cent
このところ私は何かと噛み合っていないように感じる。何か悪いことでもしたのかな? 酷いことでも言ったのかな? こんなこと今までほとんど無かったのに……大学時代なかなか同性の友達に恵まれなかった時期はあったけど、降谷の元カノ
つかさちゃんはもうじきまこっちゃんと結婚する。そう言えば明生君も招待されてるのかな? これまで全然気にしてなかったけど、来月末に挙式する二人の話題がどうして出てこなかったのかな? 彼とまこっちゃんとは割と気が合っていた気がする。以前の番号と今の番号は違うものだから、契約そのものを替えているのは想像が付く。ほんの最近であれば順番に番号を教えていくはず、ただこの前のグループメールといい降谷の口振りといい、今の連絡先を知らないって感じだったのよね。
なら黙ってた方がいいよね? 私がとやかく言うことじゃないよね? もしかしたら私だけ“特別”に教えてくれたのかも知れないから。“特別”って何か嬉しい、自分を一番に気にかけてもらえてるように感じる。勿論家族に大事にはしてもらえてると思う、でもそれとは違った明生君の優しさ……比較するものではないけれど、今の私には彼の優しさの方が恋しくなっている。
彼に会いたい……そう思った瞬間、私は自分から彼に連絡を取っていた。
「ごめんね、誘っておきながら待たせてしまって」
私たちは○○市駅で待ち合わせし、駅の観光ホテル一階のカフェに落ち着いた。この辺りは正月明け頃に繁華街で火災があり、今でも半分くらいのお店がまだ営業再開に至っていないそうだ。
「全然待ってないから気にしないで」
彼は注文したコーヒーを優雅に飲んでいる。私はクロワッサンサンドとポタージュスープと何気にガッツリ頂いている。
「もしかして、予定とか無かった?」
「ううん、家で暇してたよ」
そっか、なら良かった。なんだけど、明日はきっと仕事だろうから本当はゆっくり休みたかったんじゃないかな?
「明日仕事よね?」
「うん」
彼は普段通りの柔らかな表情で頷いた。
「もしかしてゆっくりしたかった?」
「今もゆっくりしているよ」
そう? やっぱり顔色が優れないのがどうにも気になる。
「君から連絡をくれたのが嬉しかったんだ」
「えっ?」
「毎日でも君に会いたいと思っていても、君の都合を考えないのはどうかと考えてしまって。今日も君と話がしたくて何度もケータイを掴んでは置く、を繰り返していたんだ。只でさえ何度も着信を残していたからちょっとしつこくなるかなって」
彼は少し申し訳なさそうにそう言ってきた。私はその言葉にときめきを覚え、心が温まるのを感じていた。
「そう言えば憶えてる?」
明生君は幼馴染五人と、私たち腐れ縁七人と一緒に行ったキャンプの話を始めた。
当時は大学二年生で、確か県郊外にあるキャンプ場で二泊三日のお泊りキャンプをした。一泊目はテント、二泊目はホテルだったけど、大勢の同級生の交流はすごく楽しかった思い出がある。県外に出ていたまこっちゃん、ぐっちー、げんとく君も一時帰省し、既に就職していた有砂も休みを取って私たち腐れ縁も久し振りの再会となった。これまでも何度か交流会的に集まってはいたけれど、なかなか人数が揃わなくてちょっと心苦しかったんだよね。
それで明生君が皆が揃うよう計画を立ててくれて、一人で全ての手筈を整えてくれた。私たち学生組でお料理の食材を揃えたりはしたが、いざ現地に到着するとテントも調理具も火を熾す道具も何もかも揃っていて驚いた記憶がある。
「うん。でもよくあそこまで完璧に揃えられたね」
「全部レンタルだよ、知り合いに業者さんがいらしてね」
「薪とかは違うでしょ?」
「それは現地近所の木工工房で廃材を譲って頂いたんだ」
彼は時々こういった凄いことを平気でやってのける。小久保や亘理が言ってたように“由緒正しいお家柄”だからそれなりの資産をお持ちなのだろうか?
