第3話 解放

 職質につかまってしまった彼氏。

 持ち物検査をする警察官の目に止まったのは、財布の中にあった一枚のカードだった。




 * * *


 ん、このカードは……

 たくさんあるカードの中から、たまたま裏を見たらそこに彼氏の名前ではない文字が。

 ここは何か言われる前に先手必勝だ。

「あ、それいっしょに住んでる彼女のなんです……」

「彼女? 携帯に番号とか入ってる?」

「あ、はい。入ってますが、名前が違くて……」

「……どういうこと?」

 ちょっと怪訝な目。

 あ、やばいかな……

「あの、ええと、彼女が仕事で使ってる名前で、携帯にはそっちの名前を入れてあるので違うというか……」

 本当の話なのにしどろもどろに怪しい説明をしてしまう。

 彼女はペンネームというか芸名というか、そういうものを使う仕事をしているのだ。


 これは……

「ちょっと交番まで」フラグになってしまうのか!?


 ところが、

「この方に電話繋がりますか?」

「つ、つながります!」

 こうして、冒頭の「今、職質をうけてるんだけど……」に繋がるのだった。



 彼氏の説明が本当であることを警察官の方に説明する。

 だけどまだ解放してもらえない彼氏。

「あ、車の中もう一回調べさせてもらってもいい?」

 さっきとは別の方の警察官が車内を調べる。

 ライトで照らしながらシートの下とかを入念にチェックしている。

 あ、これ ……警察二十四時とかで見たやつだ。

 彼氏が妙な感慨を覚えていると、するとさっきまで彼氏に質問をしていたもう一人の警察官が、

「あ、ちょっと腕まくってもらってもいい?」

「? いいですけど……」

「薬物の跡とかないか、調べさせてもらってもいいかな?」

「……」

 本格的に薬物を疑われている……!!

 ていうか直球ですね……!

 両手の袖をまくると、ライトを当ててまじまじと見つめてくる。

 昔、血液検査をした時の採血跡でちょっと視線が止まるが、さすがにそれは違うと分かった様子。

「ありがとう。あ、トランクの中も見ていい?」

「はあ……」

 さっきも見ましたよね?

 トランクを開けて再び中をチェック。

 そこでチャイルドシートを見つけて。

「子供いるの?」

「いえそれはカーシェアの備品で……」

「そっか」

 話題にした割にはあまりチャイルドシートには興味がないようだった。

 だけど代わりにロッドケースの陰にあったトートバッグが気になったよう。見せてというのでうなずく。

 バッグをチェック。わんさか出てくる釣り用品。

「……本当に釣り道具だね」

 ほとんど苦笑気味。

 だから釣りだって最初から言ってるのに……!

 これだけやって何も出てこなかったからさすがに認めてくれたよう。

 車内検査(二度目)も終わり、警察官二人が並ぶ。

「うん、特に何もないみたいだね」

 ここでやっと免許証が戻って来た! 財布とかも受け取る。

 おかえり……!

「ご協力ありがとうございました!」

「それでは!」

 去り際はあっさり。

 やれやれ、また職質を受けちまったぜ……と思いながら車に乗り込む彼氏。

 後はバックで駐車スペースに入れるだけだからいつもはシートベルトしないんだけれど(後退時はシートベルトの装着義務は免除されます)、今回はいちおうする(小心者)。


 さてバックするか……と思ったら、 パトカーまだいるるるるる!!


(だからそこにいられると入れられないんですけど……!)

 しばし待つ。

 何で動かないのか聞かれたらイヤだな……

 というか何でまだ行かないんだろう? もしかして尾行しようとしている……?

 などと思うものの、


 少ししたら何事もなかったかのようにパトカーは走り去っていった。

 たぶん今の職質結果の報告とかをしてたんでしょうね……

 去り際にブレーキランプが何回か光っていたが、別に「アイシテル」のサインではないのだろう。



 その後、バックで駐車場に入れる。

 動揺があったのか、 四回やり直した。



 所要時間合計およそ 三十分。

 彼氏の熱い戦いはここに終わりを告げた(深夜一時半)。



 だけどこれは、これからはじまる彼とポリスメンとの死闘の、ほんのプレリュードにすぎなかったのだ。



 この後、彼氏から泣きながら愚痴をきかされたのは、言うまでもない。



 彼が職質を断わらないのは、ポリスメンの方々が一生懸命お仕事されてるからなんですが、そろそろ顔を覚えてあげて欲しいと思う、今日この頃。




次回:職質に遭いやすい人とは……!

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