する。



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