「そういう方たちとどうやって知り合うの?」
「……親戚にアウトドアを趣味にしている人がいて」
一瞬あった間が気になったが、ご親戚の情報が初めて聞けた嬉しさの方が勝っていたので深く突っ込むのはやめておく。
「私お料理で役に立てなくて」
うん、それを克服したくて自宅で練習したんだけど……この時期よ、家にある家電を破壊しまくったのって。
「それは気にしなくていいんじゃない? 前之庄君とか内海さんがお料理上手だったんだから。そんなのはできる人がやればいいと思うよ」
そう、明生君もお料理が出来るんだよなぁ。こうたや有砂がお料理が得意なのはちゃんと覚えてくれてるんだ、そう思うと嬉しいなと思う。
「武智さんだってそんなでもなかったんだし、女性だからお料理上手じゃなきゃいけない訳じゃないよ」
えっ? つかさちゃんお料理めちゃくちゃ上手だよ、栄養士の資格を持ってるはずだけど。
「そう? つかさちゃんのお料理上手はご近所でも有名よ」
アレ? 誰かと間違えてるのかな?
「へぇ。でも僕彼女の味付け苦手なんだよね」
そうだったんだ、当時は『良いお嫁さんになれるね』とかって褒めてたのに。
「ところで、『ご近所』って? 武智さん△△区に住んでるの?」
そっか、韓国に行ってた時期だから知らない可能性もあるのか。ってことはまこっちゃんとの結婚も知らないってことも十分考えられる。
「うん、まこっちゃん……後藤慎憶えてる? 彼と来月末に結婚するの」
「えっ? そうなの? 全然知らなかった」
やっぱり知らなかったんだ。まこっちゃんとは気が合ってたと思うんだけど、ひょっとして韓国の住所に送ったのかな?
「来月末か……実家にでも招待状が来ていれば行きたかったな」
「なら今からでも……」
「それは駄目だ、只でさえ準備で忙しい時にそんなことでお手を煩わす訳にいかないよ」
「だけど……」
それじゃあんまりだと思う。どうしてご実家に送ろうとしなかったんだろう?
「もしかしたら僕たちが顔を合わせることを杞憂したのかも。だとしたら仕方がないよ」
「……」
「二人なりの優しさだと思う、責めちゃ駄目だよ」
「うん、分かった」
彼はどこまでも優しい人だなと思う。落ち度のあった二人を一切責めず、むしろ気遣う態度を見せていて大人だなと思う。本当に人として男性として尊敬できる、こういう方とお付き合いできる女性は最高に幸せになれると思う。
「そうだ、テント張るの大変だったよね。風が強くて」
「そうだったね。けど夏絵ってテント張るの上手だったよね?」
ってか怪力なだけだったと言ってて悲しい。結局二人用✕六張分をてつこ、こうた、小久保、私の怪力班四人で張らせて頂きました。
「うっうん、ああいうの苦手じゃないから」
「でも星空は綺麗だったよね」
そう、風は強かったけど、そのお陰で雲が吹き飛ばされて満開の星空が見られたんだ。
「僕はほとんど君の顔を見ていたような気がするよ」
「えっ?」
「あの日の君はいつも以上にエロチックだったから」
ここでその話題はしないでほしい、思い出してしまうから。
「星空よりも魅了されたよ、君の香りに」
彼は私に向けて手を伸ばし、顎のラインにそっと手を置いてきた。どうしよう、当時の情景が脳裏をかすめて落ち着かない。やだ、久し振りに体が火照る。
「他の奴に見せたくないな、魅力的な君を」
「……」
彼の手は顎から首に移動し、うなじの下付近で止めてから顔を徐々に近づけていく。私は気恥ずかしさから直視できない。彼の顔はある程度の距離で止まり、物理的な進展こそなかったが私の本能は言えないような状態になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます