モノカキアエルと本山らのというVtuber

橋場はじめ

第1話

「モノカキ・アエルです。本出して貰える聞いてVtuberバーチャルユーチューバー始めたんですが……なんだか騙されたような気がしてます」

 白い大きなリボンを頭に付けた少女は名前をモノカキ・アエルという新人バーチャルユーチューバーだ。可愛らしい見た目に、幼い外見、そして学生服っぽい服装という見た目だが成人済みだ。繰り返そう、成人済みである。

 今現在youtubeに投稿する自己紹介動画を撮っているのだが、中々思うようにいかない。それもそのはず彼女はシナリオライターであって、Vtuberは本業ではない。はんば強制的に会社からやらされているだけだ。

「そもそもアエルちゃん、シナリオライターであってVtuberじゃないから、しょうがないね」

【本出しませんよ?】

 アエルが開き直るとすかさずスタッフからそう声がかかる。

「ひどい。鬼っ、悪魔っ!」

【そうおっしゃると思いましてゲストを読んであります】

「ゲスト……?」

「こんばんらの! 本山もとやまらのです。本の山って書きますけど、ほんやまじゃないですよ?」

 そう言って唐突に現れたのはアエルとは違い、長身ででるところはでている落ち着いた大人っぽい雰囲気を持つ女性Vtuberだ。チャームポイントは眼鏡とキツネ耳である。そしてこちらは見た目と反して未成年である。なんと不条理なことか。

「じー……」

 そんならのをアエルは上から下までじっくりと見つめる。

「あ、あのー」

 困惑したらのは耐え切れずに思わず声をかける。

「眼鏡……巫女服……きつね耳? 尻尾ももふもふ」

「え? あ、はい。キツネです。普段はラノベを紹介する動画を作ってるんですけど、今日はアエルちゃんにVtuberの良さを知ってもらおうと思いまして」

【呼んでみました】

「呼んでみましたじゃないです。逃げ道を無くすとは卑怯ですね」

「あの……私もしかしてお邪魔ですか?」

 耳がしゅんと下にさがって申し訳なさそうにおずおずと話す。そんな姿が可愛らしいなと思いながらアエルは答える。

「あ、い、いえ。そんなことは。悪いのはスタッフなので。せっかく来ていただいたのでアエルちゃんにVtuberのこと教えてください」

「はい、分かりました。と言っても私の動画は他のVtuberさんとは違うのですが……それでもよろしいのでしょうか?」

「アエルちゃんはVtuberの前にライターなのです。だからゲームとかはやらないので、そのあたりは気にしないでください。それよりもチャンネル登録者数です! 登録者数がたくさんいれば書籍化して貰えるらしいので、そのアドバイスが聞きたいのです」

「ええと、登録者数を増やす方法ということでいいんですね……? それでは僭越ながら私が活動してきて思ったことでもお話させていただきますね」

 ――。

「なるほどです。正直Vtuberをやる気なんてなかったし、早く書籍化したいがためにやろうと決意したのですが……思いのほか楽しそうですねVtuber」

「あ、アエルちゃ……さん」

「アエルちゃんでいいですよ」

「ええと、それじゃあアエルちゃん。アエルちゃんの本がでたらコラボしましょう」

「ええー……。楽しそうだとは思いますけど、アエルちゃんはあくまでライターなので……」

【重版するためには宣伝も必要ですよ】

 あまり乗り気でないアエルの背中をスタッフが押す。

「うぅ。……こんにゃくで殴れば息絶える貧弱なライターを酷使するつもりですか、そうですか……でも重版して欲しいし続きも出したい」

【その前にまずはチャンネル登録者数増やさないと】

「分りたくなんかないですけど、分かりました。書籍化を人質にとるとは卑怯ですが、それでも約束は約束です。書籍化のためにアエルちゃんは頑張りますよ」

「その意気ですアエルちゃん!」

「それでは頑張るためにその尻尾もふらせてください」

「え……? い、いいですよ……?」

 これまでで一番目をキラキラと輝かせているアエルになぜが疑問形で答えると、アエルはすぐさま飛びつく。

「ふわふわもふもふだ」

「これぐらいで頑張ってもらえるならお安い御用です」

 らのは自分の尻尾に抱き着く年上の少女を温かい目で見つめる。

「……」

「……? ひゃっ!? ちょ、ちょっと、アエルちゃんそこは駄目ですっ!」

 尻尾に触れるアエルの手が段々と上昇していきスカートの中にまで到達したことを察したらのは、思わず黄色い声を上げる。

「あ、その尻尾の付け根の部分どうなってるのか気になって、つい。すみません」

「いえ、ただ驚いただけですので、そんな気にしないでくださいね。ただ、めっですよ」

 悪戯をした子供を叱るように優しく言うと、しゅんとしていたアエルはほっと安堵し再びらのの尻尾をもふもふと堪能し始める。

「……よし、充電終了。らのちゃんありがとうございました」

「いえいえ、未来の作家さんの力になるのも私のお仕事です」

「それでは小説家VTuberモノカキ・アエル、エナドリとポカリを足して割ってちまちま飲み続けつつストロングゼロを点滴しながら、頑張ります!」

「あははは……」

 やる気に満ちた表情に少しうつろな目をしたアエルがそう声に出すと、らのは思わず苦笑いしてしまうのであった。

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モノカキアエルと本山らのというVtuber 橋場はじめ @deirdre

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