第2話 職質開始!
話は、彼氏が車に乗って家の近くの駐車場まで戻ってきたところまでさかのぼる。
******
職質タイム
深夜一時、 パトカーが車の後ろに停車した。
乗っていた車の窓を叩かれる。彼氏が窓を開けると、そこには警察官二人の姿があった。
「こんばんは。こんなところに停車してどうしたの?」
「車を入れようとしてたんです。そこが駐車スペースで」
(……いやあなたたちがそこにパトカー止めるから、駐車スペースに入れられないんですけどね)
パトカーは、駐車スペースの真ん前にドン! と停まっていた。
そんなことはお構いなしに、警察官は質問をしてくる
「そうなんだ。どこに住んでるの?」
「すぐそこです」
「どれくらい住んでるの?」
「五年くらいですかね」
「じゃあ知ってると思うけど、最近このあたりでは危ない事件がたくさん起こっててね。悪いけど免許証見せてもらってもいい?」
彼氏の住んでいるこの街では、つい最近にテレビのニュースにもなるような危険ドラッグの事故が起こったばかりなのだ。
「あ、いいですよ……」
(まさかの車に乗っている時に職質来たか……!)
内心の動揺を隠しつつ、彼氏は警察官の言葉に素直に従う。
免許証を手渡すと、チェックが始まった。何やらライトを当てて裏表を見ているようである。
「最近免許取ったんだね。今日は何してたの?」
免許証は返してくれないままそう尋ねてきた。しかももう一人の警察官がどうやら本署に照会をしているようだ。
(最初から疑ってかかってるな……)
前科、とかそんな声が聞こえてくるし。
「あ、今日はちょっと釣りに……」
彼氏は釣りが趣味なのだ。
「へえ、どこに?」
「横浜です。八景島の近くで」
「この車は自分の?」
「いえ、カーシェアで……」
「ああ、シェアリングね」
ここで照会してた方の警察官が戻って来た。
「そうなんだ。あ、持ち物とか見せてもらってもいい? 降りてきてもらえると」
あれ、まだ免許証返してもらえない……
「はあ……いいですけど」
長くなりそうだ。
財布を持って車を降りる。
「トランクとか開けてもらってもいい?」
「いいですよ」
開ける。
「ふむふむ、なるほど……」
トランク内にはカーシェアの備品しかない。
ただ、後部座席には大荷物があった。
すかさず説明をする。
「あ、それが釣りの道具です」
ロッドケースやクーラーボックスなどで、釣りは意外と大荷物なのである。
「なるほど。ちょっと車内を調べさせてもらってもいい?」
猟銃とかも隠せそうなサイズのロッドケースにはあんまり興味がないらしい。
「あ、どうぞ」
一人がチェックを始める。
その間にもう一人が。
「ちょっと持ち物とか見せてもらってもいい? ポケットの中とか。何か持ってる?」
「あ、はい。ええと、これは家の鍵で……」
「服の上から調べさせてもらってもいい?」
「はい」
調べやすいようにと気を遣って両腕を上げると、
「あ、腕は上げなくていいから!(なぜかそこに過敏に反応)。ポケットはよし……後ろ向いてもらってもいい?」
「は、はい」
尻をチェック。
続いて胸ポケット。
「……何か入ってるみたいだけど」
「え?」
何だろう?
「出してもらっていい?」
「はい……」
何も入れてなかったはずだけどな……
首を傾げながら彼氏が胸ポケットに手を入れる。すると、中から出てきたのは錠剤だった。
空気がザワリとなる。
彼氏は慌てて説明をした。
「あ、ええと、 下痢ストッパです。お腹が弱いので持ち歩いていて」
「…… ああ、これ効くよね」
どうやら下痢ストッパをご存じだった様子。
危ない錠剤と勘違いされなくて良かった。
「財布とかも見せてもらっていい?」
「はい」
小銭入れやカード類を見る。見ながら雑談。
「船の免許も持ってるんだ?」
「あ、はい」
「これもやっぱり釣りのため?」
「はい」
「そうなんだ。今日は何を釣りに行ったの?」
「太刀魚です」
「船?」
「いえ地面、ではなくて……〝崖〟からです」
岸壁と言いたかったのになぜか出て来なかった。崖って……
堤防とか適当に答えておけばいいのに……
ちなみに行ったのは横浜の福浦岸壁という釣り人には有名な釣りスポットである。別に〝崖〟ではない。
「そんなところから釣れるんだ?」
怪訝な表情になる警察官。
まあ〝 崖〟ですからね……
「いや、署内でも釣りが流行っていてね……」
そのまま釣りトークにでもなるのかと思いきや、
「ん、このカードは……」
先ほどまでにこやかな顔をしていた警官の顔が途端に歪んだ。
次回:警官が見付けた彼氏の財布に入っていたカードとは!?
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