魔人事件簿
飛瀬川吉三郎
プロローグ 禍も三年立てば用に立つ
のうのうぼろうのうのうぼろうーーー
と、呪詛がそこから聞こえた。のうのうとは遅い、ぼろうとは仏を意味するらしい。
その場所は屋内からである、その屋内とは俗に獄中と呼ばれる。
のうのうぼろうのうのうぼろう。
呪詛が繰り返される。
法務省長官への不服申立てという制度がある。
その文面そのものではなく文面に呪いを込めるか、封筒の中身に収縮した蚤サイズの式神を入れるかで分かれる、文面そのものも天皇に恩赦か特赦しろと頼むようにお前が代わりに言えだから問題だが、そうして法務長官が法務省にその手紙を開けて見たとき起こる害悪とは何だろう?
ーーーがしゃくらす、がしゃくらす。
霧が消えるような掠れた声が続く。
呪いとは刑法上は『不能犯』である、気のようなモノで相手の首を締め殺すか?丑の刻詣りで心臓に痛みを与えて殺すのか?
のぉりとぉりゃせんよーーー
法という概念が滅茶苦茶になれば警察よりも探偵の法を重視するような世界にならざるを得なくなるだろう。
ーーー血潮とは等価、死とは異常、即ち、殺人とは非日常という入口の鍵だ。
黒幕、『仮称・魔人加藤』、後に『魔人王』と呼ばれる存在の最初の一手である。
その不服申し立てするのはこれが初めてではなく、既に数回されているのだった。
◆
その男をその街にいるのを認識したのは一人の男だった、元警察の人間であり、発砲をして殺人犯を殺してしまった時、自分が彼等と同じ存在に堕ちてしまったと思い込み、退職届を出した、今では落ちぶれてホームレスになっている、そんな彼の目の前を二回、裏路地に赤いパーカーの男が通りすぎた、それは一日で二回であり彼はそれを珍しいと思った。元刑事としての勘か?
彼が二回目通りすぎた時、何かを落とした、一見トランプを数枚落としただけに見えた、それらを赤いパーカーの男は拾ったが、一枚だけ広い損ねた、彼はもう一枚落ちているカードを拾った。
「……なんでこれが」
塔が描かれたカード。
これはアルカナカードと呼ばれるモノ。
数十年前、警察学校の頃に殺人鬼アルカナという劇場犯罪型の男がいたが、警察は彼の存在を隠滅して、報道規制をしいた、もはや犯行予告だけを繰り返した愚者に成り下がった男は自分の目の前で新潟県にあるバブルの時にたてられた高層マンションの屋上から飛び降りた。
「私は死ぬが、四年後ぐらいに死神になって帰ってくるぞ!」
アバウトな狂言自殺と生存予告は自分の中では五本の指に入る印象深いシーンで、その時もこの塔のアルカナカードは彼の死体の内ポケットから唯一見つかった遺留品である。
それを解剖医が何故かそれを欲しがったいたが、警察の誰かがそれを破り捨ててその辺の山奥に捨ててきたらしい。
日本は治安が良い国とされるが、実際はかなり治安が悪い、警察の人間としてバイアスがかかっているかもしれないが『異常犯罪』は許容範囲を越えるモノは大衆には知らされない、その許容範囲を越えるモノは実際に嘔吐してしまうような最悪なモノばかりだ。
あれはもう人間の所業ではない。
あれは。
「まさに悪魔のような人間でしょうね」
教会の懺悔室で殺人犯を射殺した事を懺悔した時、そこに立ち会った神父は言った。
「貴方は神に代わって断罪をしただけですよ、アベルはカインを殺して罪を得たがカインを殺してもアベルは罪になるのか?」
あの時、それは分からないが少し気持ちがスッキリした。
だが、今は違う。
俺は塔のアルカナカードを持っていると思いきや、人間の腕を握っていた、手首から先、肘から後ろはなかった。
「………ざっけんな!」
俺はさっきの赤いパーカーの男が犯人だと思い、激昂していた、腕を地面に投げつけようとしたが、懐にいれ交番の裏手に置いた。
その日、ホームレスから足を洗った、俺は奴を必ず見つけ出すと誓い探偵になった、そして、警察に隠滅されるべき
『異常犯罪No12467真剣師事件』
を知った。
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